村一番のヒーラー
彼女は村一番のヒーラーだ。しかし、彼女はそれを嬉しいと思っていなかった。理由はその回復方法にある。
下品、変態注意です。
レニエは母の誕生日祝いにプレゼントを買おうと村を出ることにした。辺鄙な場所に村があるため、収穫した野菜を売りに行く際や娯楽を楽しむには街へ行く必要があった。しかし、村を出ればモンスター避けの結界は役に立たない。収穫物を売りに行く大人に混じって、レニエは不安でいっぱいだった。不安に身をすくめる彼女の手を握る者がいた。幼馴染のヴェルノだ。彼女は手の温もりに勇気づけられ、歩みを進めた。
行く手を遮るように狼型のモンスターが現れた。子ども二人は後ろに下げられ、大人たちが手慣れたように剣を握る。村を出るには一定以上強いことが条件とされていた。ヴェルノも大人たちに混じって剣の訓練を重ねていると聞いている。そんな鍛えられた大人でも負傷して倒れることとなった。大人たちは時間を稼ぐから逃げろとヴェルノに彼女を託す。彼は分かったと青い顔で頷き、手を引いた。
彼も初めてモンスターにあったのだ。怖いに決まっている。幼馴染の珍しく引きつった顔に、私も足を引っ張らないようにしなければと思った。それなのに足が震えてしかたない。とうとう足がもつれて転んでしまった。スカートがめくれ上がって、パンツ丸出しになってしまう。よりにもよって、ヴェルノの前で。恥ずかしい。顔が上げられない。
「レ、レニエ……」
珍しく彼の焦った声がした。続いて、彼が剣を抜刀する音が聞こえた。まさか、もうモンスターが追いついたのか。
「レニエ。俺が合図したら逃げろ。いいな」
頼もしい言葉でありながら、とても不安になった。もう会えないかもしれない。
彼女が戸惑っている間にも狼型のモンスターは距離を詰めてくる。彼が覚悟を決めて剣を深く握った時、倒れていたはずの大人たちが揃ってモンスターを串刺しにした。
「待たせたな」
その姿に酷くホッとしたものだ。なぜかヴェルノはすねた顔をしていたが、大人たちが慰めていた。きっと彼も不安だったのだろう。
「レニエ、もしかしたらお前はヒーラーなのかもしれない」
「あぁ。急に体に力が湧いて、怪我が治ってたんだ」
「私にそんな適性が?」
「間違いない。何らかの行動がキーとなって発動したんだろう」
先程、転んだからかもしれない。下着が丸見えになって恥ずかしかったけれど、命にはかえられない。よかったと思うことにした。
それから、ヴェルノと街で選んだプレゼントを母は喜んでくれた。怖い思いをして村を出てよかったと思った。しかし、それからというものの不思議な贈り物が届けられるようになったのだ。
今日もレニエは清々しい朝日によって目が覚める。いつものように習慣となった門辺を確認する。寧にラッピングされた一輪のバラが置かれているのだ。それはよくよく見ればパンツだった。パンツをバラに見立てて包んでおり、広げるとレースのあしらわれた可愛らしいパンツだと分かる。
最初は嫌悪感しか抱かなかった。しかしパンツに罪はない。何の細工もされていないと分かってからは履くようにしている。タンスの引き出しにはバラのパンツが詰められていた。今ではパンツのバラの人に感謝しているくらいだ。そう、それはパンツにも気を使わなければならなくなったからだ。
モンスターと初めて遭遇してから、回復条件を調べた。ヒーラーらしいと分かり、街へ回復要員として連れて行かれた。そこでもモンスターと遭遇する。味方が傷ついていった。回復してくれという声に何度も転んだが、回復することはなかった。転ぶことで回復すると思っていたのだが、違うようだ。一向に回復しないため、ダメージが蓄積されていく。焦って思いっきり転んだ時、スカートがめくれ、周囲の怪我していたメンバーが全員回復したのだ。その時分かった。パンツを見せた時回復するのだと。何回やっても効果は同じだった。
