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それでも化物にならなかった  作者: ひろろん
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09話

 

 血を洗い終え、紅は上着を羽織った。


「アノ、ありがとう。朝食を取ったら出発しましょう。まずは人のいる場所まで行きたいわね」


「……はい……」


 アノの返事はどこか元気がなかった。


 紅はそれに気づき、軽くため息をつく。


「……まだ気にしてるのね。でも大丈夫よ。ちゃんと人間に戻れたじゃない。考えすぎは良くないわ」


「分かってはいますけど……けど……」


「アノ、“けど”は禁止」


 そう言って紅は、アノの頬をつつき、頭をくしゃくしゃと撫で回す。


「ちょ、ちょっと紅! やめて、やめてください!」


 アノは慌てて抵抗し、先ほどまでの沈んだ様子は消えていた。


 それを見て紅は小さく笑う。


「今はそれでいいの。ほら、食事して出発よ」


 二人は昨夜野営した場所へと戻っていった。



 一方その頃――


 ゼカルト国・王都近郊。

 広大な魔法陣が展開された転移広場に、六人の兵士が整列していた。


 彼らの前に立つのは、研究責任者クリルトン。


「君たちが、今回洞窟に向かう回収部隊だね」


 右端に立つ、落ち着いた雰囲気の男――この部隊の隊長が一歩前に出る。


「はい。任務内容は、死体の回収と洞窟の封鎖。間違いありませんか?」


「その通りだ」


 クリルトンは数枚の資料を取り出す。


 緑色の一つ目の魔物。

 そして、その元になった人間の写真。

 さらに――白い狐、そしてアノの写真。


「回収対象はこの二体。人間に戻っている可能性もあるから、この写真も見せておく」


 隊長は眉をひそめた。


「……人間に戻る可能性が?」


「理論上はあり得る。今回は洞窟内の土と石も持ち帰ってほしい」


「了解しました。――行くぞ、全員」


 六人が魔法陣に乗ると、赤い光が強く輝き、次の瞬間にはその姿は消えていた。


 広場に残されたクリルトンは、独り言のように呟く。


「さて……次は記憶を消された女性の件だ。

 なぜ彼女が“最初から記憶消去対象”だったのか……調べる価値はある」


 そう言って、その場を後にした。


 洞窟・実験施設跡


 回収部隊は、いくつもの転移陣を経て洞窟内部へと到着した。


 隊長は辺りを見渡し、顔をしかめる。

「……血の匂いが酷いな。生存者はいないと思うが……油断するな」


 各自に指示を出し、隊は散開した。


 しばらくして、部下の女性兵士の声が洞窟内に響く。


「隊長!黒焦げの死体を発見しました!例の魔物だった男の可能性があります!」


「分かった、向かう」


 隊長が到着すると、そこには炭のように焼けた男性の死体が横たわっていた。


「……確かに男性だな。回収する」


 だが、周囲を見回しても狐の死体は見当たらない。


「……狐はいないのか?」


 誰も答えられなかった。


 そこへ別の兵士が報告する。


「隊長、洞窟奥に掘り返された跡があります。

 埋葬された形跡のようです」


「……生き残りがいた、ということか」


 隊長の表情が険しくなる。

 掘り起こすと、そこには年老いた男性の遺体があった。


「……新しい死体だ。名簿と照合する。これも回収だ」


 兵士たちが作業に入る中、隊長は元兵士用の部屋へと移動する。


 そこで彼は、不自然に開いた食料庫に気づいた。


「……食料が減っている」


 隊長は確信する。


「生存者がいる。食料を持ち出し、逃げたな」


 名簿を確認しながら、低く呟いた。


「……この老兵と同室だったのは、記憶を消された女性。そして狐の件……」


 顔を上げ、部下たちに命じる。


「全員集合だ。――状況が変わった。生存者がいる可能性が高い」


 洞窟の奥で、静かに追跡が始まろうとしていたのだった

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