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魔性の勇者  作者: エディ
第1章
3/23



 帝都グランベルトの城にある兵舎。その食堂は、千人以上の兵士で埋め尽くされていた。

 朝食の時間だ。

 皆、ガチャガチャと音を立てながら、無駄口ひとつ叩かずにいそいそと食事をかき込んでいく。食堂いるだけで、とてつもない人数だが、この城に収容されている兵士の数は一万人を軽く超えている。食堂の規模が足りないので、交代で食事をとらなければならないのだ。当然、食事に割り当てられる時間が限られてくるため、余計な無駄口を叩いている暇がない。

 そんなせわしい食事が行われている中、周囲の兵士たちと明らかに違う空気が漂う一角がある。漂う空気だけでなく、身にまとう衣服、鎧は全て黒一色の異質な集団。他の兵士たちが鉄色の武具に身を包む中、そこだけがまるで同化することを拒むようだ。

 黒衣の小隊。クラウ率いる黒衣の部隊だ。

 帝国軍の小隊は一部隊60人から100人程度で構成されていて、黒衣の部隊は70人の兵士からなっている。

 他の兵士たちが無駄口すら叩かないなかで、しかしこの部隊だけはのんきに朝食を口にしながら、無駄口まで叩いていた。

「ふうっ、相変わらずパサパサのパン。スープも汁っぽいし・・・」

 黒衣の集団の中で不満を口にしたのは、栗毛色の髪と瞳をしていて、子供のような背丈の少女。アリサだ。身にまとう戦闘衣は濃紺色。ただし、限りなく黒に近い色をしているため、この集団の中に混じっていると違和感がまったくない。違和感があるとすれば、それは格好より、当人の身長だろう。

「はあっ、もっとおいしいもの食べたいなー」

 食事の簡素さに、愚痴がこぼれるアリサ。

「街に出ればおいしいものが食べられるのにー」

「あーあ、早く休日こないかな~」

「ほんとね」

 傍にいる三人の女性たちもアリサに同調する。

 彼女たちもまた黒衣に身を包んだ兵士たち。名を、ユエメイ、ファン、リーと言う。三人の女性は、身長の発育不良を思わせるアリサとは対照的に、すらりとした体をしている。体には、密着した戦闘衣を纏っているために、体の線がくっきりと浮き彫りになっていた。

 二〇代前半のユエメイは大人びた女性だが、続く2人はアリサと同じまだ十代後半だ。

「なら、今度おじさんがお食事に誘ってあげよう」

 不満を並べていた四人の女性に、傍にいた大男が鼻を伸ばしながら誘いかける。

 顔に戦場での古傷をいくつもつけた、山賊顔の大男だ。すでに三十後半の年齢にあり、強面の顔のこともあって、見た目だけで、歴戦のつわものを思わせる。

 こんな男が鼻の下を伸ばしていると、今にもうら若い乙女たちを襲おうとしているように錯覚してしまう。

 だが、そんな男に、女性たちが向ける視線は、怯えることなく、逆に冷たかった。

「ゲイルさんのおごりはいらない」

「ヤダ」

「エロオヤジ」

 視線が凍えるように冷たいが、言葉も冷たい。

「最低です」

 最後に、ポツリとユエメイが口にする。

 三人の十代の娘たちの言葉も冷たいものだったが、大人びた彼女の声は、さながら凍てつく凍土。視線だけで、見るものを凍りつかせてしまいそうな、冷え冷えとした声だった。

「まあまあ、そう冷たいことを言わず、おじさんと付き合おう」

「・・・」

 四人の乙女の拒絶にも、ゲイルは全く応えていないらしい。なおも誘惑してくるオヤジに、乙女たちはさらに冷たい視線を向け続ける。

「ま、まあまあ、ゲイルさん、アリサさんたちも落ちついて」

 そんな所に割って入ったのは、金髪に開けているのかいないのか分からないほど細い目をした青年だ。名前はアーチャー。気の弱そうな顔に、困惑の表情を浮かべている。

「ゲイルさん、朝からナンパなんてダメですよー」

「ああん?お坊ちゃんは引っこんでろや!」

 ドスの効いた声だった。ゲイルの山賊顔に、これから身ぐるみはがして、お前を簀巻きにして海に沈めてやる。覚悟はいいだろうな――と錯覚するほどの威圧が加わる。

「ヒッ、ヒー、た、助けてください。ユエメイさんー」

 間に割って入ったはずのアーチャーは即座に、助けを求めた。だが、助けを求められたユエメイはクールだった。

「自分で何とかなさい」

「へ、へええぇぇぇん、そんなー」

 情けない悲鳴を上げるアーチャーは、ユエメイからアリサに視線を向けて、「助けてください。僕、殺されてしまいます。ワンワン」。まるで、捨てられた子犬のような顔になる。

