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八話

 首なし地蔵の前の砂利道に自転車を停めると、皆でそのお地蔵さまの前に並んで立った。

 梓はちょっと怖いのかハヤテの手を掴んでる。

 光がしゃがんでお地蔵さまに手を合わせた。


「夜になったら歩き回るんだっけ?」


 北斗君が光を見つめながら後ろに立つ私に尋ねた。

 私も光の背中を見ながら頷く。


「そう言う事になってるけど」


 何度調べたって、動いた形跡は当然だけどない。

 玄さんが転んだのだって、きっとただの不注意だ。


「でも、電話で玄さん、ここで誰かに引っ張られてね、腰を強く打ったって言ってたよぉ」


「梓、お前電話に出られるのかよ?」


 はりきって発言した梓に、光がしゃがんだまま振り返った。

 梓は胸を張って


「もう小学校だもん。電話は梓がでるんだよ」


「それを言うなら小学生」


 ハヤテがボソリと呟いた。

 そう言う彼はしきりに左手首につけた水晶のブレスレットを触っている。

 落ち着かない時のハヤテの癖だ。


「何か感じるのか?」


 自然に光の声に緊張の色が帯びて低くなる。

 ハヤテは困ったような顔をしてお地蔵さんの方を見た。


「どうしたの?」


 北斗君が小声で尋ねて来る。訊かれた私もつい小声になって


「ハヤテは霊感があるのよ。ほら、神社の神主さんの子どもだし、あの水晶は魔除けにっておばあちゃんの形見なんだって」


「ふぅん」


 北斗君は光と一緒にお地蔵さんの前に立つハヤテの手首を見ながら腕を組んだ。


「あれがないとどうなるの?」


「なかったら、色々見たり聞こえたりしちゃうって言ってたよ。で、パニックになっちゃうんだって」


「へぇ、大変だね」


「ん」


 でも、それはハヤテの思い込みもあると私は思ってる。

 ハヤテはもの凄くおばあちゃん子だった。もともと勘は良い方みたいなんだけど、おばあちゃんが亡くなってからのハヤテはちょっと変で、それからあれをつけるようになったんだ。

 だから、霊感云々は分からないけど、ハヤテにとっての精神安定剤みたいなものなのかな。


「梓もおばあちゃんにこのリボン貰ったの~! 小学校だからだよ!」


 梓はハヤテを見る私達にそういって、自慢げに赤いリボンを見せた。それは昼下がりの柔らかい光に鮮やかに揺れている。

 梓が楽しみにしている小学校も、私と光が卒業したから来年度からはハヤテと二人きりになる。寂しいけれど、いつ廃校になってもおかしくない。


「よかったね。学校、楽しみかい?」


「うん! 皆と一緒の学校なの~」


 頭を北斗君になでられた梓は、丸い顔にくっついた柔らかいほっぺたを真っ赤にして頷いた。

 せめて…梓にいい思い出ができるまでは存続してほしい。


「特に異変ないな。今日は引き上げるか」


 光のがっかりした声に私は顔を上げた。

 異変何かないにきまってるでしょ。全く。

 そう溜息をつきかけた時、何かが目の端に煌めいた。


「?」


 何?

 慌てて視線をを巡らせるけど、そこには普通の雑木林が広がるばかりだ。


「……嫌な気持ちが残ってる」


「え?」


 ハヤテが硬い表情で呟くと、誰かを睨んでいた。

 それは……


「何?」


 視線の先にいた北斗君は困ったように眉を寄せてハヤテを見つめ返した。

 何? どういう事?

 北斗君に何か見えるの?


「おい、ハヤテ?」


 光が声をかけるけど、ハヤテ君はしばらく北斗君を睨んだ後、自分から目をそらせて黙ってしまった。




 これが、何もかもの始まりだった。




 ひらり、桜の花びらが私の泥だらけのスカートにとまり、顔を上げる。

 でも、ここには桜の木なんか一本もなくて……。


「そろそろ解散するか」


 光のその声は聞こえていたけど、私は何故かそのどこから舞い落ちて来たのかわからない桜の花びらから目が離せず、そぞろな返事しかできなかった

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