犬も食わない
「レジお願いしまーす!」と言ったら、嫌だと言われた。その理由とは。
書き出し「レジお願いしまーす!」
書き出し.meに投稿したものを修正してます。
「レジお願いしまーす!」
「嫌でーす!」
おちょくってるのか、こいつは。
レジにいる女性店員がぷいっと顔を背ける。今日は午前だけ授業だったらしく、珍しく昼が一緒になった。そこで昼食を買おうとしたら、このありさまだ。
「あんなに丁寧に教えたってのに、ずいぶんな態度だな?」
「自分でレジすればいいじゃないですか」
「それはダメだって知ってるだろ」
金銭管理は基本だ。買うときには他人にレジをしてもらうよう決まっている。一体、彼女は何を拗ねているのか。
「で、彼女サマは何にお怒りで?」
「昨日私の誕生日でした」
「悪かったって。お前だって知ってるだろ。やっと正社員に昇格したんだ。大事な時なんだ」
「遅くなってもいいから、一緒にいたかったんです。なのにバイトに入るまで電話もなくて、今日になってしまいましたし」
口を尖らせて俯く彼女の頭をポンポンと叩くと、彼女は手を払って睨みつけてきた。相当怒ってるな。ヤバいと思った時、目尻に溜まったものに気づく。涙だ。
「いつもそうやって! 私が怒ったら子どもを慰めるみたいにしますよね! いい加減にしてください! 私ばっかり拗ねて、子どもみたいじゃないですか……」
感情が高ぶったあまり、目尻から溢れる涙を指で拭う。彼女は小さく、また子ども扱いですかと呟いた。口を尖らせて、まったく。可愛いやつだ。
「子ども扱いはしたことないだろ。お前が一番知ってるくせに」
意味ありげに口角を上げると、彼女は顔を赤く染めた。
「セクハラです! それに、ここレジですよ!?」
「分かってるならさっさとレジしてくれ。今お客さんは誰もいないが、店長の視線が痛い」
「先輩のせいですからね!」
彼女は店長の視線に気づき、手早くレジに打ち込んでいく。手際よくなって、こいつも成長したなぁ。
「あ、これやるよ」
彼女にポイッと渡したのは鍵だ。不思議そうに見てきた彼女を直視できなくて、目を斜め上にそらしながら言う。
「俺の部屋の合鍵だから。今度から好きに使え」
「夕飯作りに行っちゃいますよ?」
「おう。……嬉しい」
ニッと顔をくしゃりと歪めて笑った彼を見て、彼女は照れて下を向いた。そこにゴホンと咳払いする声によって現実に戻された。店長だ。貼りつけたような笑顔が逆に怖い。
二人はそれまでの甘酸っぱい空気を消すように他人行儀に途中だった会計を終えて、彼は引き続き休憩をした。




