着工
読んでいただきありがとうございます
「じゃあ今日から本格的にログハウスを作っていくか。」
時を止めて作れば日が落ちる前に作ることも可能だがせっかく作ったテントにも愛着がある。ゆっくり作っていこう。
「食器とか調理器具も欲しいよな。」
串に刺さった肉を見てつぶやく。
イスとテーブルで食事をとると今まで気にならなかったが、食器がないことに違和感を感じる。
果物はテーブル直置きでもいいけど焼いた肉を置くわけにはいかないのでずっと手で持って食べる。
地面に座っていた時はキャンプ飯って感じで手持ちで肉を食べること自体おいしく食べるシチュエーションとなっていたが、テーブルと机ができた今となっては食器がないことは違和感でしかない。
「木から削り出して作るか。鍋とかも欲しいよな・・・、これは木じゃ無理か。」
金属が欲しいものだ。
金属が取れそうなところといえば・・・。
「おや、カイ様ではないですか。家はできましたかな。」
ドラゴンのいた洞窟にやってきた。
金属がとれるかどうかはわからないが、ほかに当てもないのでダメ元である。
「家はまだ作り始めたばっかりでできてないよ、ところでこの洞窟で金属がとれたりしないか?
鍋とかフライパンを作りたくてさ。」
「金属ですか。フム。お求めのものかわかりませんが、たしかこの辺りにそれらしきものがあったような」
ドラゴンは尻尾を近くの壁にたたきつけると、岩壁が砕け散った。
砕けた岩の中からきらきらとしたものがちらほらと見える。
きらりと光るものを手に取るとそれはやや半透明な水晶のような、金属のような、不思議な光沢をもつ鉱石だった。
岩の中に埋まっていたそれはかなりの数がある。
「ありがとう、これで鍋を作れるか試してみるよ!」
大量の鉱石を空間収納に次々と仕舞ってドラゴンにお礼を言って洞窟をでた。
「とりあえず持ってきたけどこれなんの石なんだろう。」
叡智の書を取り出して調べてみる。
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アダマンタイト鉱石
非常に硬度の高い鉱石。魔力が豊富に含まれる土地で稀に見つかることがある。
高熱を加えると加工しやすくなる。
武器や防具など様々な用途に使用可能。
価値は高いが、加工が難しいので素材としての価値ではなくその希少さからの価値が高い。
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稀に見つかることがあるって本当か?壁たたいたらぽろぽろ出てきてたぞ?
叡智の書の情報精度に疑問を抱きつつも、とりあえず素材を手に入れた。
加工が難しいと書いてあるだけあってちょっとやそっと力を加えたくらいではビクともしない。
「高熱を加えると加工しやすいって書いていたよな。」
アダマンタイト鉱石を焚火に放り込んでみる。
しばらく様子を見てから取り出す。
ちなみに素手である。
火をつけるときに体の中に不思議な力が流れるのを感じた。
気になって寝る前に叡智の書で調べてみるとどうやらこれが魔力というものらしい。
この魔力は使いようによっては魔法を発動させるだけでなく肉体を強化させることもできるとのことだ。
体に流れる魔力の流れを腕に集中させると火の中に手を突っ込んでも平気なくらい強化されている。
閑話休題、話を戻そう。
焚火から取り出したアダマンタイト鉱石は熱されて赤く光っている。
力を加えてみるとやはりまだ硬い、しかし先ほど程の硬さはなく思い切り力を籠めると、ゆっくりではあるものの確実に形を変えつつある。
「っ!!!このっっ!!!―――はぁっはぁっはぁ・・・。
さっきよりは形を変えれるけどやっぱりまだまだ硬いな。
もっと熱を加えてみるか、焚火なんかよりもっと高熱を。」
手のひらから炎を出す。赤い炎がめらめらと揺らめく。
しかしこのままでは焚火につけた火と同じだから結果は変わらないだろう。
もっと高熱を・・・。
あの時ドラゴンが吐いた真っ黒な炎を思い出した。
すると先ほどまで赤かった炎が黒く染まり始め、さらなる熱を持ち始めた。
これだ。この炎を薪に移し真っ黒な炎が踊る焚火にアダマンタイト鉱石を放り込む。
アダマンタイト鉱石は真っ黒な炎の中で先ほどよりもより強く輝き始めた。
光り輝くアダマンタイトを取り出すとすでに感触が違う。
手を魔力で覆い強化しているものの熱を感じる。持てないほどではないがかなり熱い。
あれほど硬かった鉱石が今は油粘土ほどの柔らかさを持っている。
「最初に作ると言ったらあれだよな」
柔らかくなっているうちに手でこねて加工する。
アルミ缶のような円柱状の側面に穴をあけて水につけて一気に熱を奪い形を固定する。
穴に持ち手となる木を取り付けると金槌の完成である。
「やっぱり道具がないと金属加工しにくいよな。」
程よい重さとなったアダマンタイトの金槌を軽く振る。
物を作るための物を作るための物を作る。
進捗でいえば数%だが少しずつ目標に近づいていくこの感じがたまらなくうれしい。
次は金床を作った。
黒い炎は薪の消費が激しく目を離せばすぐに薪を燃やし尽くしてしまうため、じゃんじゃか焚火に木を放り込む。
金床ができてしまえばあとは叩いて加工する工程に入れる。
フライパンを作り鍋を作りフォークやスプーンなんかも作った。
皿やコップは木を削りだして作る。
数を作るにつれてコツをつかみ始め、風魔法の精度が高くなりどんどんクオリティが高くなり良い仕上がりになるものができ始める。
それが嬉しくてついついたくさん作ってしまった。
食器を仕舞う棚も作らなきゃな。
「おぉ、かっこいいな。」
俺の顔を褒めているのではない。
手に持った小刀を褒めたのだ。
正直言うと刃物は必要ないのである。なぜって風魔法で風の刃を作れるし、木で切り味を試してみるとストンと見事な切り口で切れはするが、俺の手刀のほうが切れる。
それなのになぜ小刀を作ったかって?指で削ったり魔法で削りだしたりするより、刃物で直接削る作業っていうものはモノづくりの醍醐味なのだ。
不便さを楽しむとでもいうのだろうか。風魔法でちゃちゃっと削ってしまうよりもこちらの方が楽しいし、何より心がこもる気がする。
「じゃあ今日から本格的にログハウスを作っていくか。」
美しい光沢をもつ小刀を眺めながら、新たな意気込みを決意した。