夢のマイホーム
読んでいただきありがとうございます
「うわー、マジでテポス様にそっくりじゃん」
水面に映る自分の顔面偏差値の高さに思わず口をついて出てしまった。
異世界に来て初めての夜を過ごし、朝日で目が覚めた。
焚火を見ながらこれから何を作っていくかなんてことを考えていたら、スマホなんてなくても退屈しなかった。
「水辺の周りを拠点にしたのは正解だったな。」
全ての文明は水辺から発展していったのだ。
朝になって湖で顔を洗いながらしみじみ思う、
「それにしてもかっこいいな、俺。」
前世なら口が裂けても言えない言葉だ。
俺の体は基本テポス様ベースに作られているのだろう。
テポス様と違うところといえば髪の毛と瞳の色だ。
テポス様は輝くような銀色だったが俺は吸い込まるような黒色だ。
「目と髪の毛は日本人の癖に顔面の作りが人間のそれじゃないな。
この世界の人たちってみんな美形なのか?」
自画自賛の言葉を吐きながら朝食を済ませる。
栄養豊富だと噂のボムの実をかじる。程よい酸味が口の中に広がる。
「さてとじゃあさっそくあれ作るか。」
「夢のマイホームだ!」
昨晩は簡易のタープの下でグレイウルフから拝借した皮にくるまって寝た。
高値で取引されるだけのことあって寒さなど感じずに寝ることができた。
「やっぱ文明人たるものいつまでも野営なんてできないからな。
ログハウスでもつくってみるか。」
以前一人の男が森の中でログハウスを作る動画を観たことがある。
元居た世界の人間でもできたのだ。神パワーと叡智の書を手にした俺に作れないなんてことはないだろう。
昨晩は大丈夫だったが、雨風がしのげる空間は不格好でも欲しいものだ。
とはいえいきなりログハウスに着手するのは難易度が高いだろう。
最初はこの簡易タープをレベルアップさせるとこから始めてみよう。
「屋根は必須だとして、動物の皮で風よけの壁でも作ってみるか。
椅子と机も欲しいな、あとふかふかのベッドも欲しい。」
風は凌げたとはいえ昨日はグレイウルフの皮を敷いただけの地面に眠ったせいか体が痛い。
正直ドラゴンに殴られた時より体にダメージを受けた。
「とりあえず木材を調達しよう。」
我が水平チョップで森林を伐採するのだ。
木を切り倒し枝葉を取りいくつかの丸太を作る。抱き着いたらちょうど手を回せるくらいの太さだ。
もっと太い木もあったがここまで大きく育った木を倒してしまうのはしのびない。
「椅子は丸太をぶつ切りしただけでいいとして机はさすがに板が欲しいよなっと!」
手刀を勢いよく振り下ろし短冊切りの要領で丸太を板に加工する。
2枚ほどつなぎ合わせれば畳一枚ほどのサイズになるだろう。
・・・どうやってつなげよう。釘なんてものはもちろんないし。
釘がない。
釘がない時代の人はどうやって建築をしていたんだ?
