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魔性の勇者  作者: エディ
第1章
6/23


ユウナスのもとへと向かう途中、私は魔族に襲われた。

 対峙する魔物の剛腕が私に向かって突き出される。

 右に体をそらしながら回避するが、髪の二、三本が腕に巻き込まれてぷつりと抜けた。

 ――今、私の顔を狙ったわね。許せない奴。

 魔物の攻撃は一撃で人間を殺せるほど強力だ。でも当たらなければ意味がない。それに、そんなもので怯える私ではない。口には微かに笑みを浮かべ、魔物の懐へと一気に飛び込む。

 駆け抜けざま、左手に握った剣を魔物が振り下ろした腕に斬り入れる。

 ――チッ

 だが、返ってきたのは、剣が魔物の肉を浅く切った感触だけ。とても魔物に深手を与えるものではなかった。

 ――なまくら剣め!

 今握っているのは、あのとき使った近衛兵の剣ではない。近くにいた兵士から取り上げた剣だ。戦場で用いる剣なのに、魔物の体をろくに裂くこともできないとは、嘆かわしい。

 私は心の中で悪態をつきながらも、口の笑いを止めることができなかった。

 そのまま、魔物の懐に飛び込む。

 ――二コリ

 私が浮かべた笑みを、魔物の瞳が捉えていた。その瞳が激しく動揺しているのが見て取れる。

 ――恐怖しているのね。

 魔物が怯える様を冷静に見ながら、私は握った剣を魔物の心臓がある胸へ突き立てた。

 いくら鈍ら剣とはいえ、鋭い突きの一撃が体の中へと侵入する。

 ――グオオオォォォンンン

 魔物が絶叫を上げる。

 ――でもまだだ。心臓にまで、届いていない。

 この剣では、魔物の体を貫ききれない。

「雷撃!」

 私は魔物に視線を据えたまま、背後に待機している兵に命じる。その場からバックステップをとり、魔物から距離をとった瞬間、私の背後から雷の一撃が現れた。

 雷は、魔物の体に突き立った剣へと一直線に向かう。そのまま金属である剣に流れ込み、剣を伝って魔物の体の中へと侵入する。凄まじい雷撃の音と、高圧の電流によって肉が焼け焦げ、体中の血が沸騰する音と匂いが周囲にあふれる。

 魔物の体は駆け抜ける電流にガクガクと震え、やがて音もなく地面へと倒れ伏した。

 魔物が死んだことを見てとり、私はゆっくりと背後を振り向いた。そこには、エスト兵長率いる、私の戦友たちが揃っている。先ほどの雷は、この部隊の魔導兵が放ったものだ。

「閣下、お一人で戦われるのは危険です」

「あら、私があの程度のことで死ぬの?」

 私たちの前に魔物が現れた時、真っ先に突撃したのは、私だった。その姿を見ていたエスト兵長は、私の戦いぶりを褒めるより、口を酸っぱくしている。

「閣下が死ぬなどありえましょうか。ですが、あえて一人で突撃なさる必要もないでしょう。それに我々にも戦いを譲ってもらいませんとな」

 戦いを譲ってもらいたい。ニヤリと片唇を上げて、エスト兵長が笑っている。

 ――いい答えね。

 私の身を案じる程度の戦友はいらない。でも、譲ってくれというのはとてもいい響きだ。

「まったく仕方のない人たち。いいわ、あなたたちに戦いを譲ってあげましょう」

 私がにこりと答えると、エスト兵長は獰猛な光を目にたたえた。逞しい、歴戦の戦士の面構えだ。

 そんな私たちの元に、上空からさらに魔物の一体が飛び込んできた。

 私は咄嗟に傍にいた兵士が持つ槍を取り上げ、それを力任せに上空へと放った。槍は空中から襲ってこようとした魔物の左目に鋭く突き立つ。

「グオオォォォッッッ!」

 人間よりはるかに頑強な魔物でも、目は例外だ。片目を失い苦痛の雄叫びを上げる魔物。

 だが、私はそんな姿に同情する必要も覚えしない。

 魔物を掃討すべく、片手を上げて、戦友たちに命令を放つ。

「弓兵、目を狙え!」

 私の命令に即座に、弓兵たちが弦を引く。私は腕を上げ、そのまま無造作に、腕を振り下ろした。

 ――ピュッ

 ――ピピュッ

 ――ピュン

 風を切る音とともに、数十の弓が魔物の体に突き立つ。その一本が、見事に魔物の残った右目を貫いた。

「グオオオッッッ」

 魔物が再び暴れる。両目を潰されて視力を失ったが、私たちがいる場所は覚えているのだろう。そのまま魔物は空中から、私たちのいる場所へ突撃してきた。

 直撃されれば面倒だ。

「大盾兵、防御。踏ん張りなさい、敵は全力でくるわよ」

 私の命令に、即座に戦友の中から大盾を構えた十人からなる一隊が、前面に繰り出す。一列に並び、ガシンという音を立てながら、盾を構えて防御の姿勢をとる。そのまま腰を低くし、迫りくる魔物の突撃に備える。

