表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
即興短編集  作者: 花ゆき
114/117

1,2,3で、飛ぶ

 イライラする。やっと魔王を倒したのに、私は帰ることすら許されなかった。今、一緒に魔王を倒した王子との婚約を迫られている。


 そりゃあ、パーティメンバーとして一緒にやってきたから好きだよ? 旅の途中、彼が私に絡んでくるのは遊びだと思ってた。そもそも彼と私では背負うものが違う。私は帰るのを諦めていないし、彼も知っていた。その上で、彼と一夜を共にする仲になった。異世界の思い出にするつもりだったのだ。しかし、魔王退治から帰国すると彼は離してくれそうになかった。


「俺は国のために生きてきた。国のために交友関係を広げ、技術も伸ばしてきた。ヨウコも薄々気づいているだろうが君を好きだと言ったことも打算の一つだ。故郷へ向かう気持ちをこちらに引き止めたかった。君は割り切った性格だから遊びだと思って付き合ってくれた。分かってるんだ。それがいつしか変わってしまった。君は俺の前でだけ、恋人に見せる顔をするようになった。どんなに心乱されただろう。俺はいつしか、国抜きで君を愛するようになった。俺は君を手に入れるためなら、国の力すらふるうよ」


 彼に絆されなかったかと言えば、嘘だ。彼の国のために尽くす心を好ましいと思ったし、時々律しきれない情熱が宿った目には身を焦がすような想いで受け止めた。全て期限が決まった恋のつもりだった。


「嘘なの? 魔王退治したら、帰してくれるって言ったじゃない!」

「すまない。卑怯だと言われてもいい。君と別れたくない」


 繋がれた手に込められた力は、彼の想いを代弁するものだった。それが私には酷く重い。


「私に故郷を捨てさせるの?」

「すまない」

「いくらあなたでも許さない。だからそれは、今から後悔して」


 私はすでに決意していた。一呼吸おいて魔力を練り込み、足元に魔法陣を展開する。印は時の神、時刻は私が召喚された時間、場所は神社。私の勇者に選ばれた魔力と、この異世界に蔓延する魔力を元に、神社へ道を開く。


「ヨウコ!? やめるんだ!」

「もう遅い」


 勇者に教えることが許されなかった時の魔術。何故私が知っているのだろうと彼は思ったに違いない。異世界に一人落とされた私を哀れに思い、召喚した宮廷魔術師が教えてくれたのだ。彼ではあと十年魔力をためなければいけないから、もしもの時は君がやりなさいと。彼はこの結末を予想していたのかもしれない。そんなの必要ないと信じていた私を張り倒したい。


 私は逃げようとする王子を魔力の枷で縛った。視界は光で埋めつくされる。瞳を閉じ、心の中で1、2、3とカウントした。魔法陣の魔力は満たされ、飛ぶ。


 光が落ち着いたのでそっと目を開くと、馴染んだ木の匂いがする。神社に戻っていた。まったく、大学受験のためにお参りしたら異世界に召喚されて大変な目にあった。魔王討伐の月日はせっかく覚えた公式も頭から抜けていった。


 彼は文明が違う見知らぬ土地に目を白黒させていた。私は手をしっかりと握ったまま、魔力の拘束を解く。


「異世界転移ってすごい魔力消費するんだ。知ってるよね。私を召喚した彼ですら魔力がたまるまで十年。私は勇者だからそんなにかからないけど、まぁそれなりには時間かかるかな。それまで、私の故郷を満喫してね? 大丈夫。家には泊めてあげるから」


 自分でも邪悪な笑みを浮かべているのが分かる。それでも、私の人生を軽視されたことが胸の内にひっそりと宿る気持ちを踏みにじるほど許せなかった。


「……すまなかった。君に何て残酷なことを」

「まだこれからじゃない。私が向こうにいたのと同じ期間、こちらにいてもらうから。私の生きてきた世界を見て。蔑ろにしないで」

「……ああ」


 彼の罪悪感を刺激するように笑顔でたたみかける。これから、彼は私と同じように戸惑い、故郷に帰りたいと願うだろう。それでいい。当事者にならなければ、私の気持ちなんて分からなかったでしょう?


 王子は反省したように眉を下げ、繋いだ手に力を込めた。王子を一時的に失った彼の国は、もう異世界召喚をしないだろう。そう私は思った。

3日以内に14RTされたら『1,2,3で、飛ぶ』というタイトルで『ざまぁ』の話を書きます。 http://shindanmaker.com/485745

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