21(最終話)
21
血色の魔女クレスティア。
≪皇≫と呼ばれる存在である彼女の目の前からクラウの姿が消え去った。
彼はここではない別の世界へと飛ばした。
私は、体に走る白い傷跡から、自身の力が急激に流れ出していくのを感じていた。皇としての力が制御できなくなり、体の外へと溢れだし、暴走している。
その力はあまりにも強大で、この世界の全てを飲み込んでいっている。星は輝きを失っていく、月もその光を鈍くさせていく。いずれ、夜の空は完全に闇と化すだろう。
それに、世界から急激に匂いや色も失われていく。
時さえもが、やがて動くことを放棄して、死へと向かっていくだろう。
全てが、皇の力の前に消え去っていく。これは世界さえも滅ぼしてしまう力なのだから。
これが初めてではない。今までに、数多くの世界を旅しながら、その中のいくつもの世界が私の力によって消え去った。とはいえ、世界の滅びゆく様を見るのは、愉快なこととはいえなかった。
なぜなら、皇の力は消し去る能力であって、創造をなし、何かを作り出す力ではない。
世界にとって、存在してはならないただ害悪だけをまき散らす力でしかない。何も作ることができない力。
クレスティアは自分の力が失われ、世界が消えていこうとする中で、立ちあがった。
傷口から流れ出していく力の量は大きく、立ちあがる際にふらついた。だが、それを意思の力で無理やり正す。漏れ出す力のせいで時の動きが鈍くなっていく中、彼女は歩き始めた。
目指す場所はただ一つだった。
歩く途中、城の中は血に塗れていた。
魔族の死体。そして戦って朽ち果てた人間の兵士たち。みんな、エストの部下たち。そして、クレスティアがこの世界に四〇年と言う期間の中で、戦場に共に立って戦った、愛おしい戦友たちだった。
彼らを単なる道具だなどと思ったことはない。皆、愛おしいと思った。
私が触れても、何も感じることはできない。でも、彼らの心は私と確かに触れあっていた。無限ともいえる歳月を存在はてきたクレスティアにとって、四〇年と言う期間はあまりにも瞬間の時間でしかなかった。それでも、彼らと共にいた時間は、とてつもなく貴重である。
かつて生きていた愛おしい戦友たちの亡骸を見ながら、クレスティアは歩み続ける。
途中、彼女の前に現れる魔族がいた。
彼女が利用したナイトメアの手下たちだ。ナイトメアは彼らをただの道具としか思っていなかった。魔族たちは現れたクレスティアの姿を前にして、襲いかかってきた。だが、全てが彼女の体に触れた瞬間に、灰と化し消え去る。
その姿に恐れをなし、魔物たちは彼女から逃げるようにしていなくなった。
――その方が、あなたたちのためにはいい。
魔物であっても、生きていてもらいたいと思う。
私は、人間でないが、魔族でもない。ただ消し去るだけの能力を持つ存在。自分の存在と矛盾しているような考えだが、だからこそ、魔族であっても生きていてもらいたい。
でも、もうじきこの世界自体が消えてしまう。
私が願ったところで、もう意味のないことだろう。
そんな彼らの姿を見ながらも、私はようやくたどり着いた。
「エスト」
「へい…か。ご…ぶじ…で…」
地面にエストが横たわっていた。脇腹から大量の血を流し、急激に死へと向かっている最中だ。もう長くはない。
私はそんな彼の傍に膝をついて、顔を見た。
彼とは長く戦場を共にしてきた。この戦友に私はもう一度だけ、会いたかった。
「へい…か…」
「私は、私の我がままにあなたを巻き込みたくなかったから、帝都から遠ざけたのに、来てしまったのね。ゴメンナサイ」
「陛下が…ご無事ならば、我々は…それでいいのです」
無事。その言葉に、私は深い悲しみを覚えた。私のことをここまで思っていてくれる、大切な愛おしい戦友。
しかし、その命はもう長くない。
「ありがとう、エスト。最後に、一つだけお願いがあるのだけど、聞いてもらえる?」
「どのような…ご…命令…でも」
「最後に、あなたに触れさせて」
死の淵に立たされながらも、エストの顔が笑った。その顔を私は手で撫でた。
彼の温かさに触れたかった。でも、私が触れた瞬間、私の手に彼のぬくもりが伝わることはなかった。
エストの体が灰と化し、目の前から永遠に消え去った。
――どれだけ、愛おしく思ったところで、消し去ってしまう呪われた力。
私はエストが消え去った場所を、しばし無言で眺め続けた。元より、これが皇の力なのだ。だから、これはしょうがないこと。
温かさを求めても、結局はこうなってしまうのだ。
やがて、星空はその光を失い、ただの闇と化した。
大地は香りを失い、色を失い、世界の全てが白い色へと染め上げられていく。
もう、この世界は時を刻むことさえやめて、消え去っていく。白く染め上げられた世界が、一気に黒い灰と化していく。やがて全てが、消えていく。
――ユウ、今行くわ。
クレスティアの体もまた、全ての力が流れ出していく中、徐々にその体を黒い灰が包み込んでいった。
全ては、音もなく消え去った。
一人の女と、そこに存在した世界が失われた。
あとがき
皆さま、魔性の勇者をここまで読んでくださりありがとうございます。