「大丈夫だよ。ゲイルさんに逆らっても、半殺しで許してくれるから」

 ―――ビキッ

 アーチャーが凍りついた。

「ククク、まあ黄泉平坂が見えるギリギリで勘弁してやろう」

 ゲイルが舌なめずりをしながら、アーチャーの肩を掴む。

「わわわ、た、隊長、助けてくださいー」

 全身をわなわなさせ、半分涙目になったアーチャーは、とうとう黒衣の部隊長に向けて助けを求めた。

「・・・」

 だが、アーチャーの助けに対して、返事は返ってこない。

「あ、あの、隊長ー?」


 ・・・

 俺は、ぼんやりと考え事をしていた。

 混沌とした考えで、頭の中にいろいろな光景が浮かんでくる。昔のことや、いままで戦場で戦ってきたこと。戦場で俺の振り下ろす武器に恐怖した敵兵の顔。それに俺が死にかけた時に味わった苦痛の記憶。

 だが、脈絡のない思考は、唐突に別の方向へと変わった。

 そういえば、あの時食べたキノコのスープは、ひどく甘かったが、記憶に残るな。

 もし他人が俺の思考の中を読み取れたなら、とてつもないギャップに驚く――いや、呆れたことだろう。

 だが、俺にとって戦場は日常とまでは言わないが、今までに呆れるほど経験してきた場所だった。そのせいか、まっとうな神経が削られ、食べることと、戦場のことが、同じように思えてしまうほどだ。

 そんな脈絡の思考に浸っていたが、不意に、そんな考えが全て消え去った。その途端、いままで何を考えていたのかも、きれいさっぱり全て忘れ去ってしまう。

「ワー、殺されるー」

 俺の思考が現実に戻ってくると、目の前では巨漢のゲイルが、二の腕をアーチャーの首にまわして、グイグイと締め上げている最中だった。

 青い顔になって、いまにも泡を吹きそうなアーチャー。それでも悲鳴だけは上げ続けている。

「・・・死ぬなよ」

「ヒョエエエッ、そんなー・・・ゲフンッ」

 俺の言葉が届いたらしいアーチャーは、再び悲鳴を上げたが、その直後がくりとうなだれて動かなくなった。

「お兄ぃ・・・隊長、もしかして今までボーとしてたの?・・・してたんですか?」

 どうやら、ずいぶん前からアーチャーは締めあげられていたらしい。そのことに全く気付かなかった俺を、妹のアリサがあきれ顔で見ている。

「考えごとをしてただけだ」

 ―――ふわわっ

 と、つい欠伸が口から洩れてしまった。六に寝てないので眠くて仕方ない。

「・・・はあっ、まったくマイペースすぎるんだから」

 俺の欠伸姿を見るアリサは、心底呆れていた。

 そんな妹から視線を外して、ゲイルと気絶したらしいアーチャーを見る。

「ワッハッハッ、こいつ見た目はヒョロイですが、かなり頑丈ですぞ」

「・・・気絶させてから言うか?」

「ワッハッハッ、ちょいと軽く遊んでやっただけですわい」

 ゲイルの様に、妹を真似するわけではないが、俺も呆れてしまった。ゲイルの遊びの結果を見て、やれやれと思う。

「たく、そんなのは新兵相手にやる遊びだろうが」

「ワッハッハ、つい面白くなりましてな」

 豪快な笑い声をあげながらも、まったく悪びれる様子なくゲイルは笑い続けた。


 そんな朝食の後、俺たちの部隊は城の広場に移動した。

 朝の練兵の時間だ。

 俺の部隊の周囲では、部隊行動の訓練が行われ、見事な隊列行動に、攻撃や防御の訓練が行われている。

 むろん、俺の率いる黒衣の部隊も、武器を打ち合っての訓練を行っている。

 だが、周辺で掛け声をあげて、セイ、ヤアと叫ぶ一般の兵士たちに比べ、そのやる気はとてつもなく低い。一応武器をカンカンと音を立てて打ち合わせているが、まるでやんちゃな子供が木の枝を武器に見立てて遊んでいるかのようだ。

