二話
一歩外に出れば最近は柔らかくなってきた陽射しが気持ち良い。
風はまだまだ冷たいんだけど、それに花の香りが交ざりだすと、私はようやく長い冬が抜けたのだと安心する。
私は自転車にまたがると、思いっきりペダルを漕ぎだした。
今だに舗装されていない道もある私の町は、この間の統合でようやく町に昇格したくらいのど田舎だ。まだ鶏や牛を飼っている家だってある。
一度、テレビの田舎訪問みたいな内容の番組収録が来てて、軽くショックを受けた事があったっけ。
「なぁ。どこ行くんだよ~。今日、なんかあったっけ?」
どうしてついてくるのよ。振り返ると光が同じように自転車で追いかけて来た。
確かに、この村……じゃない町では大抵の事は筒抜けだ。
でも、だからこそ、この秘密は私にとっての大切な宝物で…。
「あっちいってよ! プライバシーの侵害よ!」
特にコイツにその宝物を荒らされるような事は絶対に嫌だった。
「なんだよ~。お前、不良にでもなったのか? こんな田舎で不良になっても仕方ないぞ? 相手はせいぜい俺の兄貴くらいだ」
光のお兄さんはこの街でたった一人の駐在さん。もう、何もかもがアットホーム過ぎて涙が出そうだ。
「じゃ、これ以上ついてきたら、アンタの事ストーカーってお兄ちゃんに突き出してやるから! 本当にあっち行ってよ!」
私は思いっきり顔をしかめて見せる。でも、しつこい光は道の先の方を見てから。
「なんだよ。希、幽霊桜に行くのか? やっぱ、気になってんじゃん。調査なら一緒に……」
「……アホか」
私は冷たい視線を送ると、思いっきり奴の自転車の横っ腹を蹴ってやった。
「え? お? おわぁ!?」
バランスを失った自転車は、舗装されてない石だらけの道には弱い。
奴はあっという間に……
「わぁっ」
畑に転げ落ちて消えた。
ざまぁみろ!
「のぞみ~! 覚えてろよ~!」
後ろで負け犬の遠吠えが聞こえる。しつこいお前が悪いんじゃ。
私は思いきっりもう一度舌を出すと、月詠神社に急いだ。
もうすぐだ。もうすぐ会える。
流行る気持ちはもう、あの木の元へ向かっていた。
ちょっと顔を上げないと目が合わせられないくらい高い背
色の薄い柔らかい茶色の髪
白くて透明な肌
優しく微笑む目
クラスの男子より低音で綺麗な声
スラリと伸びた長い手足
訛りのない言葉はまるで芸能人みたいで
マンガから抜け出して来たような、理想の男の子
「着いた」
私は神社に続く石段の前に自転車を止めた。
息が少し乱れてるのは自転車を急いで漕いできたからだけじゃないのは、自分が一番ん良くわかってる。
「あっ!」
みると、石段の下に一台の自転車が停めてあった。
もしかして、もう、来てるの?
心臓が止まるかと思うくらい痛んだ。
一気に喉が干上がって、唇が渇く。
さっきので泥とか跳ねてないかな? 髪は変じゃないかな?
どうしよう。どうしよう。あんなに会いたかったのに、すごく怖くなってきちゃったよ。
その時、一陣の風が吹き抜けた。石段を囲む木々が一斉に騒ぎだし、私を手招くように揺れ始める。
見上げると、木々の影で暗くなった先の鳥居が少し不気味に見えた。
「行こう」
私は自分を奮い立たせるように呟くと、その石段を登り始めた。




