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六話

 皆の一番後ろを自転車で走りながら、そっと北斗君の横顔を見つめてみた。

 さっき繋いだ手の感触がまだ残っていて、胸の辺りがキュッとなった。田舎じゃ、好きな子じゃないとあんな事しないよ? 都会はどうなのかな? ねぇ、北斗君…都会にはきっと可愛い子たくさんいるよね? 普通に手をつないだり、可愛いって言ったりするの?

 私は…一度もこの町を出た事がないからわからない。正直、都会には憧れるけど怖い気もする。でも…北斗君がいるなら、行ってみたいよ。ねぇ?

 さっきまでまともに話ができなかった私なのに、心はこんなにお喋りだ。

 去年より、少し背が高くなって、ちょっと雰囲気も大人っぽくなった彼の事が知りたくてウズウズしてる。北斗君は…どうなんだろう?私の事、知りたいって思うのかな?

 先を行く北斗君の横顔は答えない。

 昼下がりの陽ざしに揺れる髪が綺麗。

 彼の中にある外国の血のせいか、少し光が当たると緑っぽく見える瞳に私はどう見えたのだろう。まだ本当にあの北斗君が目の前にいるのが信じられなくて、私はつい見とれてしまい…。


「きゃぁっ!!」


 ハンドルがガクンと右に振れた。次いでコントロールが効かなくなり、ぶるぶると両手が震えたかと思うと、もう目の前に深い草むらが迫っていて!!

 体にも心にも痛烈な衝撃…。私はモノの見事に草むらに自転車ごと突っ込んでしまった。


「希!」


「大丈夫!?」


 痛みに声もすぐには出せなくて、顔をしかめて体を起こそうと手をつく。

 背後で光と北斗君の声が聞こえた。あの泣き声は…梓?


「いった…」


 私は体をさすりながら自転車の下から這い出ると、声のする方を見上げた。びっくりしてる北斗君と目が合って、自分を見直す。

 自転車のチェーンは外れ、私は草と土まみれ。新品だったスカートも破けていた。

 最悪…。もうやだ…本当に泣きたくなった。

 やっと再会したのに…今年こそ、気持を伝えるつもりだったのに…。


「希さん」


 差し出された北斗君の手に気がついてから、彼の顔を見上げる。

 こんな姿、もう恥ずかしくて惨めで…このまま出来るなら消えちゃいたい…。


「掴まって!引き上げるから!」


「早くしろよ!」


 みると光も手を出していた。

 私は泣きたくなるのをこらえて、二人の手を握るとようやく草むらから立ち上がり出たのだった。


「大丈夫?怪我は?」


 北斗君の優しい言葉とは裏腹に、私は顔も上げられないくらい恥ずかしくて、ちゃんと答えられない。

 俯いた目に映るのは、擦り傷だらけの手足と…裾が破けて泥だらけになったスカート。

 北斗君が可愛いって言ってくれたスカート…。


「希お姉ちゃん。だいじょうぶ~?」


 なぜか梓は自分が泣いて私に抱きついた。

 いつもはちょっと面倒くさい梓も、今ばかりは彼女の存在が有難くて…私は自分が泣きそうなのを誤魔化すようにしゃがむと、彼女を抱きしめた。


「大丈夫。ごめんね。びっくりした?」


 梓は私の腕の中でふるふると首を横に振った。


「…外れた」


 今日初めてのハヤテの発言に振り向くと、光に起こされている私の自転車のチェーンがものの見事に外れていた。


「こりゃ…持って帰って直さないとな。自転車は帰りに引いて帰るとして、希、俺の後ろに…」


「希さん。僕の後ろに乗りなよ」


 北斗君がそう、光の言葉を遮った。

 私は梓を抱えたまま見上げる。

 私が北斗君の自転車の後ろに?いいの?

 見ると、光が少し口を尖らせていて、梓はちょっと羨ましそうだ。

 スカートの事は本当に悲しかったけど…


「うん」


 私は頷くと、ゆっくり立ち上がった。




「重かったらごめんね」


「大丈夫だよ」


 短く言葉を交わして自転車が走りだす。

 どこに手を置いたらいいんだろう?北斗君に掴まってもいいのかな?でも、そんな事したら、馴れ馴れしいって思われる?

 そう思ってた時、北斗君の手が後ろ手に伸びて私の手を掴んだ。


「ね、僕に掴まっていいよ」


「…うん」


 北斗君は私の手を自分の体に回すと、またハンドルを掴む。

 グレイのジャケットから北斗君の匂いがして、ものすごくドキドキした。

 私はもう一方の手もそっと回して見る。

 ちょっとだけもたれてみると、胸一杯に『好き』が広がっていくみたいで、私は何も話せなくなってしまった。

 いつもの田舎の風景も、今は鮮やかな新緑や春色の花々が目に飛び込んできて、世界がまるでたった今目が覚めたみたいになっていく。

 でも…

 そっと北斗君の背中から彼の方を伺った。

 表情はまるで見えないけど…正直、1年前と少し変わったみたい。

 1年前の北斗君はこんなに積極的な男子じゃなかった。

 私はもう一度町を囲む山並に目を移すと、去年の事を思い出していた。


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