 ――まあ、仕方がない。

 部隊隊長である俺が、すでに城壁に寄りかかってのんびりと鼻歌を歌っているのだ。両手を頭の後ろで組んで、頭の中では、ああ眠い。なんて考えているのだから。

 そんな鼻歌交じりの俺の所に、ゲイルがやってきた。

「こう毎日平和では、退屈ですな」

「ああ」

「ひとつ、ワシと遊んでみますかな?」

 ギラリと獰猛な光を目に宿し、ゲイルが片手で握った巨大な戦闘斧をブンと振るう。俺の目の前を刃が移動するが、俺は微動せずに、刃が過ぎ去るのを眺めた。一歩間違えれば、俺の顔は、ゲイルの斧に爆砕されていただろうが、どうせ本気でないことは分かっている。

「おもちゃなら、アーチャーがいるだろう」

「ふむ・・・」

 俺のつれない態度に、ゲイルは一瞬頭をガリガリとかいた。それからすぐに肩をすくめてアーチャーの方へ、ノッシノッシと地面を揺らしながら歩いて行った。

 そのあと、「ヒエエェェェーーーン」という、情けなさすぎるアーチャーの声がこだまする。

 ――ガシン、ドカン、ゴガン。

 ゲイルが力任せに戦斧を振るい、それに対してアーチャーは巨大な大盾を構えて受け止めているが、その口からは、女のように甲高い悲鳴を上げている。黒光りする大盾は、立て続けて振り下ろされるゲイルの戦斧を受け、みるみる間に凹んでいく。

 これだけ見ると、ゲイルが一方的にアーチャーを虐めているようにしか見えない。だが、ゲイルの威力が乗った攻撃を受けながらも、アーチャーはその場にとどまり、一歩も退かずにその攻撃を受け止めている。

――あんな大斧をまともに受ければ、俺だって吹き飛ばされる。

 そう考えれば、ゲイルの戦斧を受け止めるアーチャーは、とてつもない耐久力があるのだ。

 とはいえ、

「ビエエエン、見てないで助けてくださいよー!ユエメイさん、ファンさん、リーさん、誰かー。うわっ、ぶ」

 あの女のような悲鳴は、なんとかならないだろうか。

 やれやれと首を振り、俺はぼんやり空を眺めた。

 空には鈍色の雲が覆いかぶさり、太陽の姿をすっかり隠してしまっている。気が滅入るほど分厚い雲でないが、青い空が見えないと、心の中にある種の閉塞感を植え付ける。

 ―――何かくるな。

 雲を見ていた俺は、朝に感じた一瞬の戦慄を思い出した。

「ま、平和にも飽きていたころだ」

 そう口にした時、俺の唇が微かに曲がって笑みを浮かべた。これから何かが起こるのかは分からない。だが、何かが起きるなら、その前に運動ぐらいはしておくべきだろう。

 そこまで考えると、俺は腰から剣を抜き放った。

 ―――キン

 心地いい音を立てて引き抜かれたのは、黒の刀身。

 ―――よう、相棒。

 剣に心の中で語りかけながら、俺は叫んだ。

「ゲイル!」

「ムッ」

 駆け抜けざま、俺はゲイルの背後から剣の一閃を浴びせかける。しかし、巨漢のゲイルは、体の大きさからは不似合いなほど素早く反応した。まるで、背後で起こった出来事を察知していたかのように、俺の一撃をきわどいところで回避する。

「ようやくやる気になってくれましたな、若大将」

 俺のことを若大将と呼んだゲイルが、ニヤリと笑う。相変わらず悪党面の笑いだが、それに対して俺もニヤリと笑って返した。俺は目の前のゲイルに意識を集中し、ゲイルも先ほどまでおもちゃと称して一方的に攻撃の的にしていたアーチャーのことは忘れたようだ。

 俺は続けて、二閃、三閃と攻撃を繰り出した。

しかし危なげなく巨大な戦斧で受け止めていくゲイル。斧の重さを感じさせないその動きは、いつ見ても感心させられる。

「ムンッ」

 と、掛け声とともにゲイルの巨大な斧が舞う。俺は左に飛んでその一撃を回避。

 ―――ズズンッ

 直後、重たい音を響かせて、戦斧は俺がついさっきまでいた場所に炸裂。強力な一撃が地面に打ち付けられた。直撃を受けていれば、問答無用で大けが・・・いや、即死級の馬鹿力だ。

