表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
即興短編集  作者: 花ゆき
2/117

歪んだ女

【歪んだ女】

クラウドは暗殺者だ。そんな自分に憧れて、暗殺者になった女がいる。ある日、その女はとある人を殺して、「クラウド様、褒めてくださいますか?」と言った。その人物はクラウドと関わりの深い人物で――。


お題:元気な模倣犯 必須要素:義眼

「クラウド様! どうですか、どうですか?」


 尊敬の眼差しで自分に駆け寄る女がいる。手に持っていた血塗れのナイフから、殺しをしてきたのだと分かった。彼女は緋色の爛々と輝く目をした、自称弟子だ。俺が以前おこした殺人を、芸術的だと感激したらしい。いつからか、闇に紛れていた俺の後ろをついてまわるようになった。そして、殺しの度に今のはどうかと聞いてくるのだから、あきれるしかない。


「あー、いいんじゃねぇの」

「もう! クラウド様ったら適当なんですから! でもその卓越した暗殺術に追い付くには、どうすればいいんでしょうか? クラウド様のように義眼になれば、何か分かりますかね」


 自らの眼を、たかが憧れのために差し出すというのか。この女はイカれてる。この義眼をはめた右目が未だに疼くというのに、まったく無邪気なものだ。そして、俺が失った目を求めて人探しをしているだなんて、この女は知りもしないだろう。


「自分の目は大事にしろ。綺麗な目、してるだろ」

「まさかクラウド様に褒めてもらえるだなんて思いませんでした。でも私が義眼になれば、クラウド様は自分のせいだと責めるでしょう? 私が記憶に刻みつけられるでしょう? それなら、私は決して不幸なんかじゃないです」


 緋色の目を細めて笑う彼女から、薄暗い闇を感じた。






「クラウド様、褒めてくださいますか?」

「っ……な……、お前は、何を」

「うふふ。クラウド様の目を傷つけた女を、こうして殺しました」


 首を横に切るような動作をして、なんでもないことのように話す。彼女の目は闇の中でも不気味に緋色に輝く。思わず身体が震えた。この女は何だ? 俺が到底殺すことのできなかった師匠を、殺したのだ。卒業試験の日に、俺は目を失った。師匠を殺すことが俺の卒業試験だったのだ。今も殺せていない俺は、未だに殺し屋の見習いだと思っていた。その俺を形成していた師匠を、彼女は簡単に殺してしまったのだ。俺の獲物だったのに。


「クラウド様は鏡を見る度にこの女を思い出します。目が疼く度に、この女を探さなきゃと思っていたのでしょう? そんなのイヤですよ。クラウド様は孤高の暗殺者でなければダメなんです。だから、私がクラウド様の障害を取り除きました」


 怒りのままに、彼女を切り捨てたくなった。しかし、そうすれば彼女は喜ぶだろう。尊敬するクラウド様の手にかかることができたのだと、歓喜に震えながら息絶える彼女を容易に想像できる。そんなのはごめんだった。俺は、世間が彼女のことを『第二のクラウド』と呼び始めたことを危惧していなかった、俺のせいだ。これほどまでに力をつけているだなんて、俺の誤算だったのだ。俺に憧れて、この世界に入ったと言っていた。それが今や、とうに俺を超えているだなんて。



「クラウド様、次は私と追いかけっこしましょうよ。この人がもっていたクラウド様の目はここにあります。私を殺すことができた時に、お返ししますね」


 そう言って笑う彼女に、月の光がさす。どんな顔をしているのだろうと思っていたが、彼女は綺麗に笑っていた。狂気と憧れ、憎しみと恋情の入り混じった緋色の目で、俺を見ていた。俺はその感情を知りもしなかった。ただの暗殺術に憧れた女とだけ思っていたのに、違ったのだ。彼女は俺の揺らいだ目を見て、満足そうに目を細めて闇に紛れた。


「今から始めですよ」


 また、振り出しに戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