私のキー知りませんか?
魔術師の家系に生まれた者は皆魔術師か。否、断じて否!
この代々受け継がれてきた魔術師の血はうんともすんとも言いません。
そりゃあ、血に頼るなんて馬鹿馬鹿しいのかもしれない。それでも、魔術師は血統なんだよ。先祖代々受け継いできたものを私も受け継いでいかなきゃならない。それなのに私には魔力が感じられなかった。初歩の初歩で躓いているのだ。魔術師の卵が通う魔術院に入れそうにもない。
魔術は何らかの発動媒体により発動する。先祖代々の魔術キーから私のキーを読み解くしかない。
まず父、軟水が魔術キーとなる。毎日一リットル飲む必要がある。母は硬水が魔術キーだ。こちらは魔術使用前に200mlを一気飲みしなければならない。弟は果汁100%のオレンジジュースを適量床にたらすことで魔術が使える。また、祖父はアルヌスの山からとれた水で魔術を使い、祖母は血液から魔術を使う。
ここまでくれば分かる。うちの家系は水系が発動キーだ。すでに軟水、硬水、オレンジジュースめ妖精の泉の水も試してみた。何の成果も得られなかった。徒歩で妖精の泉に取りに行ったため、足が引き締まった程度だ。正直手詰まりだ。
❇︎
「薬草持ってきたぞー」
喉が渇いたので一階に降りると薬屋の息子ピートがソファに座って酒を飲んでいた。勝手知ったる幼馴染の家。ソファーに横に転がってふてぶてしい。
「仕事中くらいはお酒やめたら?」
「お前んとこで作る酒マジでうまいからなぁ。お前も飲んでみる?」
「未成年は飲酒禁止!」
「もったいない。こんなに美味しいのに」
そう言ってボトルを傾けて一滴残らず飲み干す彼は幸せそうだ。いつの間にか首筋はしっかりと男のものになってるし。
幼馴染にドギマギさせられたのが屈辱で彼の首筋を脳内から追い出すかのように配達された薬草を片付ける。
「お前ってまだ魔術使えねーの?」
「そーよ」
「ふーん。確か水系が発動キーなんだよな。……分かった! 小便じゃね?」
「最低。今私が魔術使えなくてよかったね。使えてたらボコボコだったよ」
そうだ。いくら昔より大人びたと言ってもこいつはデリカシーのない男だ。
「あのね、いくらなんでもそれはないわ。そうだとしたらますます嫁の貰い手がなくなるじゃない。恐ろしい」
「そうなったら仕方ねーからもらってやるよ」
「えっ」
「酒美味しいから」
「だよね!」
恋とかそういう甘いものを期待した私が馬鹿だった!
脊髄反射のように彼の右頬を打った。そしてポケットから出した緑の小瓶を机に置く。私は怒りに鼻息を荒くして二階に戻った。
「あー、何で俺はいつも決められないんだ。……あいつは相変わらず可愛いなぁ」
頰が腫れているはずなのだが男のにやけ顏は変わらない。彼は大事そうに緑の小瓶をあけ、右頬に塗っていく。幼馴染お手製の薬だ。
叩いてくるのに心配して薬をおいていくのが可愛くて仕方ない。酒の力で告白しようとして何回失敗したか。彼は肩を落として次の配達に向かった。
❇︎
あれからその……小便かもしれないと試してみたけど魔術は発動しなかった。よかった。発動したらどうしようかと思った。幼馴染の戯言を思い出したが頭を振って脳内から消した。
いよいよ魔術キーが分からない。
「入試はあと一カ月だが大丈夫か?」
「父さん。それがさっぱり分からないのよ。あいつはまた酔っ払ってうちに配達にくるし」
「そうか。まぁカリカリするな。魔術師たるもの冷静に」
口に放り込まれたものが甘く溶け出し、深い味わいを舌先に残す。突然体が熱くなる。これまで眠っていた魔術回路が目覚め、熱く身体中を巡る。自室の魔法瓶に駆け寄り、自身の熱を注いでいく。熱が冷めたころには魔法瓶がいっぱいになっていた。
部屋に入ってきた父が液体を舐めた。
「うん、いい味だ。お前にはまだ早そうだがな」
うちの家系の魔術師は魔術が目覚めた時キーとなった液体を生み出す。父の反応から嫌な予感がした。
「少しくらいならいいか、沢山飲むなら成人してからにしろよ。お前がうちの商売に加われば更に儲かりそうだ」
ペロリと舐めたら喉にカッときた。これはお酒だ。確かさっき食べたのはウイスキーボンボンだった。
「よりにもよってお酒ぇ!?」
「ピート君が喜びそうだな」
「あの呑んだくれなんて知らない!」
「おやおや、せっかくお酒強くなったのに」
「弱かったの?」
「コップ一杯で寝ちゃうくらいには」
「ふーん」
あいつの弱点を一つ知ったかもしれない。
「まぁ、あまり嫌ってあげないことだね。父さんを負かすくらい酒が強くない男にはお前をやらないよ」
「それ、相手いないじゃないの」
笑う私に父の目は生温かった。
❇︎
試験当日、私は多くのニキビを作り試験に挑んでいた。お酒が発動キーだなんて辛すぎる。そのため高カロリーなウイスキーボンボンを食べるしかなかったのだ。
「あら、今年のウォーターベル家の荷物は少ないのね」
「はい。去年は弟がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ。まだ幼いのに彼はとても優秀ですよ。魔術キーのスペースは沢山とりますが」
「オレンジジュースを樽ごと持っていってますものね……」
「ウォーターベル家の魔術師には毎回楽しませてもらっています。さぁ、貴方の力を見せて」
❇︎
試験に合格した私は晴れて魔術師の門をくぐった。これで正式に魔術師と名乗れる。
「お前ニキビできすぎじゃね? 合格おめでとう」
「一言余計なのよ! お酒コップ一杯で寝ちゃってたあんたに言われたくないわ!」
「えっ、何でそれをお前が」
「いい加減父さんにお酒で挑むの辞めたら?」
「えっ、ちょ、どこまで知って」
「お酒好きにもほどがあるわ」
「ですよねー!!」
私の魔術師生活はこれから始まる。
❇︎
おまけ
「また今日も負けた」
「うちの娘はまだまだやれんな」
「ちくしょう」
こっそり近づいていたら思わず声が出た。
「えっ」
「えっ、どうしてここに」
「だ、だって、いつも父さんと呑んだら二日酔いになるでしょ! その、……心配で」
(可愛い、なんて可愛いんだ!!)
「あの、さっきの本当?」
「おう。……俺はまだまだ親父さんには勝てないけど、お前が好きだ。嫁にほしい」
「そんな、急な。……とりあえず付き合う?」
「付き合う」
「かー! やってられん! 酒付き合え!」
あれは酒で潰す気だなと娘は察した。
即興小説トレーニングで書いたものに加筆しています。




