表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも化物にならなかった  作者: ひろろん
15/18

14話

 

 紅とアノの間に、重く沈んだ沈黙が流れ続けていた。

 言葉を交わせば壊れてしまいそうで、けれど何も言わなければ、この距離が永遠になってしまう気がして――二人は互いを見つめることすら出来ずにいた。


 その頃、集落の一角にある一軒の家には、多くの人間が集まっていた。

 低く抑えられた声が、次第に熱を帯びていく。


「もういい加減、あの長にはついていけない」


「そうだ。決断の時だ。追放するために行動すべきだ!!」


「ちょうどいい駒があるだろう? あの女と、あの化け物だ」


「全部、長のせいに仕立て上げればいい」


「やるなら早いほうがいい。迷っている時間はない」


 不穏な空気の中、集まっていた者の一人――まだ幼い子供が、隣にいた男の袖を引いた。


「ねぇ父ちゃん。どうして、みんな長のこと嫌いなの?」


 男は少しだけ目を伏せてから、当然のように答える。


「前任の長はな、立派な方だったんだ。皆に慕われ、集落を守ってきた。だが今の長は違う。劣っているし、判断も甘い。だから誰も従わない」


「へぇ……。じゃあ、従わなくて正解なんだね」


「ああ、そうだ」


 その会話を背に、一人の男が決定打を口にした。


「次の食事だ。毒を盛る。それをあの二人に食わせて殺す。

 死んだ後で部屋を荒らし、暴れたことにして……長に責任を取らせる」


 誰一人として反対の声は上がらなかった。

 静かに、だが確実に、話し合いは終わりを迎えた。



 ---


 一方その頃、長は付き添いの人物と共に、紅とアノが閉じ込められている部屋の裏手に立っていた。


「……すまぬな。こんな真似をさせてしまって」


 長は壁に手を当てながら、静かに言った。


「どうしても、あの二人と話したくてな」


 付き添いの人物は首を振る。


「問題ありません。長の御意志とあらば。――では」


 壁に触れると、何もなかった場所に扉が現れる。

 二人が中へ入った瞬間、肌にまとわりつくような重苦しい空気を感じ、長は眉をひそめた。


「……何なのだ、この空気は。何があった?」


 突然の来訪に、紅とアノは顔を見合わせる。


「えっと……どちら様ですか?」


「紅……この方が、長です」


 アノの言葉に、長の背後から付き添いの人物が入り、扉を閉ざす。


「よい。まずは話してみよ我が何とか出来ることなら、してやる」


 促され、アノは躊躇いながらも、沈黙の原因を語った。


 話を聞き終えた長は、意外そうに鼻を鳴らす。


「……何かと思えば、そんなことで空気が重くなるとはな」


 その言葉に、アノの感情が一気に噴き出す。


「そんなこと!? 私にとっては、とても大切なことです!それを“そんなこと”で済ませるなんて……長も、私を化け物だと思ってるからでしょう!」


 長は一瞬目を見開き、次の瞬間、強い口調で言い放った。


「馬鹿馬鹿しい。我は人間だろうと化け物だろうと、気にせん」


 アノが言葉を失う中、長は続ける。


「気にしてどうなる? それで何かが変わるのか?変わらんだろう。ならば、どうすればいいかを考えるべきではないのか?」


「お前たちは、この先も“人間”だの“化け物”だので空気を重くし、気まずいまま一緒に生きるつもりなのか?」


 沈黙。


 答えられない二人の前に、付き添いの人物が静かに口を開いた。


「私も、かつて……迷い続け、友と気まずいまま過ごしたことがあります‥‥。どうすれば良いかを一緒に考えなかった。その友が亡くなってから、気付いたのです‥‥‥後悔しても、もう遅いと」


 その言葉に、紅は小さく息を吸った。


「……後悔、ですか」


「そうですね……一緒に考えるべき、だったのかもしれません」


 アノも頷く。


「私も……気まずいままは、嫌です。少し、考え方を変えてみます」


 それを聞き、長は満足そうに頷いた。


「うむ。それでよい」


 そして、改めてアノを見つめる。


「さて。我がここへ来た理由だ。お主が、なぜその治癒能力を得たのか――それを聞きたい」


 アノは首を振る。


「……分かりません。そもそも、なぜ全身が爛れていたのかも……覚えていないんです」


「覚えているのは、紅が殺されそうになったところまでで……」


「なに?」


 長の声が鋭くなる。


「殺されそうになった、だと?お前たちは、一体何をしでかした?」


 付き添いの人物が即座に前へ出て、長を庇うように構える。


 紅は慌てて首を振った。


「簡単な説明になりますが……聞いてください。私たちは、敵対するつもりなんてありません」


 長は付き添いに目配せする。


「構えを解け。話を聞こう」


 紅は、静かに語り始めた。


「……私たちは、奴隷として洞窟にいました。

 そこで、アノは“土”を無理やり食べさせられて……その後、狐の姿をした魔物に変貌しました。他にも、もう一体魔物がいて……暴れ、私たち以外は生き残れなかった」


 付き添いが低く呟く。


「土を食べて、魔物に……? 聞いたことがない。そこで、一体何が行われていた……?」


 アノは続ける。


「わかりません‥‥。私達はそこから逃げ出した後、野宿をしていた時……私は、自分の手が変貌して、紅を傷つけました」


「その時、理解したんです。私が……“化け物になって暴れていた”って」


「それから追っ手が現れて、私の引き渡しと、紅の始末を命じられていると聞いて……そこから先は……覚えていません」


 話し終えた部屋に、再び静寂が落ちた。


 ――だが先ほどとは違う。

 この沈黙は、絶望ではなく、これからを考えるためのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