作者のエディです。
さて、本物語を執筆する直接のきっかけになったのは、私が小説「ソードアート・オンライン」にはまり込んで読んでしまったのが原因です。
もう小説を書くのはやめたんだ。
私はゲームを作ることに専念するよ。
そんなつもりですっかり小説から遠ざかって、筆を折ったつもりでいたのですが、呪いと言うものはかくも恐ろしい。
ソードアート・オンラインに触発されたせいで、執筆したい病が再発してしました。折った筆に再びセロテープをペタペタ張り付けて、本作「魔性の勇者」を執筆してしまいました。
エディの基本的な執筆スタイルは、行き当たりばったり型なので、(作者的に)いろいろ予想外の展開もありました。
たとえば、設定時は名前だけの存在だった、ユエメイ、ファン、リーの三人乙女が、予想を覆すほど活躍してくれました。後半部分では、キーキャラになってしまいました。
(そしてハーレムパーティーを作る予定もなかったのに)
ただし、魔性の勇者は基本的に作者の悪意が漂う話なので、かなり非道の展開続きに。
もともと、メインキャラ全滅小説(クラウ除く)として当初から設計されていた話なので、その計画に則ってキャラが次々に死亡していきました。
ただ、キャラが死ぬたびに、書いてる私も、
「そりゃないよ!ゲイル、アーチャー、早く死に過ぎ!」
「ファンとリーが突然死んだー!なぜだー!」
「ユエメイとアリサは、最期ちゃんと書いてやれよ!」
等々。
はい、正直書いてる自分もキャラが想像していたのと全く違うところで、いきなり死んでいく光景にゾッとさせられました。
この話、とんでもないですね。(←書いてる人がそんなことを言ってしまうほど酷いです)
そしてこの物語主役であるクラウについても書いておこうかと。
彼の元々の設計は、一四、五歳ぐらいの二重人格少年の予定でした。基本的にお子様で、根暗な性格。
…だったのですが、そんな奴で書いていっても筆が全然のらない。
そもそもヒロイック性の欠片もなければ、成長的な要素も感じられない。
てな訳で、初代クラウは執筆が始まる前に、没キャラとして闇の中に抹消されてしまいました。(もしかすると続編で、敵役として初代クラウが登場するかもですね~)
その後に出てきたのが、二十歳の青年クラウです。
彼は私の予想をいろんな意味で超えてくれました。
執筆初期はただの根暗で、ついでにマザコン属性の疑惑付きキャラでした。でも、話が進んでいくと、少年漫画の主役のごとく、「俺は守る」系のキャラになってくれました。
ついでに、ローヴァンナイト辺りから、やたらと責め苦を受ける不幸の主人公になっちゃいました。
「あれ、なんだかクラウを七難八苦にたたき込んで、苦しみ抜いてる様を描くのが≪とっても楽しいな♪≫」
と、作者のドSな性格についつい火がついたりして。
そんなことがありながら、彼は活躍してくれました。
ところで、この物語に欠かせないもう一人のキャラがクレスティア様。
『私は彼女を書くために、この小説を作ったのです』(キリリッ
当初、クラウとか、黒衣の部隊は、設定では存在していたのですが、とにかく作者の筆が、クレスティア様中心にノリノリに乗りまくりです。
一番初めに書きだしたのは、クレスティア様の皇帝暗殺シーンから。
その後も彼女がずっと出ずっぱり。
クラウたちと合流させないといけないので、その必要性が出てきてから、ようやくクラウたち、この物語の主人公の執筆を後から追いかける形で始めました。
その後は、素敵な編集パワーの力によって、クラウたちの話が見事小説の冒頭に移動しました。
ただですね。執筆からしばらくは、クラウよりクレスティア様の方がとにかく魅力があって「この人が主役でいいじゃん」と、完全に思ってました。
フリューバーとの戦いをしてた時も、「早くクレスティア様のターンになれ」と内心で祈り続けたほどw
それほど、作者的にはマイラブリー路線でした。
ただ、ローヴァンナイトの辺りから、クラウがようやく主役として活躍してくれたので、主役が交代しました。そのために、クレスティア様の出番はドンドン減少していく一方。
まあ、クレスティア様は、主役でないので(作者的には主役と呼びたい時期もありましたが)、彼女に関係した陰謀劇の話は、かなり端折って書いてます。彼女が主役だったら、確実に陰謀サイドの話が、かなり伸びまくってたと思います。
さて、そのような魔性の勇者でしたが、続編ももう公開していますので、興味のある方はぜひそちらもどうぞ。
魔性の勇者は、あまりにも根暗路線小説だったので、次回はそれが軽減されています。
ついでに、クラウの性格も今回より明るめにしています(勝手に人格改造を施して、別人にしてます)。
舞台となる世界も代わり、登場人物はクラウだけが引き継がれているので、続編と言いながら、実は別の話に近い形になっています。
そして、そこで繰り広げられるのは、想像を裏切る美少女(笑)の活躍が…
と言うことで、このあたりでお別れを。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました(^^




