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転生即奴隷、でも俺には奪えるスキルがあった  作者: まつしま ぜん
第一章 どれいがぶどうかになったけん
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奴隷にされてしまった

丸腰の今、あいつら相手に勝てる自信なんてない。数も多いし。


オレは木の檻に放り込まれた。中は汗と血の匂いが入り混じった妙な臭いがして、時折ガタガタ揺れるたびに酔いそうになる。


眉をひそめて、恐る恐る隅に座ってみた——が、尻に触れた黒ずんだ木の角材がチクッと刺さって、思わず顔をしかめた。トゲ付きかよ!……そりゃ、誰も座らんわけだ。


「ねえ、どこから来たの?なんで服着てないの?」


ふんわりとした声が聞こえた。


声の方を見ると、七〜八歳くらいの女の子が檻の隅で体を小さくしていた。


髪はボサボサで、顔も泥だらけ。でも、よく見ると整った顔立ちで、灰色がかった青い瞳は透き通るほど澄んでいた。


「オレは渡辺悠人。森でずっと暮らしてたんだ。君は?どうして捕まったの?」


「へんな名前ー」


少女はぱちぱちとまばたきしてから言った。


「わたしはエリー。三か月前に村が西嶺軍に焼かれちゃって……。ここの人たちは“税”を払わなきゃいけないって言われたけど、払えないと奴隷にされるの」


「……奴ら、政府軍か?」


「せいふ……?」


エリーは首をかしげてから、ぶんぶんと横に振った。


「よくわかんないけど、西嶺王国はこの辺で一番強い国。お城には王様とか貴族が住んでて、兵隊はその人たちの“つめ”なんだって。うちらみたいに家紋もなくて、戸籍もない人は“人間”じゃないって……ただの野民だって言ってたよ」


「……クソが。腐った支配者と搾取される庶民。この世界、なかなか見事な相互依存関係だな」


オレはこの国の“国民”にはなりたくないし、ましてや“奴隷”なんてごめんだ。


逃げるチャンス、絶対に見つけてやる。


「言葉、変だねー!もしかして、よその国の人?」


「まあ……そんなとこだ」


思い出される前世。家に引きこもってダラダラしてた日々。クズだったけど、少なくとも貴族の玩具になることはなかった。


エリーは特に驚いた様子もなく、むしろ「やっぱり!」って顔でうなずいた。


「あなたの国が助けに来てくれるといいね。西嶺王国の奴隷は、他よりひどいって聞いたよ。うちは最初、お金払えなくてね……お姉ちゃんが先に連れてかれたの。あれから何の連絡もない。たぶん、もう死んじゃったと思う」


感情の欠片もない言い方だった。まるで、当たり前のように。


「……オレが、助けてやるよ。君たちのこと」


こんな小さな子が奴隷なんて……あの貴族どもがどんなことをするかなんて、想像したくもない。でも……オレに本当にできるのか?ただの元・引きこもりだぞ?


その時、一人の細身の青年が近づいてきて、小声で言った。


「あまりしゃべるな。兵士に聞かれたらマズい。もう数刻で街に着く」


その男を見ると、歳は十七、八くらい。風に焼けた顔、肩に血のにじんだ包帯。反抗した形跡が生々しかった。


「名前は?」


「カロウだ」


彼は続ける。


「昔は山で狩りをしてた。今は……まあ、運が悪かっただけさ」


「どこに連れてかれるんだ?」


「“ノルマン城”の奴隷市にまとめて売られるって話だ。“観賞用”の奴隷を専門に扱ってるらしい。……お前みたいな顔立ちのやつは、高く売れるらしいぜ」


「……」


「ってことは、街に着く前に逃げるしかないな」


オレの中に、生存本能がフル稼働する。


「逃げる気か?」


カロウは声をさらに落とす。


「荷車が休憩で止まる時に鍵を壊せればな。けど、それを逃したら終わりだ。城門に近づけば、すぐ衛兵に引き渡される。そうなりゃ、もう飛んで逃げても無理だ」


オレは深くうなずいた。胸の奥で、逃亡への炎がごうごうと燃え始める。


「だったら、今夜の野営で決めるしかないな」


——そう思っていた。


夜が更けるにつれ、いくつかの篝火があちこちで灯された。橙色の炎が檻の中の瞳を照らし、その光が、自由への願いに見えた。


風は獣の皮の臭いや、焼肉の匂いを運んでくる。さらに、ごくごく酒を飲む音まで聞こえてくる。全てが、空腹の胃を刺激してくる。


「なあ、あの騎兵ども、肉食ってるぞ……」


ガリガリに痩せた男が、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「運がよけりゃ、骨のスープぐらいはもらえるかもな」


もう一人の年配の男が、かすれた声で答える。


しばらくして、たらふく食って気が緩んだのか、あの顎髭の兵士が別の兵士と何かを話しながら、こっちに向かってきた。大声で笑いながら。


誰もが、黒パンの一切れでも来るかと、期待していた。もしスープでもかかってたら、もはやごちそう。


カチャッという音とともに——


木の檻が開かれた。


だが、彼らの手に食べ物はなかった。伸びてきた手は、まっすぐ——


エリーに向けられていた。

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