その回復条件はレニエにとってあまりに恥ずかしかったが、村から街に移動するには危険が伴う。どうやって回復しているかはヴェルノに秘密にしてほしいと約束させ、移動に同行することを決めた。そのため、パンツにも気をつかうようになったのだ。
更に調べたところ、スカートめくりやズボンを脱がせると対象の怪我が治るらしい。村できわどい場所を怪我した子を治す際に分かった。否応なしに村一のヒーラーとしての地位を確立していった。
ああ、どうか……ヴェルノにだけはバレませんように。
レニエはヴェルノが街に行く時だけは同行しなかった。ヒールするようなはめになったら困るからだ。ズボンを脱がせば痴女扱い。パンツを見せても痴女決定。八方ふさがりだった。
「レニエ、今回は大事な用なんだ。頼む」
「でも、私そんなに凄いヒーラーじゃないのよ」
パンツで回復させるようなトンデモヒーラーなのだ。誇れるはずがない。
「レニエのお陰でみんな無事に街に行けてるんだ。凄いに決まってるじゃないか。今回の用だけは本当に大切なんだ。頼むよ」
彼女は根負けして、彼に同行することにした。極稀にモンスターと遭遇しないことがある。今回だけはそうあってくれと彼女は願った。その願いは虚しく、モンスターと遭遇する。彼と二人きりで村を出たため、ヴェルノしか戦う人がいない。彼は勇敢に戦っているが、傷も増えていっている。
「レニエ、ヒールを頼む!」
できるわけがない。頭をフルフルと横に振る。
「お願いだ! ヒールを!」
彼の腕に深い爪痕が刻まれた。思わずビクリとするが、それでも踏み出せない。あんなモンスターと戦っている場所に踏み込んで、彼のズボンを脱がせられるはずがない。それは大きな隙となる。それに、思いを寄せている彼のズボンを脱がすことなんて出来ない。
彼に増えていく傷を見て、彼女は決断した。羞恥に目を潤ませながら、スカートを持ち上げる。そう、パンツが見えるように高く。
「レニエ……!?」
彼が驚いた顔をしている。目がパンツに釘付けだ。唯一助かったと思ったのは、彼と街に行くと決まってからイチオシの勝負パンツに履き替えていたことだった。念のため起こした行動は彼女を救った。彼を白い光が包み、傷は回復する。すぐさま彼はモンスターを倒した。
「レニエ、その……」
彼が何か言いよどんでいる。きっと、いきなりパンツを見せてどうしたのかと言われるのだろう。それを彼に言われるくらいなら、自分から言おうと彼女は決意した。
「私、スカートをめくったり、ズボンを脱がしたり、パンツを見せないと回復出来ないの。だから、ヴェルノが言うようなすごいヒーラーじゃない」
とうとう告白した。いずれ来るだろう彼の蔑んだ視線が怖い。そんな思いに反して、彼は首をかいていた。何度か口を開き、とうとう彼は小さく言葉をこぼす。
「……可愛いパンツだった」
「ヴェルノ?」
「俺の送ったパンツを履いてくれているんだな。よかった。レニエが特殊なヒーラーなのは前から知ってた。だって、よくよく考えてみてくれよ。最初に力が発動した時、一緒にいただろう? それからレニエのパンツが頭に焼き付いて離れなくなったんだ。俺は考えに考えて、レニエにパンツを送ることにした。どうしても、俺が選んだパンツを履くレニエが見たかったんだ。……ずっとレニエが好きだった」
まさか彼と両思いだったとは思わなかった。
「ヴェルノがパンツのバラの人だったのね」
「ああ。いつもレニエのことを思って選んでた」
「パンツのバラの人がヴェルノで嬉しい。でも、最近ちょっと色っぽい下着ばかりじゃない?」
「見たかったんだ。レニエが色っぽいパンツを履いた姿を。今日見れるかと思ったのに……っ」
咎めるように視線をやると、彼はがっくりと肩を落としていた。
まったく、どうしょうもない人だ。
そんな変態でもレニエは愛しいと思った。積み重ねてきた年月と共に恋心も積もっていたのだ。
「それは、ゆくゆく……ね?」
「レニエ! 好きだ!」
二人は熱く抱擁した。そして手を繋いで二人は街に向かった。彼の大事な用、レニエの成人祝いの下着をセットで買うために。




