二十一話
やがて大人達は口ぐちに「雨上がりの川には近付いちゃ駄目だ」といいながら其々掃けて行き、気がつくとまたもとの3人だけになっていた。
さっきの喧騒が嘘のように静まり返った河原に、座り込んでいた私の肩に、北斗君の手が置かれる。
「……希。大丈夫?」
「う……ん」
色々考えだすと、不安と恐怖で泣きだしそうだった。
どうしてこんな……続けて……。
「ハヤテの腕輪がなかった。狐が盗って、ハヤテをここにおびき寄せたんだ」
大人達の影がなくなったのを見計らい、光がポツリと言葉を並べるように言った。
「そんな……」
昨日は梓のリボンで首なし地蔵
今日はハヤテの腕輪で河童岩
そして共通する『狐』
「今度狙われるのは、僕らのうちの誰かかもね」
肩に手を置く北斗君を振り返ると、彼は昨日の雨で増水している流れのはやい川を見つめていた。そうだ、子どもばかりが狙われてる。この町にいる子どもは……もう……。
「希は俺が、守る」
光はそう、低い声で言うと、北斗君の手を振り切るように私の腕を引っ張り立たせ、しゃがんだままの彼を睨み返した。
「狐なんかに、好きにさせてたまるかよ。なぁ?」
意味深に北斗君を挑発する。
北斗君は片眉を挙げて立ちあがると腕を組んだ。
「なに? それ、まるで僕を疑ってるみたいじゃないか?」
「お前が来てから何かおかしい。希をお前みたいな余所者に任せられるか」
「あのさぁ」
北斗君は腕を組むと、やや神経質そうに前髪をかきあげた。
「そういう言いがかりみたいな奴? 止めてくれるかな」
「でもっ」
「僕が何にもしてないのは、希が一番知ってるよね?」
私の方を見る北斗君は少し怒っているようだった。確かに、光が北斗君を疑う理由はよくわからない。友達が友達にこんなのするはずないし、ましてや北斗君が……。
「何だよ。……言おうと思ってたんだけどさ。北斗、お前、希に馴れ馴れしくね? 希は……」
「何? 君たち付き合ってるの?」
首を傾げる北斗君の直球な言葉に光は鼻白む。私も驚いて首を横に振る。
「ち、違っ」
「……だよね」
慌ててふる私の顔に、目を細めると、眉を寄せたままの光を見た。
「ま、僕たちの事は光君には関係ないよ。でも、僕の無実は彼女が一番知ってる。気持ち云々は置いておいても、昨日も今日も、僕たちはずっと一緒にいた」
そうだ。私は私を振り向く光と目が合うと、頷いて見せた。昨日はあれから日が暮れるまでずっと一緒だった。夕飯時期には梓はいなかったというから、私達がちょうど一緒に家路についた頃だ。その時間があやふやだとしても、今朝はもう、早い時間から一緒だった。おばあちゃんだって証言できる。
北斗君が何か出来る訳がない。
光は悔しそうに唇を噛むと、私の手を握ろうと手を伸ばした。それを北斗君はひったくると、今度私の腕は彼の方に引っ張られた。
「がっかりだよ。友達だと思ってたのに……こんな、疑いかけるなんて」
「それは!」
顔を跳ね上げる光を、北斗君は冷たい目で見つめた。
「残念だよ。ハヤテ君も僕を嫌ってたみたいだし。ここにも本当の友達は……」
私の目を見つめる。今は濃く見える深い緑の瞳が揺れて、私は動けなくなる。
「希しかいないんだ」
その緑は深い深い闇色に変わり、そこには悲しみと寂しさの風が吹き荒れていた。私は、光を責めるつもりはなかったけど、こんな、何の証拠もなくただ余所者ってだけで、来た日から事件が続いてるってだけで疑われる北斗君が可哀そうで……。
「光。ちょっと頭冷やしなよ。私だって、怖いけど、今は喧嘩してる場合じゃないでしょ」
「やっぱり、希は北斗の味方なんだな」
突き放したような言い方に、ズキンと胸が痛んだ。
違う
何?
どうしたの?
二人とも変だよ?
大切な友達が二人もいなくなって、そのうえ喧嘩なんて嫌だよ!
「ね、話を聞い……」
光に歩み寄ろうとした私の手を、北斗君は強く引っ張った。
「行こう。希。僕はがっかりした。光君、君は変わったね」
「変わったのはお前の方だ。いいか、希になんかしてみろ。ただじゃおかないからな」
背を向けた北斗君に噛みつかんばかりの光は、低い声で唸る。北斗君は小さく小馬鹿にしたように笑い
「せいぜい……今度は耳切り坊主にでも狙われない様に気をつける事だね」
そう言い放ち、どうしていいかわからず戸惑ったままの私を引っ張って河原を後にした。




