表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生即奴隷、でも俺には奪えるスキルがあった  作者: まつしま ぜん
第一章 どれいがぶどうかになったけん
1/26

異世界転移

お読みいただきありがとうございます

 俺の名前は渡辺悠人、15歳。現在、絶賛休学中で自宅警備員をやっている。


 ……ん? なんで休学してるかって?


 はあ……学生なら学校に行くべき、っていう偏見はよく分かるよ。大人になれば働かなきゃならない、っていうのと同じくらいね。


 決まりきったレールの上を、ただひたすらに歩いていく。


 そうやって人間の貴重な黄金期を消費していくなんて、悲しすぎると思わない?


「でも、学校に行かずに家でゴロゴロしてる方がよっぽどダメじゃない?」


 ……そう思ったなら、君は大きな勘違いをしている。


 俺は今、とんでもなく重大なことをしているんだ。


 そう――世界を変えるような大事業を!


 父さんが遺してくれた「魔法のランプ」を磨いているのさ。


 そう、天井からぶら下がってるライトとか、LEDとかじゃない。


 アラジンの、あの「願いを叶えてくれる魔法のランプ」だ!


 手に入れた理由? ただ、俺は道を歩くとき下ばかり見てる癖があるだけ。落ちてる小銭を拾うのが好きなんだよね。


 でも、英雄に出自は関係ない!


 俺はこれから、人類の運命を変えるんだ!


 全人類が幸せになれる、そんな願いを叶えてもらうんだ!


 ……俺って、マジで偉大すぎる。


 そんなことを考えながら、ランプへの期待は膨らんでいくばかり。


「さあ! 出てこい、俺の願いを叶えてくれー!」


 薄暗くて狭い部屋の中、唯一光っているのはパソコンのモニターだけ。


 俺は両手で古びたランプを抱えていた。もともと埃まみれだったランプは、今やピカピカに光っている。


 ……が、いくら磨いても精霊は出てこない。


 期待が大きいほど、失望もでかい。ある意味、これは精神のエネルギー保存の法則ってやつだ。


 ……まさか全部、俺の勘違いだったのか?


「こんなの、使えねぇなら……いっそ壊してやる!」


 ランプを高く掲げ、床に叩きつけようとした、その瞬間――


 ぼわっ、と白い煙が噴き出した。


 どんどん濃くなっていくけど、不思議とむせたりはしない。むしろ高級アロマみたいないい香りがした。


 俺の目の前で、その煙が糸のように絡み合い、ゆっくりと一人の少女の形を成していく。


 神々しい顔立ち。柔らかい曲線の身体。透けるような薄い布を纏い、白いお腹と細い腕を露出している。


 金のブレスレットが腕に光り、足首の鈴が小さく鳴る。


 頭には金の羽飾り、髪は滝のような緑色。異国の香りと古代の魔法の気配をまとい、人間を超えた美しさを放っていた。


 彼女は静かに目を閉じたまま、空中に浮かんでいる。まるで今この瞬間に生まれたばかりの天使みたいに――


「……美しすぎる……!」


 俺が見惚れていると、ついに彼女はゆっくりと目を開けた。


 碧い瞳がきらめき、薄暗かった部屋が一気に明るくなる。


 その瞳に見つめられた瞬間、俺の心の穢れが洗い流されるような感覚に包まれた。


「……あなたが私を目覚めさせたの?」


 彼女の声はまるで音楽のように心地よく、聞いた瞬間鳥肌が立つ。


「は、はいっ! そうです、俺が目覚めさせました! お願いを叶えてください!」


 しかし、彼女はまったく動じる様子もなく、当たり前のように頷いた。


「言ってごらんなさい」


「人類全体の願いを、叶えてください!」


「却下します」


 ……は?


 一秒の迷いもなく却下されたんだけど!?


「人間よ、私にはそれほどの力はない」


「じゃ、じゃあ、俺を神様にしてくれ!」


「無理です」


 あれもダメ、これもダメ。お前、ほんとに願いを叶える精霊か?


 俺は考えた。そして、思い出した。


 そういえば……異世界に送ってくれる女神様って結構いたよな。


 異世界に行けば、ハーレムも名誉も全部手に入る!


