七話
初めて会ったのは、あの舞姫桜の根元だった。
あの日、光と言い合いになって、私が意地になってあの神社に一人で行けるって証明しに行ったんだっけ。
そしたら……それまで水を打ったようにしんとしてた石段の真ん中あたりで、不思議な音が聞こえて来た。
聴きなれないその音は冷たい石段に響き、まるで誰かの歌声のようだった。私は舞姫桜の伝説を思い出して足を止める。
舞姫桜は結ばれなかった恋人を思って自害したお姫様の霊が憑いてるって言う。そして、桜が満開になった夜、桜が歌いだし、その周りでそのお姫様が泣きながら舞っているというのだ。それを見てしまう と、魂を永遠にこの桜に奪われてしまう。
―― 桜が歌ってる
私は背筋に走る冷気に自分で自分を抱きしめる。
どうしよう。このまま神社に行った事にして、帰ってしまおうか。でも、この先にあるハヤテの家でハヤテの靴をとってくるのが条件。何も持たないで帰ると、結局一人で行けなかったって馬鹿にされちゃう。
私は唇を噛みしめて少しのぞく桜の枝を見上げた。
その不思議な音は、人の声の様で……少し違う。だって、言葉がないしハミングでもないもの。じゃ、やっぱり……。
桜が一片舞い降り、私の肩に止まった。
それはまるで、来いと桜が呼んでいるようで。
「行ってやる」
私は自分に言い聞かせるように呟くと、汗ばむ掌を握りしめた。
なるようになればいい! 桜に魂とられちゃったら光のせいなんだからね!!
目をつむって一気に石段を駆け上がる。
そして、一番上に辿りついた時、音が止んだ。
風が吹いて、もう耳に届くのは桜のざわめく音だけ。
何も……起こらない?!
私が恐る恐るゆっくりと目を開けると……。
そこに北斗君がいた。
バイオリンを手にしてた北斗君は、私の様子を不思議そうに見ていたけど、目が合うとあの優しい目で微笑みかけてくれたのだ。
今、目の前にいる北斗君を見上げる。
あの時の北斗君は、ちょっと照れ屋であんなに上手なバイオリンも、仲良くなるまで恥ずかしがって弾いてくれなかった。
そのあとに私を脅かしに来た光達とも友達になったけど、こういう探検には色々理由をつけては参加してなかったし、手を繋いだのだって、お別れのあの時が初めてで……。
また思い出して、頬が熱くなる。
北斗君はあの事覚えてるのかな? 私は忘れないよ。だって……あんなの初めてで……。
「もうすぐみたいだよ」
少し振り返って声をかけた北斗君は、去年よりちょっと行動的だ。
知らない彼になったみたいで、少し寂しい。
でも、都会の中学に通いだしたんだもの。1年も会ってないんだし、変わって当然だよね。
「うん」
私は頷くと、それでもドキドキを止めない鼓動を感じながら微笑んだ。




