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三十六話

「お前は…間違ってる…」


 光はそう言うと、再びにじり寄りかけた『狐』の足を止めた。


「北斗はそんな奴じゃない。自分が死んだとしても、希の死を望むような奴じゃない」


「お前に…何がわかるんだよ?」


「わかるさ。北斗はお前の事だっていつも気にしてた。本当は一緒に外に出て色々見たり聞いたり感じたりしたいって…でも、病気で出来ないから、代わりに自分が経験してお前に話して聞かせるんだって。そう言う、優しい奴だった」


「知ってるさ!それを変えたのが、上地希!お前だろう?!」


 怒声は憎しみの塊を丸ごとぶつけて来た。


「暴力をふるう父も、他の男に逃げる母も許せなかった。みんな嘘をついて、隠し事をして…兄さんだけは違ったのに!お前のせいで、兄さんまで汚い大人にしやがって!」


「そんな…」


 私は言葉を失う。

 秘密を持つ事は…確かに後ろめたさと同時に、大人になった気持ちにさせた。

 あの日、北斗君の唇に触れた頬の微熱も、二人だけの約束も…。

 それが、こんなに誰かに深い傷をつける事になるなんて、想像もして無かった。

 先生がさっき言ってた…子どもは知らない事が多すぎる。知らない方が幸せで…大人になる事は苦しいって。

 私は私の気持ちは私だけのものなんだって思ってた。

 でも…


「償えよ!兄さんを殺した罪を。そんな兄さんを忘れて、他の男を選んだ罪をさ!」


『狐』はそういうと、ポケットに手を突っ込んだ。

 ただならぬ気配に、光が一歩下がる。

 そして『狐』を睨みあげた。


「馬鹿か。北斗には北斗の人生があって、そして…恋があって当り前だろう」


「え?」


 私は驚いて光の顔を見る。横顔しか見えないその顔は、まっすぐに大人になる事を拒む『狐』を見つめている。


「北斗と話したんだ。1年前…希の事。だから…俺も1年待つことにした。奴の気持ちは汚く何かねぇ。勘違いすんな。北斗はお前じゃねぇ。お前は…」


「黙れ!!!」


『狐』が激しく首を横に振った。


「黙れ黙れ黙れ!!」


 何度も気が触れたかの様に連呼して、片手で髪をかきむしる。


「兄さんは僕で、僕は兄さんなんだ。痛みも苦しみも悲しみも…みんな分け合ってきた。僕たちは二人で一人なんだ!だから、僕たちの間に誰かが入ってくるなんてありえないんだよ!!」


「違う!お前は天沢北斗でも…狐でもない」


 光は異様なまでに首を振って、もがくように髪をしきりにかき回す『狐』…いや彼に、まるで揺るぎない何かをつきつけるようにきっぱりと言い切った。


「お前は天沢南だ」


 南の動きがピタリとやむ。

 面の向こうの視線が狂気をはらんだ。


「黙れって…言ってるだろうがぁ!!」


 腹の底からの憎悪が声になって轟く。南が低くこちらに向かって跳躍した。


「!!希!逃げろ!」


「?!」


 光が反転して私を押す。

 目の端に見えた。

 狐の面が笑いながら、月影に光刃物を振り上げるのを


「……光っ!!」


 全ては…スローモーションのようだった。




 鮮血がまるで桜の花びらのように散り…光の身体が大きく傾いた。



これで完結ではありません。

明後日、投稿予定の三十八話で完結です

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