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それでも化物にならなかった  作者: ひろろん
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17話

 

 紅とアノが秘密の抜け道へと向かってから、しばらく後。付き添いの人物は、長のいる場所へ戻ってきた。


「とりあえず、時間稼ぎはいたしました。……やはり、食事に毒が盛られていたようです。後ほど、料理を作った人物を差し出すと言っていましたが」


 長は静かに頷く。


「ご苦労。あとは、あの二人が無事であることを祈るしか出来ぬな」


 そう言って、遠くを見るように目を細める。


「それに……いずれ、また再会する予感がする。なぜか、そう思うのだ」


 付き添いの人物は小さく微笑んだ。


「長様がそう仰るのであれば……きっと、そうなのでしょうね」


 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、静かに話を終えた。



 ---


 その頃、紅とアノは秘密の抜け道をひたすら進んでいた。

 左右に分かれることのない一本道は、思っていた以上に長い。


「一本道だけど……結構歩いたわね。まだ出口が見えない」


「そうですね……。紅、本当にこの大陸を離れるつもりなんですか?」


 アノの問いに、紅は少し考えてから答える。


「アノを魔物から戻す方法を探せるなら、離れてもいいと思ってる。それに……私は今までの記憶がないから。この大陸にいても、特に未練はないの」


 一度、言葉を切り、アノを見る。


「アノはどうする?もし離れたくないなら、無理に一緒に行かなくてもいい」


 アノは首を横に振った。


「……私、この大陸にいたところで、私を差し出した故郷の人達の元には戻れません。それに……私も、元に戻れる方法を探したいです」


 二人は歩きながら、それぞれ胸の内で思いを巡らせていた。


(私は、どうして記憶がないんだろう……。私って、一体何者なの?……今は考えても仕方ないわね)


(紅は……どうして記憶を失ったんだろう。もし戻せる方法があるなら……探したい)


 さらに歩き続けると、前方に微かな光が見えてきた。

 それに気づいた二人は、顔を見合わせる。


「外の光ね……! ようやく出られる!」


「はい! 港町も近いって言ってましたよね」


 そうして二人は、ついに秘密の抜け道を抜け出した。


 外に出ると、少し下った先に港が見える。

 複数の船が停泊し、潮の香りが風に乗って届いてきた。


「この抜け道……こんな高い場所の、崖と崖の隙間に繋がってたんだ」


「ですね……。まずは、港まで下りましょう」


 二人は下へと続く道を探しながら、港へ向かった。



 ---


 港に到着した紅とアノは、船の近くにいた男性に声をかける。


「……あの、その船に乗りたいのですが、可能でしょうか?」


 男性は二人を見回し、紅の手の刻印に気づいた途端、顔色を変えた。


「奴隷が船に乗りたいだと?どこから逃げ出した! 兵士に突き出してやる!」


 そう言って、紅の腕を強く掴む。


「痛い! 離して!……そうだ、これを! これを見て!」


 紅はもう片方の手で、小包を差し出した。

 男性は一瞬怪訝な顔をしながらも、それを受け取り、中を確認する。


「……手荒な真似をして、すまなかった。とりあえず、船には乗れるよう手配しよう」


 そして、何かに気づいたように声を上げる。


「だが、その前に……コレハ!」


 その名を呼ばれた瞬間、どこからともなく女性が現れた。


「何? 用事?……って、何よこの二人。それに一人は奴隷じゃん」


 男性は即座に彼女の頭を軽く叩く。


「馬鹿! 余計なことを言うな!まず謝れ。それから、この二人に服を見繕ってくれ」


「それと、奴隷の刻印を隠す手袋かグローブもな」


「痛っ!……って、マジだったの?大変失礼しました。ごめんなさい!」


 コレハはすぐに姿勢を正す。


「服、すぐに用意するから、こっちに来て!」


 紅とアノは言われるまま、コレハの後をついて行った。



 ---


 その場に残った男性は、二人の背中を見送りながら小さく呟く。


「……長が、あのような人物に友好の証を渡すとはな。友好の証を持つ者に何かあれば、長に伝わる。今の長は頼りないと言われがちだが……戦闘能力は前任の長以上だ集落全員が束になっても勝てない。――決して、怒らせてはならないお方だ」



 ---


 紅とアノは、コレハの案内で一軒家に到着した。


「どうぞ中へ!好きな服を選んでいいよ。売り物だけど……今回は特別!」


「ただし、持って行きすぎないでね。生活がかかってるから!」


 紅は少し迷いながら尋ねた。


「えっと……コレハさん。あの小包って、何なんですか? できれば教えてほしくて」


 その瞬間、コレハは警戒するように身構えた。


「え? 中身知らないの?……もしかして、盗んだ?」


「違うわ。長と呼ばれていた人から渡されたの。説明はなかった」


 アノも頷く。


 それを見て、コレハは警戒を解いた。


「……分かった。信じるよ」


「それはね、私たちの集落の“友好の証”。でも、長がそれを誰かに渡したことは今までなかった」


「つまり……二人は、長に気に入られたってこと」


 紅は息を呑む。


「……無くしたら、大変なことになるわね。また会えたら、必ずお礼を言わなきゃ」


「ですね、紅」


 コレハは明るく手を叩いた。


「さぁ! とりあえず服を選ぼ!着替えたら、船まで案内するから!」


 二人は軽装備の服を選び、着替えを終えた。

 コレハは満足そうに頷く。


「二人とも、すごく似合ってる!」


 そして紅に、グローブと小さなナイフを差し出す。


「それと……これ。刻印を隠すためのグローブ。それから、念のためのナイフ」


 紅は受け取り、身につける。


「本当に……ありがとうございます。必ずお礼はします」


「ありがとうございます。紅の言う通りです」


 コレハは笑って答えた。


「じゃあ、次に来た時は何か買ってよ!それと、お土産話もね」


 そして、真剣な表情になる。


「……刻印は、絶対に見せちゃダメ。奴隷を道具としか見ない人もいるし、捕まえて売る奴もいる」


「絶対に、バレないように」


 その言葉を、紅とアノは深く胸に刻んだ。

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