自家製実家
読んでいただきありがとうございます
「さすがにちょっと臭うな」
ログハウスを建築するにあたり間取りは決まってないがとりあえず大量の丸太が必要になることは火を見るよりも明らかなので、ばっさばっさと伐採を行っていると、自らの体臭に不快感を覚えた。
こっちに来てからまだ数日しかたってないけど着替えていない。朝になると湖で顔を洗いはするもののシャワーどころか水浴び、洗濯すらしていない。
だって着替えがないもん。
湖のすぐそばを建築予定地として位置付けその周りの木を木材調達と整地を兼ねて切り倒していく。
腰には自分でこしらえた小刀を下げている。グレイウルフの皮を刀身に巻いて鞘代わりにしている。
しかし木を切り倒すのには使っておらず手刀や風魔法を駆使して切り倒している。
木の幹を手刀で一太刀、倒れ始めてくる途中に風魔法で細かい枝木を切り落とし、地面につく前に綺麗に丸太の状態になりそのまま空間収納へ入れる。
作業中にたびたびグレイウルフに襲われた。
「今作業中だから邪魔すんなよな」
時を止めて仕留める。
グレイウルフの血抜きの為木に吊るしている途中嫌なことに気づいた。
「さすがにちょっと臭うな」
獣を血抜きしているが明らかにこの匂いは獣からではなく自分から発されている。
「お風呂を作ろう」
アダマンタイトを空間収納から大量に取り出す、そのまま黒い炎へ放り込み一塊にする。
強く輝き始めたところで取り出して5cmほどの厚さになるように金槌でたたいて伸ばし、広げる。
広げ終わったところで熱が取れ硬さを取り戻し始めたので板の上に直接火のついた焚火をのせる。
再び柔らかくなったところで大きなバスタブ状になるように形を整えた。
「完成だ!」
アダマンタイトを適当に取り出した分すべて使ったのでかなり大きなバスタブが出来上がった。
人が3人入っても余裕だろう。俺以外はいる人いないけど。
魔法で水を出しバスタブに入れる。アダマンタイトの延べ棒の上に乗せ、下にできた隙間に普通の焚火を置いて湯を沸かす。
「あぁ~ぎもぢぃ~」
数日ぶりのお風呂は身が溶けるほど気持ちよかった。
残り湯で服も洗ってしまおう。これで体臭問題解決だ。
見た目がいいんだから、服にも気を使わないとな。
前世では洗濯物を溜めがちで清潔感あふれるということもなかったが、イケメンの着ている服が臭いだなんてプライドが許されない。
「お湯だけで汚れ落ちるかな。石鹸の作り方とか便利な魔法とかないか調べるか。」
風呂に入りながら叡智の書を開く。
石鹸の作り方が載っている。ざっくり目を通すと灰と動物の油と水を混ぜて固めると石鹸になるとのこ
と。
「動物の油か・・・。グレイウルフの肉は脂身あんまりないから別の動物探さないとな」
ページをめくる。
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浄化魔法
光魔法に属する魔法。汚れや穢れを浄化して清潔な状態にする。
高度な浄化魔法により邪悪なものを寄せ付けない効果も付与できる。
発動方法は~
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これでいいじゃん。
「きれいにな~れ~」
適当な呪文を唱えると服の汚れはきれいさっぱり消え去った。
心なしかさわやかないい香りがする。
今まで魔法は感覚で使っていたが浄化魔法はより感覚的なものらしい。
火魔法のページをめくってみたことがあったが何やら難しい理論が書いてあった。
それに比べ浄化魔法のページは理論というよりも感情や心持ちを言及しているのがよく見受けられた。
清めたい心、高潔な精神、そういう部分が大きく影響するようで、そんなことが書いてあった。
浄化魔法を使うには何も清く正しい心を持ち悪い心を持っていては使えないということもないらしく、一般的な衛生観念さえあれば手を洗うのには十分なくらいの浄化魔法を発動できるそうな。
もちろん発動できるかどうかは適正次第だが。
「さてと、間取りを考えるか。」
手頃な棒を持って実際に地面に間取りを描き始める。
