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即興短編集  作者: 花ゆき
110/117

ねえ、言ってみて

短いです。

書き出し.me に重複投稿しています。

「ねえ、言ってみて。俺のことが好き?」

「ねえ、言ってみて。俺のことが好き?」


 女の子の言葉を男の子がそのまま繰り返す。


「可愛いけど違う! 『俺のことが好き?』だけ言ってみて」

「俺のことが好き?」


 これでいい? と傾げられた頭で彼女は追撃をくらった。


「あざとい、可愛い、つまりあざかわ! 小悪魔! 嫁にしたい!」

「お嫁さんになるのは麻耶ちゃんじゃないかな。いずれはそうしたいな」


 後半の言葉はあざかわに悶えている彼女へまったく届かなかった。



 そんな彼女によるあざかわ教育を受けた彼は、数年後に気づく。


 これって、どんどん恋愛対象から外れてないか?


 麻耶ちゃんが喜ぶからあざかわをやってみたが、どうも異性として意識されない。身長も力も彼女より上だというのにどこで間違った。


「麻耶ちゃん、好きだよ」

「その頭の傾げ方最高よ! 目の潤ませ方もばっちり!」


 鼻息荒く興奮され、告白も真に受けてもらえない。一番困るのはあざかわが身に染み付いてしまって、息をするようにあざとくなってしまうことだ。おかげでそっちにばかり麻耶ちゃんが反応してしまう。


 ああもう! 彼女に好かれたいからってここまでやってきた俺もバカだ! 麻耶ちゃんはあざかわな俺バカだ!


「麻耶、好きだ」

「……反抗期!? 反抗期なの!? お赤飯炊かなきゃ!」


 名前呼び捨てした上に告白して振り絞った勇気が反抗期扱い。俺、泣いていいかな……。




 彼女のうっすら染まった頬を彼は知らない。


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