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ナインストーリー 〜終末世界を迎える人々の短編集〜  作者: サウナが好きな人


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4/8

写真嫌い

 部屋の奥のラジオが、砂嵐混じりの声でニュースを繰り返している。


「……衝突まで、あと24時間を切りました。各地で——」


 陽が傾いてきた。

 赤く染まる障子の向こうで、風がざわりと庭の木を揺らしている。

 その音に耳を澄ませながら、キヨはちゃぶ台の上に古びたインスタントカメラを置いた。


「ねぇ、あなた。今日、写真撮りましょうよ」


 老いた声だったが、言い方はどこか投げやりで、ぶっきらぼうだ。

 だがその奥に、優しい響きが混じっていることを、タツオは知っていた。


「またそれか。俺は、写真は嫌いなんだよ」


 椅子に腰かけたタツオが、腕を組んでそっぽを向く。

 皺だらけの顔に、頑固さがにじみ出ていた。


「知ってますよ。54年も一緒にいれば嫌でもわかります」


 キヨは少しだけ笑った。

 台所の窓辺には、昔の写真が何枚か飾ってある。子供たちがまだ小さかった頃の白黒写真。運動会、旅行、七五三——そこにはいつもキヨの姿がある。


 でも、タツオはいつもフレームの外だった。


「なあ、今さら撮ったってしょうがないだろう」

「しょうがなくないですよ。今しかないんですよ。明日になれば、もう何も残らない」

「記憶が残っとりゃ、それでええ」

「私は残したいんですよ。私たちが、ここで生きとった証を」


 部屋に沈黙が落ちた。

 夕日が畳を朱に染めていく。キヨはそっとカメラを手に取った。


「あなたは、ほんまに頑固でした。でも、毎朝みそ汁を作ってくれたし、誕生日にはこっそり団子を買ってきてくれた。写真は嫌いですけど、私の皿だけ洗ってくれるとき、あなた、照れとるんでしょ」


 タツオは口をつぐんだ。

 照れ臭い、を通り越して、言葉が詰まってしまう。

 いつもそうだった。感謝も、愛情も、口にするのが苦手だった。

 キヨが、カメラをそっと渡した。


「私がシャッター押すから、隣座ってください」

「……だから、俺は……」

「いいから」


 その語気に、とうとうタツオは観念したように立ち上がり、キヨの隣に腰を下ろす。

 不器用に肩が触れる。小さな体が、そっともたれかかってくる。


「もう、これが最後の写真になるんやろね」

「……かもしれんな」


 カメラのレンズが、カチッと音を立てた。

 続いて、小さなシャッター音が鳴る。

 ——カシャ。

 それだけの音が、永遠を閉じ込める。

 タツオが、不意に呟いた。


「……俺も、撮れてよかったわ」

「最初からそう言えばいいのに」

「照れくさいだけだ」

「知ってますよ」


 日が沈み、部屋が青く染まり始めた頃、二人は昔のアルバムを開いていた。

 白黒のページの中には、若い頃のキヨと、子供たちと、そして時々、ぶれた背中だけのタツオが写っていた。

 最後のページに、新しい写真が挟まれた。

 ぼやけた光の中、寄り添う老夫婦の姿がある。

 キヨが微笑む。


「幸せでしたよ。あなたといれて」


 タツオがそっと言う。


「俺もじゃ……ありがとうな」


 風が、障子を揺らした。

 シャッターの音が、今も耳に残っていた

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