確かテレビで見たことあるな。
昔の建物は木材をうまく加工して立体パズルのようにつなげていったのだ。
「失敗してもいいから手探りでやってみるか。失敗したらもっと刻んで薪にでもすればいいや。」
板の側面を斜めに加工する。片方をつなぎ合わしてつなぎ目から垂直方向に切れ込みを入れ、切れ込みにうまくはまるように加工した板をはめ込む。
同じ加工を何か所かに施すと思いのほかうまくできようで、ちょっとやそっとじゃ外れない丈夫な一枚板ができた。
「おぉ。結構うまくいくもんだな。」
足を取り付ける。同じくらいの長さに切った棒切れを四隅に取り付けるだけだが今度こそ釘が欲しいものだ。
ないものねだりをしてもしょうがない。何とか工夫しよう。
要は上にのせてれてずれなければ机として機能するのだ。
板の四隅に十字の溝を彫る、指先で掻いてみるとうまく削れる。
足となる棒の先端を+ドライバーのように加工してはめ込んでみるものの、なかなかうまくいかない。
少しずつ削ってうまく擦り合わせる。
「できた!」
天板に足が一本うまくはめ込まれた。
「よしよしうまくできてきたぞ。」
わずかな達成感に興奮を覚え同じ要領で残りの足をつけていく。
「完成だ!」
上手くはまらない足に四苦八苦しながらなんとかすべての足を取り付けることができた。
机をひっくり返して仕上がりを確かめる
結構がたつくな。
そりゃそうだ、寸法をきっちりそろえて足を作ったわけではない。
長い足を短い足に揃えてすこしずつ削ってみる。
がたつきが気にならない程度になった。
出来立てのテーブルとイスに座り昼食をとる。
イスとテーブルで食事をとるだけで一気に文明のレベルが上がったのを感じる。
ひとまず落ち着いて座れる場所ができたので叡智の書で魔法について調べてみる。
実は時間停止や瞬間移動だけではなく焚火の火をつけるのにも魔法を使っていたのである。
どうやって火をつけようか悩んでいた時、物は試しに念じてみると指先からライターほどの火が付いたのだ。
「魔法といっても色々あるんだな。」
火、水、土、風、雷、光、闇と7種類の基本属性があり、これらは神様から加護を貰わずとも誰でも使うことができるらしい。
人によって向き不向きがあるとのことだ。
火魔法が使えてよかった。これができるだけで焚き火には困らない。
さらに読み進める。
基本の7属性以外にも治癒魔法や空間魔法、時間魔法がある。
これらは神様から加護を貰わないと使えない魔法だそうだ。
魔法といっても単に指先から火をつけれるようになるだけではなく、木の棒に火の魔法を付与すれば魔法が使えない人でも木を使って火をつけれるそうな。
「これを使えたらコンロとかも使えそうだな。」
俺が特に目についたのは風魔法だ。カマイタチのように風で刃を作り物を切ることができるらしい。
木を切ること自体素手でもできるけど、この魔法を使えばより繊細な加工をできるかもしれない。
「早速試してみよう」
より快適な住居を築くため、木造の屋根づくりに着手する。
「風魔法で木を加工する・・・風魔法で木を加工する・・・。」
屋根を取り付ける骨組みを組むために机の天板を組み合わせた要領でつなぎ目をどう加工するか詳細に思い浮かべる。
「ここに風の刃を入れて、ここをこう削り出して。」
ぶつぶつつぶやきながら念じてみる。
すると風が吹き思い浮かべたとおりに木が削り出された。
「お~、出来たじゃん。」
感嘆の声が上がる。
風魔法にも適性があったようだ。
風魔法を駆使して骨組みをくみ上げる。手で加工していた時よりも素早く加工が進み、机より早く出来上がった。
骨組みの上に屋根となる板を取り付ける。3方向をグレイウルフの皮で簡易の風よけを作り・・・。
「完成だ!」
拙い出来だが雨風は十分しのげるだろう。
風魔法を使えるようになり木の枝を爪楊枝のように加工することができるようになった。
これで布団をつくることができるぞ。
「もう少しグレイウルフを狩ろう。」
森を散策してボムの実を集める。
空間収納があると籠がなくても持ち運びができて便利である。
果物を集めながらグレイウルフを7匹狩った。もちろん時間を止めて倒した。まだちょっと怖いもん。
新たに手に入れたグレイウルフの皮。その一枚を風魔法で加工して長い皮ひもを作る。
それをアイスピックくらいの太さの裁縫針に加工した木の針に通すと裁縫セットができた。
これで皮を縫い合わせて大きな袋を作る。
袋の中に木をほぐして作った綿のようなおがくずを入れるとふかふかの布団の完成だ。
「これでいい寝床ができた。今日から寝るたびに体を傷めずにすむな。」
簡易のタープの下で地べたで寝転がっていた昨夜に比べて大進歩である。
今夜はふかふかのベッドで眠ることができる。