 直後、魔物が大盾兵たちが激突した。

 魔物の強烈な突撃に、大盾兵たちが唸り声を上げながら堪え、堪えきった。

 だが、魔物はまだ死んだわけではない。

 視力を失った中で、むやみやたらと暴れ、両手を振り回す。

 ――ゴン、ゴワン。

 不気味な金属音を立て、魔物の巨腕が大盾に激突する。それに耐える大盾兵とて、この強烈な攻撃をいつまでも耐えていることはできない。

「魔導兵」

 私は再び命じる。

 背後に立っていた魔導兵たちが、すぐさま行動を開始した。

 魔導兵と呼ばれる彼らは、自らの身長よりはるかに高い杖を掲げている。その杖は鉄製で、杖の先端には、大人の顔ほどもある巨大な水晶が乗っている。魔水晶と呼ばれる、魔導の力を引き出すための水晶だ。

 巨大な杖-…いや、杖と呼ぶにはあまりにも巨大なそれは、その形と相まって、巨大な槌のようにも見える。そのために、この武器についたあだ名は、≪魔法槌≫という。

 三人いた魔導兵たちは、魔法槌を石畳の地面に突き立て、呪文の詠唱を行う。

 三人の詠唱は三重の音となって重なり、そのすべてが一糸乱れることなく、同じ言葉を口にしている。時を合わせたように三つの魔水晶がバチバチと光を放ち、生み出された雷撃が魔物ら向けて一斉に放たれた。

 ――バリバリバリバリ。

 電撃が魔物に直撃し、空気を振動させて音を立てる。魔物が再び苦悶の声をあげ、ブスブスと肉を焦がす。

 だが、先ほどの魔物は、体内に剣が突き立っていた。そのおかげで、体の中に電撃が流れ込んだ。それと違い、今度の魔物は電撃が体の表面を流れただけに過ぎない。魔物には明らかに大きなダメージが蓄積しているが、それでもまだ死んでいなかった。

 ――グルルルッ

 最後の力を振り絞るように、魔物が喉の底から唸り声を上げる。しかし、私は魔物が態勢を立て直す間など与えるつもりはない。

「攻撃姿勢」

 私が命じると、それまで前面で守りに徹していた大盾兵が左右に分かれる。そして、背後で待機していた、剣士と槍兵が一斉に武器を構える。

「突撃」

 続く私の命令を受け、彼らは一斉に魔物へと向かって突撃した。

 群れて突撃する兵士たちの攻撃に、魔物は弱々しい絶叫の声を上げ、体の各所を切り刻まれていく。やがて最後の鳴き声を上げ、絶命した。

 ズズンと、巨大な体が石畳の地面に倒れ伏し、力なく腕を横たえる。

「行きますよ」

 私が戦友たちに告げると、エスト兵長が短く腕を動かして部下に指示を出す。

 私の周囲を守るように戦友たちが集い、倒した魔物を背後に、再び城の中を歩き始めた。


 それからほどなくして、城内を進んでいく私の視界に、黒衣に身を包む部隊の姿が目に入った。


 あとがき出張所



「閣下大変です」

 取り乱したユウナス将軍の姿を見て、私こと、クレスティアは微笑を浮かべた。まあ、この子が取り乱しているところは可愛いわね。思わず抱きしめてあげたくなる。

「何が大変なのかしら?」

 しかし、私が密かに思ったことは顔にださず、そう口にする。

「実は閣下が活躍するあまり、この話の主役が完全に脇に追いやられてます」

「主役?」

 私は一瞬口の端を曲げたが、手招きしてユウナスを近くに呼び寄せる。

 もっと近くに来なさいと、さらに手招きし続けると、彼はようやく私の考えを察したのか、息がかかるほど私の近くにまで顔を近づけた。

 ユウナスの息が私の顔にかかる。

 ―――もしかしてニンニクでも食べたのかしら?口臭がするわね。でも、可愛いから許してあげる。

 私はニヤリと笑い、ユウナスの耳元に息をふっと吹きかけた。直後、ユウナスの体がピクリと振るえる。

 ―――このまま食べちゃいたい。

「か、閣下」

「あら、いいじゃない、これくらいのお楽しみ。ねえ、私の可愛いユウ」

 そう言いながら、私はユウの体を抱きしめて、互いの頬をこすり合わせる。

「い、いけません。人前でこれ以上は」

「いいのよ、衆人環境でも私は楽しいから」

 読者のことを気にして、アワワワッ、と慌てているユウの姿を見ていると、私の中でクツクツと意地の悪い笑いが起こる。

「こ、これ以上はダメです。それに、本当に主役が誰だか分からなくなって・・・」

 無駄口を叩くユウの唇に、私の唇をあわせて強制的に黙らせる。

 ユウの体温が唇から伝わってきて、恍惚とした温かさに包まれる。思わず上気してしまう私の体。それにユウの体も高揚して、熱い熱を放つ。肌から伝わってくる彼の興奮した熱に、私の体の底からも、さらに強く強い熱が湧き出してくる。

「うふっ、いいこと。この物語、この世界は、私のためにあるのよ」

 長い口付けの後、私はゆっくりと言った。

「・・・はい、閣下」

 ユウが赤くなった顔で頷いた。

 ―――ユウ、あなたはとてもいい子だわ。

 微笑を浮かべる私。

 でも、一方で冷徹な私は、こうも続ける。

 ―――主役?何を言ってるの、私のために世界(この話)は存在してるのよ!

 もはや物語の主役とか、制作者の構想などというものを完全に叩き潰し、私は傲然と宣言した。




「・・・あ、あのう。マジで主役の座を奪わないでください~」

 主人公然。いや、もうそんなものを飛び越えまくって、完全に世界(物語)の中心に毅然と立ち誇る姿。そんなクレスティアに、制作者がポツリとこぼす。

「まあ、こぼしたところで、この人の性格と出番が変わることなんてないケド」


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