我らの流派の奥義?
ちょうど何か言おうとしたその時――
突然、彼の顔が赤く腫れ上がった。どうやら荒木鉄斎が手を出したらしい。
「ここで俺の娘を侮辱する権利はお前にはない。」
「弱い者いじめをして、恥ずかしくないのか?」
「よし、決闘しよう!」
俺は拳を握り締める。この野郎、ほんとムカつく。手が勝手にうずくぜ。
「いいぜ!」と彼は軽く笑った。
こんなに早く承諾するなんて、何か自信でもあるのか、それとも俺を舐めているのか。
「ただの殴り合いじゃ面白くないな。」
「ほう、どうするつもりだ?」
「賭けをしようじゃないか。」
「賭け?」
「俺が勝ったらお前は黙ること。お前が勝ったら、俺は二度と絵里子に近づかない。」
いつの間にか周りには大勢の見物客が集まっていた。
「決闘が始まるぞ!」
「うわ、荒木鉄斎の弟子と拳王の弟だって!」
「どっちが勝つと思う?」
フィードは人ごみを見渡して得意げに口元を吊り上げた。
「いいぜ、じゃあこの場のルール通りにやろう――拳と脚だけ、手加減なしだ。俺はもう絵里子には興味ない。条件は変える。お前が負けたら、みんなの前で土下座して謝れ。」
俺は黙って上着を脱ぎ捨てた。日差しの中、裸の上半身が引き締まった筋肉のラインを浮かび上がらせる。
「いいだろう。」
言い終わらないうちに彼の拳が飛んできた。
普通なら不意を突かれていただろうが、俺は師匠と毎日鍛錬してきた。格闘の読み合いには普通の人より遥かに長けている。
彼が腕を振りかぶるのを見てすぐに察し、一歩かわし、肘で彼の脇腹を打ちつけた!
「ぐあっ!」
フィードは2メートルほど吹っ飛ばされ、地面に尻もちをついた。
「言ったことは守れよ。」
フィードは地面に這いつくばりながら、歯ぎしりをして恥ずかしさと悔しさを噛み締めていた。
「覚えておけよ!俺の兄貴は拳王リードだ。」
「リード?」
俺はその名を知らない。武の世界では、俺は誰も恐れずにやってこれた。
「兄貴に復讐させたいなら、かかってこい!」
「おう、覚えておけよ。」
彼は起き上がろうとし、部下が慌てて支えた。「行くぞ。」
彼らが去った後、荒木鉄斎が慌てて駆け寄ってきて、額に汗を滲ませた。
「お前はバカか!もし兄貴に仕返しされたら、お前は死ぬぞ!」
師匠は可愛い。さっきはあんなに怖かったのに、今は怯えている。
「師匠、なぜわざわざ相手の士気を上げて、自分の威厳を下げるんですか?お前、黒牙流が最強だって言ったじゃないですか。」
「おいおい、死ぬのはお前だぞ。焦れ。」
彼が尻に火がついた猫のように慌てる姿に、ちょっと笑いがこみ上げた。
「はあ……お前の師匠やるのはホント大変だ。」
彼は俺を引きずるように連れて行く。
「早く戻って稽古だ。今のお前じゃ拳王リードに勝てるわけない。」
……そんなにヤバいのか?
また稽古場かよ。正直、面倒だ。
「師匠、俺はもう限界だ。多分武道家としてはこれが頂点だ。」
「バカ言うな。武学に限界なんてない。」
彼は尻尾を踏まれた猫のように激昂し、厳しい口調で言った。
「悠人、お前は傲慢になってる。」
「違う、自信だ。」
俺は武道着の帯を締め直し、構えをとる。
「いい弟子だ。なら今日はきっちり教えてやる。」
彼も構え、踏み込んできた。
いつの間にか、あの荒木鉄斎の恐ろしい巨躯も、俺にはもう脅威に感じなかった。
一瞬で床が割れ、木くずが舞う。
荒木鉄斎が地面に叩きつけられ、
「いてて……逆徒!大逆不道!手加減しねえとは……ぐはっ!」
呻いた。
「師匠、全力は相手への敬意だって言ったじゃないですか。」
「そうだ、師匠はそう言ってる。」
彼は腰を押さえながら立ち上がった。
「もう教えることはないようだな。嬉しいよ。」
彼は鋭い眼差しで俺を見つめた。
……謙遜の言葉でも言うべきか?
