ログハウスの台所事情
読んでいただきありがとうございます。
「今日も散策する予定だったんだけど雨か・・・。」
外に建てた前住居の中で焚火を起こし朝食をとる。
雨の最中外でとる食事というのもなかなか乙なものだが、せっかく家を建てれたのだから雨の日は中で食事をしたいものだ。
食事を終えグレイウルフの皮で雨合羽代わりにマントを作る。
テントの風よけに使っていた時に気づいたのだがこの毛皮は水をはじくのだ。
便利すぎるぞグレイウルフ。どおりで高値で取引されるはずだ。
「完成だ。」
グレイウルフ自体が俺よりも大きいので全身すっぽり覆えるマントが出来上がった。
頭を覆うフードの部分はグレイウルフの頭部をうまくかぶれるように加工した。
我ながら厨二心をくすぐるデザインセンスだ。ちなみに角は危ないので外している。
じゃあさっそく台所を作るべく素材探しの旅にでるぞ!
狼フードをかぶって雨の中闊歩する。
雨合羽代わりになれば十分だったが期待以上の効果を発揮している。
雨の中でも蒸れずに快適に動けるのだ。どんな環境でも生息できるというのは嘘ではないようだ。
今回の目標物は台所に使う防炎性の何かである。
何も見つからなくても最悪アダマンタイトを使えばいいいと思ったが、フライパンに使い心地を見るに伝熱性が高いのだ。
調理中に台所全体が熱を持って木が燃えてしまっては困る。
燃えなくて伝熱性がそれほど高くない素材といえば岩である。
ドラゴンの住む洞窟の付近まで来た。
壁の岩を風魔法で切り出してみる。
うん、ただの岩だ。砂岩を含んでいるのか薄茶色で内装の家に似ている。
パッとみたところ岩壁は全てこんな地質なので洞窟の住民にいい素材がないか聞いてみよう。
「カイ様ではありませんか。いつもの力強い気配がないので視界に入るまで気づきませんでした。」
「外を歩くときは魔力を抑えてるんだ。気配を消す練習がてらな。」
ドラゴンが俺を見て驚いていた。俺の気配を抑える技術はなかなか悪くないらしい。
「火に強い石を探してるんだけどなんかいいもの知らないか?」
「火に強い石ですか。ふむ・・・。」
こちらへ、つぶやくとドラゴンが洞窟の穴へ進んでいく。
ついていくと冷えた空気を感じる空間へ連れてこられた。
「この辺りの岩はほかのところより冷えてまして、ゆっくり眠りたいときはここで眠るのです。」
岩肌に触れると確かに冷たい。この上で寝れば真夏でも快適に眠れそうだ。
「ここの岩少しもらっていっていいか?」
「どうぞどうぞ。」
風魔法で岩を切り出し収納する。
貰って来た岩を家の前に取り出し、加工を開始する。
台所の調理場となる一枚の板を切り出す。
「綺麗な岩だな。見た目以上に頑丈そうだ。」
その岩は洞窟の暗がりではわからなかったが、日にさらされると白い岩肌に青白い光沢を見せた。
コンロの五徳になる部分を作る。鍋なんかを置く部分のことだ。
小さく切り出した岩を小刀でさらに削り出す。
一枚の板となった岩の一部に火の魔法を付与する。
魔方陣のような円を描き、円の淵にさらに小さな円を描く。
火力調節用のスイッチのようなものだ。
円の中に「ヒヲトモセ」と日本語ではないこの世界独自の文字を刻む。
叡智の書によると、魔法付与の時に使われる独自の文字らしく簡潔に命令文を刻むとより効果が発揮しやすいらしい。
魔方陣を囲むように五徳を取りつける。
洗い物をするシンクをつくる。
まぁ浄化魔法があれば洗い物なんてしなくていいんだけど、こういうものを充実させることによってQOLが上がるのだ。
シンクを岩から削り出しシンクの淵の一辺から水が出るように魔法を付与する。
シンクの底に穴をあけてその穴の奥に空間転移魔法を付与する。
下水道なんて作る技術はもっていないが空間転移魔法を応用すれば似たようなことができる。
転移先は湖につながるように開けた小さな穴である。
その穴に転移先となる魔方陣を描き裏に浄化魔法を付与した魔方陣を描く。
シンクから流れた水が穴にたまって浄化され一定の水量がたまれば溝から湖に流れ出るといった算段だ。
いい岩を手に入れたので冷蔵庫も作ってみる。
まず簡単な棚を作り中を切り出した岩で覆う。
これだけで扉を閉めると内部はかなり冷える。
しかしそれだけでは物を冷やすには十分ではないので冷気を発するように魔方陣を刻む。
扉の部分にアダマンタイトで作ったガラス板をはめ込み、扉を閉めた状態でも中を確認できるようにした。
シンクに冷蔵庫の完成だ。
これだけ揃えば何不自由なく暮らすことができる。
しかし俺のクラフト欲はこれだけでは収まらなかった。
外のテントと作業部屋に火を入れる炉を作った。
レンガのように切り出した岩を焼き窯のように積み重ねた。
室内の物は当然アダマンタイトを溶かすための物だが外のものは食材を燻製にするための物だ。
「完成だ!」
台所だけでなく作業場やテントにまで手を付けてしまった。
早速ボムの実のジュースを冷蔵庫に入れて燻製機にブラッドタイガーとグレイウルフの肉を吊るし燻製を作り始める。
新しいおもちゃを手に入れた子供のように、早く遊びたくて仕方がないのだ。
燻製にはボムの実がなっていた木を使ってみる。確か桜の木やリンゴの木なんかが前世では使われていたはずだ。同じような果物が生る木なら悪い様にはならないだろう。
燻製が出来上がるまでの間、暇つぶしがてら木像を彫っていた。
テポス様とシェイティア様をかたどった木像である。
信心深いほうではなかったが、これまで神の恩恵を全身であやかっている。
感謝の意味も込めて小刀で丁寧に掘り出す。
「駄目だ!こんなんじゃまったく美しさが再現できていない!」
完成した木像をみて自らのセンスのなさに絶望してしまう。
足元には50体ほどの木像が転がっていた。
前世でいわゆる美少女フィギュアなるものを見たことあるせいか、最低でも同じクオリティの物を作りたいと思ってしまい、作ってはその出来に満足いかず、何度も何度も作り直していた。
「これだ!悪いないできだ!心なしか後光が差している気がする。」
いったい何体目かの完成品だがようやく満足のいくテポス様の木像が出来上がった。
神のように美しいあの顔面の造形立ち姿を再現するのに苦労した。
窓際に飾ると窓から入る光が後光のように見えた。
足元をみると数えるのも嫌になるくらい失敗作が転がっていた。
捨てるのも忍びないので空間収納へ片づける。
「てかどれだけ時間が経ったんだ?燻製ほったらかしだ!」
急いで外に出て燻製機の扉を開ける。
かなり濃く色づいた肉がそこにはあった。
すでに木の火は消えており、恐る恐る肉をちぎり口に含んでみる。
「うえぇ、こりゃ失敗だな。煙いしえぐみが強い。」
顔をしかめてぺっぺと肉片をはき出した。
ログハウスはかなり快適な作りになったが、使い方も気をつけなければと思う出来事だった。