「玄関はこの辺りで・・・、入ったところを広めのリビングにして・・・
調理台をこの壁際に作ってその横に食器を仕舞う棚を置いて・・・」
がりがりと地面を削り、出来上がりを想像しながら描き進める。
「お風呂も作ったから浴室も作ろう・・・湖が見えるように開放的なつくりにして・・・
寝室も作るか・・・ベッドをもっと大きくふかふかにしてみたいな・・・」
だんだん楽しくなってきた。旅行のスケジュールを決めるような楽しさだ。
「工房も作ろう・・・鉱石に火を入れる炉も作りたいな・・・
お客さんが泊まりに来た時ようにもう一部屋余分に作ろう、役に立たなかったら倉庫としてつかえばいいし。」
「ちょっと調子に乗りすぎたかな」
完成予想図を見渡すとそこそこでかいログハウスになりそうだ。
俺一人しか住まないどころか、招く友人もいないのに客室まで作ってしまった。
まあいいか。
ちょっと床を高くして床下を吹き抜けにして湿気がたまらない様にしよう。
丸太を加工しながら土台となる部分を作り始める。本格的に住む家を作るんだ妥協せずに組み上げよう。
床は丸太を盾に真っ二つに割ったものの上にさらに板を敷いて魔力をまとったグレイウルフの毛皮で磨き上げる。
細かい紙やすりで磨くつもりでやってみると期待以上の効果を発揮し、ただの木材からピカピカのフローリングのようになってきた。
壁の隅となる場所に太めの丸太を突き刺して柱を立てていく。
その間を横にした丸太を重ねて壁を作っていく。それだけでは細かい隙間ができてしまうので湖から取った泥とほぐした木を混ぜこんだものを詰めて隙間を埋めていく。
この辺りで休憩をとることにした。
ボムの実を絞ったジュースを飲む。果汁100%なので濃厚な味わいだ。
屋根はまだできておらず家具も置けていないが壁は大半出来上がった。
少しづつ出来上がっていくログハウスをみて喜びを感じる。
思わず小躍りをしてしまいそうだ。
ジュースを飲みながらにやにやしながら眺めてその日は眠りについた。
目が覚めると少し肌寒かった、耳を澄ますと雨音が聞こえる。
初めての雨だ。
雨じゃん!!!!
思わず飛び起きて外に出た。
まだ小ぶりだが空を見ると曇天が近づいてくる。大雨になりそうだ。
「今かよ!まだ屋根作ってないよ!せっかく床ピカピカにしたのに汚れちゃうじゃん!」
どうしようどうしよう、せっかく丁寧に組み上げていたのに、雨よけのビニールシートなんてもちろんもっていない。
なんてタイミングの悪いやつだ。もう1日か2日待っていてくれたら完成しそうだったのに!
「雨雲の癖に!俺の建築の邪魔すんな!!」
行き場のない怒りを込めて巨大な真っ黒な炎の玉を作り雨雲に向かって放った。
巨大な炎の玉はより大きな雨雲に飲み込まれ、炎が完全に消えたかと思ったとき爆音が鳴り響いた。
「カイ様!大変です!空が爆発しました!」
爆音を聞いて反射的に耳をふさいで、鳴りやんだかなと思い耳を開けるとそんな声が聞こえた。
いつの間にかドラゴンが目の前にいる。先ほどの爆音を聞いて駆けつけてきたのだろう。
「この森に敵がいます。気をつけてください。あれほどの宣戦布告をする輩です。私ごときが力になるかわかりませんが共に戦いましょう!」
忠義に厚いドラゴンである。
「あれはカイ様の仕業、いや御技だったのですね。」
警戒心を解くために説明するのは大変だった。
「なぜそのようなことを?」
「あっなるほど、建築途中のお家が濡れてしまうと、、、なるほど。」
「時を止めればよかったのではないでしょうか。」
正論である。
意図したわけではないが、わざわざ魔法で雨雲を消す飛ばすより時を止めて一気に建て切ってしまうか簡易にでも屋根をつければよかっただけの話である。
「いやぁしかしながら、なかなか立派なお家ですな!私に人間の建築様式はわかりかねますがなかなか見ない造りでおもしろいです!」
ドラゴンに正論で殴られしょぼくれた俺を見かねてか気遣うように家を褒め始めた。
「カイ様が自ら魔力を込めて組みげているせいか普通の家よりかなり頑丈な造りになってますよ。
ちょっとやそっとのブレスじゃ壊れませんよこれ!
