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それでも化物にならなかった  作者: ひろろん
13/18

12話

 

 とある施設の一室。

 机の上には、布に包まれた死体と、土や石の塊が無造作に置かれていた。


 クリルトンの正面に立つ、隊長と呼ばれた男が淡々と報告する。


「これが例の回収物と死体だ。狐の死体は発見できなかった。ただし、生き残りがいた可能性が高いため、柊副隊長を追撃に向かわせている」


 クリルトンは布をめくり、死体を覗き込む。

 炭化しかけた肉体――しかし、その形は明確に人間だった。


「……ほう」


 小さく息を吐き、興味深そうに目を細める。


「完全に人間に戻っている。どういう原理だろうね……これは。実に興味深い」


 そのとき、扉がノックもなく開いた。


「隊長、報告です。柊副隊長が帰還しました。ただし――」


 一瞬、言葉を選び。


「かなりの深手を負っています。柏木も片腕を失いました」


 クリルトンは視線を上げる。


「……深手?相手は、例の狐の魔物かい?」


「詳しい状況はまだ。ただ、副隊長は武器のリミッターを解除したとのことです。現在、治療中ですので……目を覚ましてからでなければ詳細は」


 その会話を遮るように、名倉が入室し、隊長の前で膝をついた。


「隊長……申し訳ありません」


 声は硬いが、悔しさが滲んでいる。


「柊副隊長は、狐の魔物と交戦し重傷を負いました。あの狐は……逃走した女を守るため、人間から変貌しました」


 隊長の眉が動く。


「女、だと。逃げた女で間違いないな?」


 そして、クリルトンを見る。


「狐の魔物が人間に戻る……そんなことがあり得るのか?」


 クリルトンは肩をすくめた。


「理論上は不明だね。前例がない。だが、この死体も人間に戻っている。何かしら条件がある……と考えるのが自然だろう」


 名倉が続ける。


「狐の魔物は、深手を負わせました。人間の姿に戻った後、気絶し……崖下の川へ落下しました」


「……生存は?」


「副隊長曰く、“生きていたら奇跡に近い”と」


「……なるほど」


 クリルトンは淡々と頷く。


「死体回収は不可、か。了解したよ」


 隊長は一礼する。


「では、我々はこれで失礼する。柊副隊長の容体が気になりますので」


 そうして一行は部屋を後にした。


 ――廊下に出てから、名倉は低い声で吐き捨てる。


「……実験だ、研究だと。あの男は自分の興味しか見ていない」


 拳を握り締める。


「こちらは、あれだけの損害を出したというのに……正直、殺してやりたいです」


 隊長は歩みを止めずに答えた。


「分からんでもない。だが今はまだ、あの男には利用価値がある」


 一拍置き、


「価値がなくなれば、処分命令は必ず下る。それまで耐えろ」


「……了解です」


 名倉はそう答え、黙って後に続いた。


 場面は変わる。


 紅は、静かな部屋で目を覚ました。

 白い天井が視界に映る。


「……天井……?」


 瞬きを数回。


「助かった……の?……それより、アノは……?」


 体を起こし、周囲を見る。

 だが、そこにアノの姿はない。


「……いない?」


 胸がざわつく。


「……私の傷……誰が……?」


 考えるより先に、紅は立ち上がり、扉へ向かう。


 ――その瞬間、扉が開き、男が入ってきた。


「目が覚めたか。体調はどうだ?」


「……体調は、大丈夫です」


 紅は一歩踏み出す。


「それより、ここはどこですか?もう一人……女の子を見ませんでしたか?」


 男の声が低くなる。


「……あの女なら、牢獄に拘束している」


「……牢獄?」


 紅は男に詰め寄る。


「どうして!?アノが、何をしたって言うの!」


 男は一切動じず答えた。


「あの女は……人間ではない」


 その言葉に、紅の顔が強張る。


「運ぶ前、体は酷く爛れていた。だが、治療を始める前に……勝手に治癒し始めた」


 淡々と続ける。


「危険と判断した。四肢を拘束し、口枷を付け、牢に隔離している」


「……そんな……」


「さらに、魔物の匂いが微かにする。現在、長たちが“処分するかどうか”を協議中だ」


 紅は男の胸倉を掴んだ。


「……ふざけないで!!アノは人間よ!案内して!!」


 男は紅の手を払いのける。


「それは出来ない。君がどう思おうと、あの女は危険だ」


 一歩下がり、冷たく告げる。


「議論が終わるまで、ここにいろ。食事は後で運ばせる」


 そう言って去ると、

 次の瞬間、扉は壁へと変わった。


 紅は壁を叩く。


「出しなさい!!アノの所に連れて行きなさいよ!!」


 拳が痛むのも構わず叫ぶ。


「処分なんておかしい!!アノは人間よ!!」


 声は、虚しく部屋に反響するだけだった。


 一方、薄暗い牢獄。


 アノは、重たい意識の底から目を覚ました。


 ――動かない。


 四肢は完全に拘束され、口には口枷。

 声を出そうとしても、空気が漏れるだけ。


(……なに、これ……)


 混乱が広がる。


(紅は……?……私、どうなったの……?)


 記憶は、紅を守ろうとしたところで途切れている。


 足音が階段を降りてくる。

 数人の影が、牢の前で止まった。


「……これが、例の個体か」


「処分を検討する前に、一目見ておこうと思ってな」


 別の声が言う。


「しかし……幼いな」


「もう一人の女は治療し、保護している。間もなく目を覚ますだろう」


 苛立った声が割り込む。


「長、早く行きましょう。この化け物……皮膚が爛れ、即死レベルでした」


「それが……見る見るうちに治癒したのです」


「ここに居れば、何をするか分からない」


「……拘束しているとはいえ、安全とは言えません」


 沈黙の後。


「……仕方ない。行こう」


 足音が遠ざかる。


 静寂。


 アノは、ただ天井を見つめる。


(……化け物……)


(……また……)


 胸が締め付けられる。


(……人間として……見てくれる人……いない……)


 目尻から、涙が滲んだ。


(……紅…………私……辛いよ…………ここで……処分された方が……いいのかな……)


 答えは、どこにもなかったのであった。

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