私の主
貴方は『見てないけど』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517
ここから出来ました。
気配に聡い主と、そんな主を消しにかかろうとするメイドの話。(後味微妙です)
私の主は私の気配にすぐ気づいてしまいます。私が不服そうな顔をすると、これでも軍人だからねと笑いました。でも、主は私がわざと気配を隠していないことを知らないのです。
私は夜更けに主の部屋に忍び込みました。昼間とは違って完璧に気配を消しています。そして手首に仕込んだナイフで寝ている主の息の根をとめるべく、振り下ろしました。しかし、主は目覚めてしまいました。死人に口なしと言います。すみやかに排除しましょう。そんな私を主は抱きしめました。伝わってくる温かい体温に、主を殺そうとした事実を生々しく感じます。腕の中、テーブルに残されたティーカップを見つけました。主は私が用意した睡眠薬入りの紅茶を飲んでいませんでした。
「やっと、来たね」
私は何度も主の暗殺に挑んでは身をすくませていました。主はそれすらもすべて知っていたのだと感じました。
「どうして」
私をそのままにしたのですか。それに、気配は完璧に消したはずです。
「見なくても分かるよ。好きな子の気配だから」
私は主の腕の中、身をかたくしました。
「雇い主は兄様?」
耳元で尋ねる言葉に頭が真っ白になります。何もかも、バレていたのですね。
「沈黙も、肯定になるって知ってた? 駄目な子だね、誰が主か教え込まなきゃ」
強く握りしめたナイフを奪われ、寝台におさえつけられます。
「さぁ聞こう。君の主は誰かな」
「あなた様です」
「なら、君の髪を束ねるリボン貸してくれるかな。焼き払うからさ」
それはあの方との大事な思い出の品です。私はリボンを奪おうとする彼に抵抗しました。
「やっぱり、兄様からもらったんだ? 首輪で飼ってるのを見せつけられてるみたいで、不愉快だよ」
抵抗も虚しくリボンが奪われ、蝋燭の火で燃えてしまいました。
「あぁ、髪をおろすと可愛いね。大丈夫だよ。君に似合う首輪、ちゃんと用意するからね」
彼の狂気が灯った瞳に、私は籠の鳥になったのだと知りました。手から力が抜けて、ナイフが転がり落ちました。
「君の主は誰かな?」
「それは、あなた様です」
満足そうに笑う彼に、鳥籠のドアが閉じられたような、そんな気がしました。