私が乗っても大丈夫なんじゃないですか?」
「え〜ほんとに〜?いいよそんな気ぃ使わなくて〜」
俺を元気づけるためだろうが褒められて悪い気はしない。
「いやいや実際本当ですよ。私が空間を破り神の領域に近づいた時の感覚に似ています。
この家そのものが神の領域に近しいものとなっています。
神に憧れその領域に最も近づいた愚かなドラゴンが保証します。」
嫌なお墨付きを頂いた。
起きた時は青ひとつない雲空と言った感じだったが、今はその真逆である。
せっかくなので何かお手伝いしましょうかとドラゴンに言われたので甘えることにした。
「じゃあこの前もらったこの鉱石を火で炙っといてくれ。黒い火で炙ると柔らかくなって加工しやすいんだ。」
「黒い火って私が前使っていたあのブレスのやつですか?」
「そうそうあれ。普通の火より高温で溶かしやすいんだよね。
真似してみたらできたんだ。」
「地獄の業火も燃やし尽くす黒炎を使えたのですか・・・
私が使ったのを一目見ただけで。
黒炎を使えるのはこの世に私だけだと思っていたのですが・・・」
なにやら知らず知らずのうちにドラゴンのプライドをへし折ってしまったようだ。
今度はドラゴンがしょげながら、言われた通り黒炎でアダマンタイト鉱石を炙っている。
そんな状況を尻目にせっかく晴れにしたので早速作業に取り掛かる。
屋根の骨組みを組んで梁を通して天井をつけずにそのまま屋根を被せる。
こうすることで天井が高くなってより解放的な内装になる。
アダマンタイトを使って釘を作ることもできるが、せっかくなので釘を使わず木を組み合わせて最後まで建ててみよう。
シェイティア様に納める立体パズルをつくる練習にもなる。
腰を飾るだけのおしゃれアイテムになったかと思われた小刀だがここで活躍する。
自ら刃物を握り木を削ると魔法を使う以上に繊細な作業ができることに気づいた。
効率の魔法。技術の小刀。威力の手刀といったところか。
「よし!とりあえず屋根も組み終わったな!」
「私からは完成にみえますが、まだ何か作業が残っているのですか?」
「細かいところまでいえば家具がまだ全部完成していない。ふかふかのベッドもまだないし、工房の炉も作れてない。
そして何より窓がない。外からの光を取り入れないと中が真っ暗だからな。」
ドラゴンが準備してくれていたアダマンタイト鉱石を一つ持ち上げ金床で薄くなるまでたたき始める。
ドラゴンはその様子が珍しいのかまじまじで見学している。
「ほう、あの石ころがこんな透明な板になるとは人間とは面白いことをする生き物ですね。
かなり薄いのに見た目以上の硬度を有していますな。」
木の枠と薄いアダマンタイトで窓を作りそれぞれ壁に取り付ける。
浴室の窓は一番大きく作った。風呂に入りながら湖を一望できる。
そして最後にとっておき。
毎日叡智の書で少しずつ魔法を勉強した集大成を見せる時が来た。
アダマンタイトの原石に光魔法を付与する!
これで夜でも明るい室内がキープされる。
指パッチンの音に合わせて照明をつけたり消したりできるように条件付けするのが大変だった。
こうして考えると前世の文明水準はかなり高かったな。インターネットとか作れる気がしないもん。
手伝ってくれたドラゴンにお礼をいい、今まで作った家具を運び入れ、その日は手作りログハウスのぬくもりを感じながら眠りについた。