 ならば――


「俺を異世界に送ってくれ!」


 これが俺の最後の選択肢だ。まさかこれすらも叶わないなんてことはないだろう!


「異世界? どこにそんなもんがあるっていうのよ。」


 彼女は俺を横目で一瞥した。その目線はまるでアイスクリームがトイレに落ちたかのように冷たく、口元には小馬鹿にした笑みが浮かんでいた。


「アニメの見すぎで脳みそ溶けたの? キモオタ。」


 そして、容赦のない嘲笑が浴びせられた。


 ドーン!!


 雷に打たれたような衝撃。魂が抜け出し、胸に「社会的死亡」と書かれたナイフが突き刺さる感覚。


 ……このクソ精霊、俺たち何の因縁もないはずだろ!? なんでいきなり人格攻撃!?


 もう……今すぐ死にたい……。


「さあ、凡人。さっさと願いを言いなさい!」


 あくびをかみ殺しながら、まるで注文に手間取る迷惑客を見るような態度だ。


 俺は無言で目をぐるりと回した。


 ……お前のスキルが雑魚すぎるからここまで長引いたんだよ。


 異世界転移が無理なら、この地球でやっていくしかない。


 富、健康、地位……精霊にとってはどれも簡単なはず。でも全部欲しいんだよなぁ。


「はやくしなさいよ。」


 俺は目の前の美しい精霊を見つめ、白い肌と整った顔立ちにふとひらめいた。


 ……そうだ。これならすべて手に入る。


「じゃあ、叶えられそうな願いにするよ!」


 ニヤリと悪魔のように笑って言った。


「……ほう?」


 精霊は怪訝な顔をした。「叶えられそうな願い? なによ?」


「君が俺の妻になることだ!!」


 精霊さえ妻にできれば、富も力も地位も全部手に入る!


 それにこんな美人の精霊なら、文句なしじゃないか!


 ……って、ん? なんか様子が変だぞ?


 なんで急に真顔になってるの?


 手に持ってるそれ、まさか――


 電撃!?


 やばっ!


「待て! ちょ、違――」


「アアアアアアアアアアア!!!」


 部屋が白く輝く。


 まるで操り人形のように体が痙攣し、電流に引きずられて暴れまわる俺。四肢がブルブル震えて、舌はもつれ、自分の焦げた匂いすら感じるほど。


「や、やめ、やめてえええええ!! 俺が悪かった!! 取り消す!!」


 ようやく電撃が止むと、精霊は満足げな笑みを浮かべていた。まるで他人を拷問して楽しむタイプの悪女のように。


 俺は床にへたり込み、口から黒い煙を吐き出す。


 アニメと全然違うじゃないか……! なんで美少女がいきなり拷問モードに入るんだよ!


 彼女は俺の前にふわりと浮かび、顔を近づけてニヤリとした。


「まだ私をお嫁さんにしたい?」


「い、いえ、全く思いません……」


 俺はMじゃねーぞ! もう一回くらったら、地獄で親父と花札でもすることになるぞ……!


 俺がすっかりしおれた様子に、彼女は少しだけ残念そうに言った。


「ふん、まだ完全に救いようがないってほどじゃないのね。」


 ただの欲張りでここまで言われるの、ひどすぎない? でも口には出さない。なぜなら命が惜しいのと、やっぱり……彼女、めちゃくちゃ美人なんだよな。美人が怒ってるのは怒ってるうちに入らない。不思議な理屈だが本音だ。


「さあ、願いを言いなさい!」


「……それじゃあ、俺の胃を治してくれ!」


 長年悩まされてきた胃痛、全部朝食を抜いてきた子どもの頃のツケだ。飯を楽しめない人生なんて、半分損してるようなもんだ。


「それならOKよ!」


 彼女は白く細い指を擦り合わせ、今度は気持ちのいい音で指を鳴らした。


「今日から、あなたの胃は完全回復! それどころか食欲も旺盛にしてあげたわ!」


 ありがたくねぇ! 俺はまた白目をむきながら心の中で叫んだ。できることなら消費者センターにクレーム入れたい。願いを叶える精霊って誰が言ったんだ、叫んで怒鳴って罰するばっかじゃないか!


 ……ん?


