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十七話

 その夜はなかなか寝付けなかった。

 男の子三人が私を送り届けてくれた時にはもう、お父さんもお母さんも家に戻っていて、第一発見者の私にさすがに小言を言えず黙って迎えてくれた。

 私の方も、残った三人が気にはなったが、それより梓が心配で、布団に潜り込んでからもすぐには眠気は訪れてはくれなかった。

 もし、ハヤテの勘が正しいなら一体誰が何のために梓をあんな所に呼び出して、あんな事をしたのだろう?

 首に巻かれた赤いリボンを思い出してゾクリとした。

 昨夜は北斗君との再会に胸を震わせていたのに、それがもう遠い昔の様だ。

 どうか……無事でいてね。

 目を瞑ると、梓の笑顔とあの白い顔が交互に浮かんで、どうしようもなく不安で、北斗君に会いたくなった。



 いつの間にか眠っていたらしい。

 何かにつつかれる様な窓の音で目を覚ます。

 時計を見たらまだ早朝って呼んでいい時間だった。

 重い瞼をこすって、まだ夢を恋しがる体を布団から引き剥がすと、その窓を開けて見た。


「おはよ」


「北斗君!」


 雨上がりのぬかるんだ道の上に、朝の柔らかい日差しを浴びた笑顔がこちらを見上げていた。彼が小石を窓に投げていたようだ。

 一瞬にして覚めた目は、もう何の夢を見ていたのかわからなくなるほど現実に切り替わる。慌ててくしゃくしゃの髪を手ぐしでなんとか抑えながら


「どうしたの?」


 なぜか小声で尋ねた。

 北斗君は両手を白いパーカーのポケットに突っ込むと


「まだ寝てた? ごめんね。早く会いたくて」


 もし、光が同じことをしたら、私はキレて窓を乱暴に閉めていただろう。

 でも、これが北斗君だと不思議と嬉しい。

 こんな時間に私の所に朝一番に来てくれたんだって、笑みがこぼれる。


「朝ごはんは?」


 北斗君は私の質問に困ったような顔で首を横に振った。


「うちで食べる?」


「いいの?」


 肩越しに振り返って耳を澄ます。一階からは物音が聞こえる。大人は起きているはずだ。今の時間なら両親は畑。おばあちゃんが朝ごはんの用意をしてるところだろう。


「いいよ! すぐに降りるから待ってて!」


 そう声をかけて北斗君が頷くのを待ってから窓を閉めた。

 北斗君と一緒に朝ごはん!

 きっと一人なら梓の事で食べる気も起きなかった。

 でも、彼となら……。

 そうだよね、私が元気出さなきゃ!

 私は目を覚ますように両頬を叩くと、持ってる服の中でも一番お気に入りに手を伸ばした。


 おばあちゃんは、朝からの訪問者にとても機嫌を良くした。

 もともと北斗君のおばあちゃんとは親友で、北斗君に会いたがってたのだ。


「いらっしゃい。あんたが北斗君かい。はじめまして」


「はじめまして。朝早くにスミマセン」


 北斗君は玄関先でそう頭を下げると、礼儀正しく靴を揃えて家に上がった。

 おばあちゃんは、目を細めて彼を台所まで通すと、席を勧めた。


「田舎の朝食何か知れてるけど、たくさんお食べ」


「美味しそうですね」


 そうおばあちゃんに応える北斗君は、やっぱり去年の彼と同じで、昨日のはきっと久しぶりの再会に緊張していた私の思いすごしなんだと思った。

 北斗君にお茶を淹れてから座って、一緒に「いただきます」と声がそろう。

 思わず顔を見合わせる。ちょっとくすぐったかった。

 食卓にはいつもと変わらないメニューだ。煮豆に焼き魚、おひたしに海苔、納豆、卵焼き。でも、北斗君を意識したのか一品だけいつもはない料理、サラダが用意されていた。おばあちゃんらしい気遣いに、私は思わず笑みをこぼす。


「それにしても、大きくなったねぇ」


「え? おばあちゃん、北斗君知ってるの?」


 おばあちゃんはにこやかな表情のまま頷いた。

 見ると、北斗君も意外に思ったのか、驚いた顔でおばあちゃんを見ている。


「赤ん坊の時だけど。そりゃ、お静ちゃんが心配してたもの。特に弟さんが生まれる時は大変でねぇ」


「……ここで僕たち生まれたんですか」


「え? 二人とも?」


 初耳だ。おばあちゃんは「当然よ」というと、遠い目をしてお茶をすすった。

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