「師匠、実はまだまだ学びたいことはあります。」
「はは、弟子よ、お前は謙虚すぎる。」
「師匠、魔法使いを知っていますか?俺、魔法も習いたいんです!」
異世界に来て、肉弾戦よりも華麗な魔法を使って、美少女の羨望の眼差しを浴びたい。
「魔法?そんなこと言うとはなにごとだ?人体ほど精巧なものはない。筋肉も骨も全て無限の宝だ。武学の先人はせいぜいその一割しか掘り起こせていない。」
……待て、師匠が筋肉自慢を始めたぞ。
いや、筋肉じゃなくてただの脂肪の塊がデローンってしてるだけだ。
目の毒だからやめさせなきゃ。
「師匠、拳王リードにどう対抗するんでしたっけ?」
その言葉に彼の顔色が一変し、眉間に厳しい影が落ちた。
「一番いいのは降参することだ。」
……は?マジで言ってるのか?
でも彼は冗談じゃなさそうだ。
「なぜ?」
「俺の息子と同じ死に方をしてほしくない。あの冷たい闘技場で死ぬのはごめんだ。」
彼は落胆の色を隠せず、まるで背骨を抜かれたようだった。
「師匠、息子さんがいるんですか?今まで見たことないけど?」
「もう死んだ。お前とは違うが、あいつは勇気を持って頂点を目指していた。だが最盛期に拳王に殺された。」
つまり、俺には義兄がいたが、彼は殺されたのだ。
「息子が死んだせいで妻も離れていった。俺があいつを闘技場に連れて行ったからだ。」
なるほど、だから絵里子も師匠に冷たいのか。
「わかった!」
「何が?」
「武道は孤独だが、魔法ならハーレムも夢じゃない!」
荒木鉄斎は口を開けたが、何か言いたそうで結局やめた。顔が便秘みたいになってる。
「それでも決闘に行くのか?」
「もちろんだ!師匠の仇を討つ!」
「悠人……」
巨大な身体が俺を抱きしめた。
……息ができねえ。
必死に振りほどいて、師匠の妻は命の危険を感じて離れたのかもしれないと納得した。
「勝率を上げるため、黒牙流の禁術を教える!」
「強力な技ですか?」
ついに奥義の登場か?ワクワクが止まらない。俺は武道の終着点は魔法みたいに遠距離攻撃だと思ってたから、これで魔法は捨てるつもりだ。
すると荒木鉄斎は床下から薄い冊子を取り出した。
「見ろ!これが黒牙流奥義・赫焉ノ血解だ!」
……名前からしてダサいんだけど!
「師匠、直接教えてくれればいいのに。」
「ええと……俺も久しぶりだから、復習が必要だ。」
確かに、この技は体にかなりの負担をかけるはずだ。普通の人間はまず習わない。
俺の考えを察したのか、師匠が説明した。
「これは本流派の禁術だ。魔法の禁術と同じで、よほどのことがない限り使うな。使う間は心臓が過負荷で動き、体温は3分間で70度に達する。普通は45度で死ぬが、武道家はギリギリ50度まで耐えられる。」
「その間、力と爆発力、速度が2倍以上に跳ね上がるが、使い終わったあとは不可逆なダメージが残る……」
説明途中で俺は冊子を奪い取った。
力が2倍って……武道家にとっては単純に強さが2倍どころじゃない。
もし1分だけ使えば副作用なしになるのでは?
よし、俺は天才だ!