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二十五話

 北斗君は怒りを握りしめていた拳を胸の前に持ってくると、感情を押し殺した声で


「とにかく、他になくなっているものがないか見てみる。待ってて」


 そう、いって部屋に入って行った。持ち物をチェックしながら手早く片付けて行く。その姿は、懸命に冷静を保とうとしているようで…私も取乱しそうになるのを堪えた。


 やっぱり『狐』はいるんだ。

 そして、子どもの大切なものを奪い、おびき寄せ……。

 

 世界が真っ白になった。

 次いで地響きのような大気を震わせる轟音。

 私は思わず声をあげると蹲った。

 雷が、どこかで落ちたのだ。

 それを合図に一斉に強い雨が天から地面に叩きつけられる音がする。


「大丈夫?」


 北斗君が駆け寄り、私を覗き込んだ。

 昔から、蜘蛛ときゅうりと同じくらい雷は大嫌……また稲光が世界をリセットし、轟音がが成り立てる。

 私は身を固くして半泣きになった。

 いやだ……もう……。


「希。大丈夫だよ。こっちおいで」


 北斗君の優しく強い声が安心するように耳元でした。


「う……」


 私はふにゃふにゃの足で、片付けがほぼすんだ部屋に入れてもらった。


「雷、苦手だっけ?」


 私は座らされたベッドの上で、情けない思いをしながら頷いた。


「うん。だって……」


 また、あの世界を脅迫するような音が響いた。

 私は心臓が止まるような思いで自分の膝を抱える。


「怖いの?」


 そっと囁く声に、私は頷いた。

 ふわりと北斗君の腕が肩に回されて、引き寄せられる。耳が北斗君の胸について、私は雷とは違う理由で固まった。


「雷が遠くに行くまで、こうしていよう。だったら怖くないよ」


「……うん」


 耳に、微かに北斗君の鼓動が聞こえた。

 どうして良いかわからなかったけど、自分の胸を打つ鼓動と同じようなテンポの鼓動に、少し安心した。


 雨音は世界を包んで、私たちを閉じ込める。北斗君の腕も、私を包んで鼓動の中に閉じ込めているみたいだ。

 また、雷の音がした。

 でも、少し遠ざかりその音がさっきより弱かったからか、それとも北斗君のおかげなのか、恐怖が和らいでいるのがわかった。


 雨音と鼓動だけの世界。

 まるで二人ぼっちになったようだ。


 沈黙が、こんなに心地いいなんてしらなかった。


「ね、キスしようか?」


 ポツリと言葉が沈黙に波紋を投げかけた。


「へ?」


 いきなりの事に耳を疑った。

 思わずあげた顔のすぐ傍に、彼がいて、一度抜けたはずの力が肩にまた入る。


「あの……でも……」


 瞳を覗きむその色は、嘘じゃない。

 ふと、あの時の甘い痛みが走って、唇の端の頬に熱を感じる。


 去年は……しなかった。

 だって、あれは事故みたいな感じで、こんな風じゃなかった。それに、私も北斗くんも何にも言えなかった。言えなかった代わりに、あの約束をしたのだ。


 ……どうしよう。


 頭の考える場所が動くのを止めてしまったように、何にも考えられない。

 ただ、一度温まりかけた指先が、痛いくらい冷えて行くのだけがわかった。


「あ……」


 唇がわななき、声は言葉の形をなさない。

 北斗君の手が髪に触れて柔らかく、でも抗えない力で引き寄せる。

 鼻先が触れ、唇の体温を感じるほどに近くなる。


 鼓動は暴走するように高鳴るのに

 あんなに大好きでずっとずっと会いたかったのに

 手を繋いがれるのも特別扱いされるのも嬉しかったのに


―― 怖いっ


 私はぎゅっと目を瞑った。

 何故か光の事を思い出して、涙がこぼれた。

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