「ワッハッハッ、楽しませてもらおうか」

「ああ、運動にはちょうどいい」

 豪快に笑うゲイルに、俺も不敵な笑みで答えた。


 ―――ガキン、ドカン、ズズン。

「あーあー、あの二人始めちゃった」

 クラウとゲイルが戦う様子を見て、アリサがぽつりとこぼす。

「2人とも本気かな?」

 と、この部隊に四人しかいない女性の一人、ファンが尋ねる。

「本気じゃないだろうけど、あの人たちの戦いっていつもやりすぎでしょ」

 そういったのは、アリサ。彼女が言うとおり、ゲイルの巨大な戦斧が舞うたびに、ミシミシと音を立てて地面がえぐられる。クラウの剣には、斧のような重さはないが、立て続けに繰り出されるゲイルの攻撃を、右へ左へとよけているので、そのたびに地面に穴がうがたれていく。

「まったく、戦闘バカなんだから・・・」

 アリサはそうこぼして、これ以上見てられないと視線を外した。

「ふひぃー、助かったー」

 そんな傍では、先ほどまで一方的にゲイルのおもちゃにされていた、アーチーが地面に尻もちをついている。

「危うく死ぬところでしたよ」

「大丈夫よ、ゲイルさん本気じゃなかったから」

「でも、僕、本当に殺されるかと思いましたよー」

「殺されそうっ言っても、ゲイルさんの攻撃をまともに受け止められるのって、この部隊ではアーチャーさんだけでしょ」

「ア、アハハ、そう、かな?」

 自信のなさそうのアーチャー。とても頼りになりそうにないが、あのゲイルの戦斧を受け止め続けることができるのだから、こう見えて実は大した奴なのだ。

 しかし、そんなアーチャーはちらりとアリサを見ながら言った。

「でも、僕は思うんですよ。この部隊で一番の力持ちは、アリサちゃんだって」

「ええっ!」

 アリサが小さく抗議の悲鳴を上げる。

「そんなわけないよ。私、全然力持ちじゃないよ」

 必死に抵抗するアリサ。しかしアーチャーの視線は、アリサが手にする三メートル弱ある巨大な金属の杖へと向いた。

 あだ名は、魔法槌と呼ばれている、巨大な魔法の杖だ。

 一応杖に分類されてはいるが、差の巨大な大きさは杖というより、そのあだ名が示す通り巨大な槌と呼ぶべき代物だ。その大きさはゲイルが持つ戦斧よりも巨大で、子供の背丈しかないアリサが持てるはずのないサイズだ。特に、槌の最上部には、大人の顔ほどもある大きさの魔水晶が備え付けられている。おまけに、重さもゲイル持つ戦斧を上回るとのうわさで、並みの人間が片手で持てるはずがない。

 なのに、アリサは片手だけで、この魔法槌をひょいと持っている。

「こ、これは身体強化の魔法がかかっているからですよ!だから、私でも片手で持てるんです」

「でも、この前僕が持とうとした時、めちゃくちゃ重くて持ち上げることもできなかったよー」

「だから、魔法の力のおかげなんですってば」

 ―――ブワンッ

 大声で抗議したアリサは、そのまま魔法槌を一振りした。一振りで巨大な杖から風が巻き起こり、ゴワンと音をたてる。

「ヒャアアッ、僕の方を向けて振らないでよー」

 再び情けない声を上げ、アーチャーは怯えながら悲鳴を上げた。


 あとがき出張所


「あとがき出張所?」

 俺は気がつくとわけのわからない空間にいた。

 まったく意味不明な言葉に眉をしかめる。

 ―――一体、ここは何なんだ?

