約束の二人
お題【さっさと結ばれてしまえ!/身体は彼のものでも、心は貴方のもの。/いつだって分かりやすい嘘を吐く】 http://shindanmaker.com/287899
前世の約束にとらわれる彼女と彼。
大嫌い。この世に運命なんてない。私が前世の記憶を引き継いで生まれたのは、意味あることだと思っていた。けれど、来世で一緒になろうと約束した彼はどこにもいなかった。目が会えば分かるはずだ。前世では私を慈愛の目で見つめて、優しく頭を撫でてくれたもの。
彼を探し続けていたある日、断れない縁談がきてしまった。伯爵である我が家は、公爵家からの縁談にYESとしか言えなかった。そして私は家族のために嫁いだ。私は初夜を迎えた時、旦那様に言った。「身体は旦那様のものでも、心は彼のものです」と。あなたは他に男がいるのかと怒り狂ったように私を抱いた。私は繰り返し言った。「身体は旦那様のものです」と。毎夜寝所で求められても、冷めた関係だった。私は人目のある場所では旦那様を大好きな方と呼んだ。いつだって私達二人には分かりやすい嘘をついていた。
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愛してると彼女が言うたびに、愛してないと副音声が聞こえるようだった。彼女は俺が前世で約束した男だと知らない。
『今世で、私と彼は出会ってしまいました。あなたとは一緒になれません。ごめんなさい。来世で会いましょう』
前世で約束した言葉を俺は一言一句覚えている。前世で俺は、来世こそ彼女と一緒になれるのだと思った。期待させておきながら残酷な女だ。今も彼女は前世の恋にとらわれているのだろう。いや、それを言うなら俺も同じなのだろう。俺は彼女の弟に話をした。彼女を愛しているからこそ、幸せになってほしいと思ったからだ。しかし、話が終わると彼女の弟は歪んだ顔をして笑った。
「君は何を言ってるの。前世で、君と彼女は来世を約束した。それを、僕が何とも思わないとでも思った? 僕と共に生きてほしくて、死んだら彼女は僕のものではなくなる。そんな不安に怯えてた。それでも、今世では彼女の願いを叶えたかったから、黙っていたんだ」
彼女の弟は、彼女が前世で結ばれた相手だった。前世、二人は心中したように見せかけて、海の向こう遠く離れた国で幸せに暮らした。俺は時折来る便りを楽しみにしていた。胸が痛むこともあったけれど、約束した来世を信じていた。前世運命の恋をした二人は、今世では皮肉なことに実の姉弟である。
「お前と彼女を見て、運命とはこういうものなんだなと、前世で俺は思っていたよ。お前は俺と婚約していた彼女をさらっていったじゃないか。今回もそうすればいい」
「そんなことしない。俺はもう、前世とは違う人間だ」
彼女の弟は深い息をついて、髪をくしゃっとかきまぜた。確かに、前世とは違って理性的になった気がする。
「ようするに、姉さんとあんたは話し合いが足りないと思うんだ。だから腹割って話し合って、さっさと結ばれてしまえ!」
彼女の弟が立っていた場所から数歩左にずれると、本棚に隠れるようにして彼女がいた。
「私、知らなかったわ。弟が彼で、旦那様が約束した人だったのね」
彼女は約束を覚えていた。彼女は前世で約束した男に申し訳ないと思っていた。婚約して、結婚間近だったというのに逃げ出したからだ。駆け落ちした先で幸せに暮らしたけれど、彼にも幸せになってほしいと思っていた。そんな悔いる気持ちから、転生してからは約束した男を待っていた。その待ち続ける想いはいつしか、恋になったそうだ。記憶の中の約束した男はいつも穏やかで、彼女はその記憶に思いを馳せていた。それが前世の俺だとも知らずに。
「約束をしていたとしても、 彼はあんな酷い女を愛するわけがないわ。来世を縛ったのだから。私は彼に会いたいと思いながら、いない現実を受け止めていた。一人で生きていこうと思っていたのに、旦那様は地位にものをいわせて私を妻にした。私はそれを憎らしいと思っていたけれど……約束したあの人が旦那様でよかった」
彼女は弟の頬をなでた。
「弟もあなたでよかった」
「僕もだ」
弟は小さく、もうあんな想いに身を焦がすのはごめんだと呟いた。俺は改めて彼女を見た。彼女は初めて真正面から俺を見た。
「今世でもあなたに酷いことをした女を、あなたは愛するの? 約束を果たしたいと思うの?」
「ああ。君と共に生きていきたい」
「会いたかった」
抱きついてくる彼女を抱きしめる。ずっと前から、前世のころから彼女を抱きしめたかった。
「俺も、会いたかった」




