29、(過去編):廃村の記憶と、白髪の少女「オルン」
テサロンたちは、眠り続ける白髪の少女を抱えたまま、調査対象である村へと足を進めていた。
「奥へ進むほど魔物の死骸が増えてやがる。……一体、どんな現象だこりゃ」
バビが不気味そうに周囲を見やる。
「……わからないわ。テサロン、あれが目的の村かしら?」
ラミが指差した先には、積み上げられた岩が防壁のように村を囲い、武装した兵士たちの姿が見えた。
一行が近づくと、兵士たちは鋭い声を張り上げ、武器を構えた。
「何者だ! この場所に何の用だ!」
「我々は国からの依頼で来た調査員だ。話は通っているはずだが?」
テサロンが冷静に応じると、兵士たちはようやく武器を下ろした。
「……確かに。族長の元へ案内する、ついてこい」
案内されながら村の中を進むテサロンは、違和感を拭えなかった。家々の数は多いが、人の気配があまりにも希薄なのだ。
(過疎化が進んでいるとは聞いていたが……。それに、この白髪の娘はこの村の者ではないのか? 誰も何も言わないのは……)
ラミもまた、同じ懸念を抱いていた。
族長の屋敷から現れたのは、ひどく痩せ細り、老いさらばれた老人だった。
「よくぞ……よくぞ来てくださった。まずは感謝を」
老族長は深く頭を下げた。テサロンはそれを制し、本題を切り出す。
「まずは状況を整理したい。いつ頃から、このような異常事態になった?」
中へ通され、席に着くと、族長は重い口を開いた。
「半年ほど前からです。住民たちが『移住する』と口々に言い始め、一人、また一人とこの村を去っていきました」
「移住? なら、ただ過疎化してるだけじゃねぇか」
バビの言葉に、族長は首を振った。
「そう思おうとしましたが、絶対におかしいのです。この土地を愛し、骨を埋めると誓っていた者までもが、ある日突然、何かに憑かれたように村を出ていく……」
「……その移住した者たちとの連絡は?」
「それが、全く。移住先とされた各地に手紙を出しましたが、『誰一人として到着していない』という返事ばかりです。魔物に襲われたにしても、死体すら見つからぬまま全員が消えるなど、あり得ません」
「なるほど……。それと、外にある魔物の死骸の山についても心当たりは?」
「気がついた時にはそこにあり、日に日に増えているのです。理由など、私共が知りたいくらいで……」
テサロンは、先ほど保護した少女についても尋ねたが、族長は「見覚えがない」と答えた。少女はこの村の人間でもないらしい。
その夜。宿の一室を借りたテサロンは、白髪の少女と同じ部屋にいた。
「明日からは手分けして調査だな。村の中と、外の死骸……。それと、この子の正体も」
テサロンが思索に耽っていると、ベッドの上で少女が身じろぎをし、ゆっくりと上体を起こした。
「……ようやく目が覚めたか。お前は誰だ? なぜあんな場所で寝ていた」
少女はキョロキョロと辺りを見回し、テサロンを不思議そうに見つめた。
「ここ、どこ……? なんで私はここにいるの?」
「質問を質問で返すな」
「……そう。で、質問ってなんだっけ?」
「名前と、あのような場所で寝ていた理由だ」
「お前じゃない。私はオルン。……あのような場所って、どこ?」
「腐敗した魔物のすぐ側だ」
「……覚えてないわ」
オルンは無機質な表情でそう答えると、テサロンの名前を聞き出し、「お腹が減ったから何か食べさせて」と要求した。
テサロンは机の上の食事を指差し、オルンがそれを頬張るのを眺めていた。
「久しぶりに……まともな食事をしたのかも。……何? 私の顔をそんなにジロジロ見て。惚れた?」
「そんな髪ボサボサで顔も見えない奴に惚れるか。邪魔なら切ってやろうか?」
「酷いわね……。でも確かに長すぎるわ。なら、お願いしようかしら」
食事後、テサロンはナイフで彼女の白髪を整えた。現れた素顔は、驚くほど整っていた。
「これくらいでいいだろ。風呂に入ってさっさと寝ろ。俺はソファで寝る」
「……ありがとう」
オルンは浴室へ向かい、服を脱ぎながら鏡を見つめた。
(私が、魔物の死骸の隣で寝ていた……? 全然覚えてない。まあ、そのうち思い出すでしょ)
シャワーの音を聞きながら、テサロンは閉ざされた村の暗部と、謎の少女オルンとの奇妙な縁に、一抹の不安を覚えるのだった。




