月が醜いですね
書き出しお題 「月が醜いですね」
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「月が醜いですね」 急にそう言った江藤君と、彼の真意を考える津田さんの話。
「月が醜いですね」
江藤君は突然満月を見て、安らかな顔で言った。暮れ始めた空に浮かぶ月は綺麗な円を描いているように思えた。そもそも月が昇るほど遅くなったのは、先程まで文芸部で創作した作品について批評をしていたためだった。そこでも、彼は辛辣な言葉を吐いていた。言われたうちの一人が私だったけれども、言葉はキツくても本当のことだったから受け入れた。他の皆も同じだと思う。そんな江藤君だから、これは単純な言葉じゃないと思う。
そう言えば、かの小説家夏目漱石は"I love you"を「月が綺麗ですね」と訳したらしい。その反対ということだろうか。愛していません。嫌いです? ……嫌われていたのか、私。
「えっと……、どこがって聞いてもいいかな」
「もしかして知ってた?」
「一応、私も文芸部だしね。それで教えてもらってもいい?」
江藤君は口をへの字にして、不機嫌そうに顔をしかめた。これが、いつもの彼の表情だ。月を見ながら言っていた時は安らかな顔をしていたのに、そのレアな表情は今や跡形も無い。
「そういう真っ直ぐなところが嫌いだ。君ぐらいだよ。書き上げた小説を毎回読んでって持ってくるの。少しくらいへこまないの」
「私は江藤君好きだけどなぁ。江藤君は本当のこと言ってくれるでしょう? 私にはそれがすごく嬉しいんだよ。今日だって、少し褒めてもらったし」
「別に、津田らしいって言っただけじゃん」
彼の拗ねたような声に、思わずふふふっと笑いがこみ上げてくる。彼がその様子をばれないように横目で見ていたことを、私は知らない。ゴホンと咳をして、江藤君は再び月を見上げた。
「月がき――醜いですね」
「私は今日の月綺麗だと思うけどなぁ」
「わざとか」
「へへ、でも月を見て純粋に綺麗だって思ってもいいじゃない」
彼は私の言葉に少し間をおいてから、こくりと頷いた。よかった。彼も月を見て、純粋に綺麗だって思える日がくるといいな。それから二人して月を見上げ、優しい光を浴びた。