「あら隊長、ここにきてしまったのですね」

 と、途方に暮れていた俺に語りかけてきたのは、俺の部隊の部下ユエメイだった。

「ユエメイ、お前ここが何か知ってるのか?」

「はい、ここは本編に縁もゆかりもまったく関係ない、どうでもいいぷっちゅけトークを制作者の気まぐれで行っていく場所です」

「そ、そうか・・・」

 普段のクールなユエメイなら、二、三言しゃべれば終わりなのに、妙に饒舌で、ついでにぷっちゃけ気味な口調に俺は戸惑わずにいられない。

「でも、あとがきって言っても何をするんだ?」

「すでにお題目はあるそうです」

 そう言って、ユエメイは俺に向けて、手紙を差し出してきた。

「何だこれ?」

「作者からのメッセージです」

「・・・」

 あまりのぶっちゃけぶりに、三白眼になってしまう俺。

「気にしてはいけません。いいですか、気にしたら負けです。それに、早く読んでくれないと、先に進めないんです」

 ガシリと俺の両肩をつかんだユエメイが、普段のクールな彼女なら決して浮かべない、危機とした表情を浮かべて迫ってくる。

 あまりにも、ユエメイが俺の近くで真剣に目を見つめてくる。半ば脅迫じみている気がするが、それにしてもあまりにも近くて、ユエメイの吐息が、俺の顔にまでかかってくる。

「わ、分かったから、離れてくれ。読めばいいんだろう」

 俺は慌てながらユエメイを引き離す。ユエメイはやけに力が入っていて、ユエメイの体を引き離すのに、少し苦労させられた。

「チェッ、しばらくあのままでいたかったのに」

「ユエメイ、何か言ったか?」

「・・・いいえ、何も」

 いつもの彼女に比べて、少し頬が赤くなっている気がするが、気のせいだろう。ユエメイの小声を聞き取れなかった俺は、それ以上のことは気にせずに、作者からのメッセージに視線を落とした。

「なになに・・・この小説はソードアート・オンラインという小説を読んでしまった私(作者)が、ついつい昔小説を書いていたころの血が騒いで、衝動で書き始めてしまったものです・・・」

 正直、俺にとってはどうでもいい内容だ。ついでに読者にとってもどうでもいいことだろう。

 ・・・うん、待て?今、読者って言ったか?

 物語中の人物である俺が読者って言っていいんだろうか?

 そんな疑念が沸き起こってしまう。

「安心してください。ここはあくまでもあとがきで、本編にはまったく関係ないですから」

 俺の内心を見抜いたのか、いつものクールな様に戻ったユエメイが告げる。

 ―――なんだかなー

 という俺の心の声がするが、まだメッセージに続きがあるので、さっさと読んでしまうことにしよう。

「ソードアート・オンラインに負けじと(いや、市販の小説と勝負したって、その時点でもう負けまくりだろ)ついついこの小説の執筆を初めてしまいました。

 と言っても、話の内容自体はソードアート・オンラインからひねり出してきたわけでなく、作者が一年以上から温めていたものを展開しているので、なんらの縁も所縁もございません・・・」

 俺はメッセージから顔を上げる。

「なあ、ユエメイ、ぶっちゃけすぎじゃないか?」

「気にしたら負けです」

「そ、そうか」

 ええい、こうなれば、毒食らわば皿まで。俺はやけになってメッセージを最後まで続けることにした。

「なお、余談としては、タイトル名がまったく思いつかなかったので『黒の剣士(仮)』とつけてしまったり(この部分はその後改定しました)、主役君が全身黒ずくめの格好になったりしてますが、まったく何にも気にしないでちょうだいな~

 あと、主役君がもしも女の子にモテまくりみたいな展開になっても、きっとあなたの錯覚です。

 どこかの話のパクリじゃないよ。

 そう全ては目の錯覚なのです。

 ついでに耳の錯覚です。

 以上、あなたの心のお友達エディより」

 ―――ビリビリビリビリ

 俺は、ふざけたメッセージを読み終えるとすぐに破り捨てた。

「さ、本編に戻るぞ」

 ここでの出来事をなかったことにして、俺はすぐさまこの場を後にしようとした。

 ―――グイっ

 だが、去ろうとする俺の手首を、ユエメイが強くつかんできた。

「ユエメイ?」

 不審に思って尋ねる俺。

「・・・私たち、当分本編に出番ないですよ」

「なっ、なにー」

 ユエメイのトンデモ発言に、俺は思わず頓狂な声をあげてしまった。

「をぃ、待て。この小説の主役は俺だろう、作者!」

 俺の心の雄たけびは、しかしステーダラテストウエッサッサッ~な作者のもとにまで、決して届くことはなかった。


 ―――グスンッ


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