 なんだこれ。胃の奥から凄まじい空腹感が湧いてくる。


「な、なんだよこれ!? 俺に何をした!?」


「あなたには『食べて強くなる能力』を与えたのよ!」


 食えば食うほど強くなる……だと!?


「でしょ? いい能力でしょ!」


 彼女は微笑んだ。まさに絵画のような美しさだ。


「……でも腹減ったぁぁぁ!!」


 部屋中を見回すと、飛び交うハエと空っぽのカップ麺、食い散らかされたお菓子の袋ばかり。ちくしょう! もう食べ物が残ってない!


 そのとき、鼻が反応した。甘く魅惑的な香りが漂う。俺はその香りの正体に気づいた。


 振り返ると、そこにいたのは帰ろうとする精霊の背中。


「ま、待ってくれ!」


 俺は慌てて呼び止めた。


「……何よ?」


「その……」 口にたまる唾液をぬぐいながら言った。


「精霊の味、試してみたいんだけど。」


 だってさ、食って強くなるなら、世界一希少な存在=精霊を食べるのが一番効率良くね?


「……」


 彼女のエメラルドの瞳が、言葉では形容しきれないほどの衝撃を湛えていた。


 言った瞬間に後悔した。これはさすがにヤバい。もしかしたら俺、ここで消されるかもしれない。あるいは幻滅されてこのまま帰られるか……。


 ……と思ったら、彼女は細い腕をゆっくりと差し出してきた。


 雪のように白い手首。


「……強く噛まないでね。」


 なんだこのセリフ。どう聞いても夜のイベント前の台詞だろこれ。


 俺はためらいかけたが、彼女の魅力と空腹には勝てなかった。


 パクッ。


 口に広がるのは、ほのかに甘く血の味。俺の体内で細胞たちが歓喜の声を上げているのがわかる。


【力】

【不老】

【魔法適性】


 なんだこれ……? 興味が湧いた俺は口を離した。


 その瞬間、彼女の姿がスッと消えた。


 再び静寂が戻る部屋。


 魔法適性、つまり魔法を学ぶ素質ができたってことだろう。不老、力……つまり俺は、今……超能力者になったってことか!


「フフ……」


 ごめん、顔が緩んじゃってる。いや、これは仕方ないだろ!!


「俺は世界の神だぁぁああ!!」


 すでに常人を超えた俺は、久しぶりに外へ出ることにした。俺はちょっとしたオタクだけど、本当は美しい青空と少女の香りが好きなんだ。


 これから始まるのは、無限の快楽と自由に満ちた人生!


 さらば狭い部屋!

 さらば退屈な日常!


 ――だが、そのときだった。


 突風が吹いた。数ヶ月切ってない髪が視界を遮る。


 くそっ、前が見えねぇ……。


 ……あれ? 何かが、猛スピードでこっちに――!


 危ない!


 大型トレーラーだ!


 しかも前方に小さな子供が二人……!


「チャンスだ! 今日この日を、超越者誕生の記念日にしてやる!」


 俺は二人の子供を突き飛ばし、迫るトラックに向けて拳を振りかぶった!


 ゴキィィィ!!!


 右手の手首が瞬時に逆関節、骨がビスケットみたいに粉々になった。


 次の瞬間、肘、肩、鎖骨――骨という骨が関節からずれてバキバキに砕けていく。痛みで目玉が飛び出そうになる。


 そして叫ぶ間もなく、俺は紙で作った凧のようにトラックのタイヤに巻き込まれた。


 ドガ! ドン! ベキベキ! ズシャァァ!!


 アスファルトの上を跳ね、擦れ、転がり、骨はポップコーンのように弾け散り、内臓はスムージーのごとくかき混ぜられ――


 最後に、「プチン」という音と共に、俺の体はトマトのように潰れて植え込みにぶちまけられた。


 タイヤのスリップ音、群衆の悲鳴、運転手の叫び声が耳に響く。


 ……これはマズい。


 視界がぼやけてきた。


 ……死ぬのか、俺……?


 目の前に現れる幻影――走馬灯か?


 たくさんの知人の顔が通り過ぎ、最後に彼女――あの美しき精霊の姿になって……。


 このクソ精霊……まさか俺に渡したの、偽物じゃねえだろうな……?

ここまで読んでくれて、本当にありがとう

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