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二十八話

 信じられない気持で受話器を見つめる。

 ツーツーと虚しい音だけが響き、ついで時間がない事に気がつく。


 8時って15分後じゃない!

 とにかく、本当に光を狐が連れ去ったのか確認しなきゃ!


 昼間に北斗君がバイオリンを確認したのを思い出しながら、必死に恐怖に体が麻痺して動けなくなってしまわないように受話器を一度きり、空で押せる光の家の電話番号を押した。


 でも、いつもならよそ見してても押せる番号がなかなか押せない。

 震えが止まらない指先がもどかしく、私は泣きそうになりながら何度目かのダイヤルで、ようやく最後まで押すことができた。


 コールする。

 いつもは感じないこの長さに苛立つ。

 早く出て! 誰でもいいから!

 4度目のコールで出たのは……お兄ちゃんだった。


「もしもし?」


「あ、希ちゃん? こんばんは」


 のんびりした口調に余計に気が焦る。


「ね、光は? 光は今、家にいる?」


「え? 光?」


 お兄ちゃんは知らないみたいで、お家の人に大声で訊いてくれた。

 どうか家にいて。お願い!

 でも、今度の願いは……


「光、ついさっき出たみたいだよ。コンビニ行くとか何とか言って、飛び出したって」


 そん……な。

 私は愕然とすると、なおざりに礼を行って受話器を叩きつけた。

 光が危ない!


 でも


 時計を見上げる、もう50分。

 あと10分しかない。

 もう、北斗君は耳切り坊主の十字路に向かってるんだろうか? どうしよう。


 決められないまま靴を引っ掛けて玄関を飛び出した。

 雨は止み、見上げると雲の向こうに朧月。

 妙に明るい夜空に泳ぐ雲が、肌に生ぬるい風に気味悪かった。

 家の前の道に出る。


 右を行けば耳切り坊主の十字路

 左を行けば舞姫桜の神社


 右を行けば北斗君

 左を行けば光


 どうしよう

 どうしよう


 でも選べる道は一つしかない


 薄明るいぬかるんだ夜道を、私は一人途方にくれて立ち尽くした。


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