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迷惑なる隣人

読んでいただきありがとうございます。

「我が縄張りにのこのこ入ってくるとは、貴様死にたいのか。」


黒い鱗に身を包んだドラゴンが口から黒い瘴気を吐きながら問いかける。


俺は「後悔先に立たず」という言葉を思い出しながら、背中にジワリと汗が噴き出すのを感じた。












目が覚めるとそこは知らない天上、ではなく木漏れ日のある葉っぱが目に映った。

体を起こすとあたりは木々に囲まれており、大きな獣道の真ん中で寝ていたようだ。

木に生えている実に注目すると、前世では見たことのない、小さなリンゴがブドウの房のように大量に実っている。

珍妙な果物のようなものを見て改めて異世界に来たことを実感した。


立ち上がると体に違和感を覚えた。

肌が白い。俺は日焼けしている方ではなかったが、ここまで美肌ではなかった。

そして目線が低い、体感だがおそらく140~150cmくらいの身長になっている。

こっちに来るタイミングで俺の体はこちらに馴染むように作り変えられたのだろうか。


そんなことを思いながら、体をまさぐるとポケットにメモが入っていることに気づいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

話の流れがいい感じだったから勢いでそっちの世界に移したけど詳しい説明をしてなかった気がするからメモを入れておくね

話した通りまず君には迷惑な隣人を何とかしてほしい、方法は任せるからちゃちゃっと解決してね

君はもう『時界神の使途』を持っているから、僕が不快に思うものには敏感なはずだ

嫌な感じがする方に進むとそいつは見つかるだろう


叡智の書は空間収納に入れておいたから取り出して使ってごらん

手始めに今いる場所を確認してみるといいよ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


詳しい説明の補助で入れられたメモのはずなのに何も詳しいことが書いていない。

空間収納ってなんだ?よくわからん魔法を階段下のデッドスペースみたく書くんじゃないよ。


ともあれメモに従って叡智の書を取り出してみよう。

やり方はわからんが両手を前に出して念じてみる。不審な行動をしてもここには俺しかいないのだ、恥をかくこともないだろう。


すると何もない空間から突如として本が現われた。

なるほど、これが空間収納か。なかなか便利じゃないか。


あらゆる知識が書いてあると謳う叡智の書を手に取り、今いる場所を調べるべく地図でも探そうかと本を開く。

開いたまさにそのページに『現在地』と記された情報が載っている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

現在地

ここはコルコッサ王国とエンディル王国の間に位置する森である。

豊かな自然と多種多様な生物が生息しており、人間の手は加えられていない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これはあれだ、あの時の気分だ。

家電のエラー表記を調べるため取扱い説明書を読んだとき、わからない単語とわからない単語で説明されてるときの気分だ。


「ハァ、いいや、とりあえずテポス様のお願いを先に済まそう。

地理や国柄なんかはあとでゆっくり調べよう。」


メモには俺が嫌だと直感する方に進めばそいつに行きあたるとのことだ。

あたりに意識を向けると、なんとなくだがこっちに悪いものがあると感じる方向がある。

これから絶対出るって噂の超有名心霊スポットに行く気分だ。

怖いけど何がでるか少し好奇心がある。

そんな思いを胸に足を進める。


最初は目に飛び込んでくる目新しい植物や生き物に興奮して、知らないモンスターを見つけたらいちいち図鑑で確認する某少年よろしく叡智の書であれはなんだ、これはなんだと調べながら歩いた。

中でも面白かったのは、食べたものを完全に吸収するから排泄をしないというリスのような生き物だ。

そんな一昔前のアイドルのような設定を持つ生き物がいることが面白かった。

毒とか体に良くないものを取り込まないために食べるものを選ぶから、食べ物をえり好みしすぎて餓死してしまう個体もいるらしい。


そんな異世界生物図録を堪能しながら進んでいくと、洞窟に行き当たった。


ここだ。この中にいる。

その洞窟は昼間だというのに入口付近は真っ暗で奥が見渡せないほど暗く、深く、大きい。


「ええいままよ!」

こっちには神様がついているんだぞってことで自分を鼓舞して洞窟に足を踏み入れた。









「我が縄張りにのこのこ入ってくるとは、貴様死にたいのか。」


黒いドラゴンが口から瘴気を吐き出している。

粘りつくような不快感が全身を襲う。まるで皮膚の上を大量の蟻がはい回っているようだ。


迷惑な隣人がこんな禍々しいドラゴンだなんて聞いてないぜ神様。


「矮小なる生物よ。神の領域に達した我が御業を貴様の最期の土産として経験させてやろう。」


ドラゴンは前足をゆっくりとあげ、俺を踏みつぶそうとしてきた。

瞬間、金縛りにあったように体が動かなかくなった。このままではつぶされる!

と、思ったが、体に力を籠めると金縛りは解け自由に動けるようになった。

急いで後ろに下がり前足プレスを回避する。


「―――!!貴様、なぜ避けれる。」

「え?なぜって、いくらドラゴンって言ってもそんなゆっくり動いたら避けれるだろ。」

「とぼけるな!時を止めたのになぜ動けると聞いているのだ!貴様何者だ!」

「時を止めた!?嘘だろ!お前そんなに大きくて強そうなのに時を止めて踏みつぶそうとしたの?

ドラゴンの癖にせこい攻撃してんじゃねぇよ!」


このドラゴンは時を止めたと言っているのか?時を止めれるのは金髪の吸血鬼かタバコをふかした高校生くらいのものだと思っていたが、最近のドラゴンも時を止めれるし割かしせこい攻撃をするらしい。驚きだ。


「時を止めたのにってあたりはわからんが、俺がここに来たのはテポス様っていう神様に頼まれてきたんだ。お前が神様の住んでるとこに入ろうとしてて迷惑だから止めてほしいって頼まれてきた。」

「ほう、あの神が我に恐れをなして直接眷属を送り込んできたというわけか。どうりで貴様、あの神に似ているわけだ。」

「うっそ俺テポス様に似てるの!?あのハイパー美少年に!?誰か鏡持ってない!?」

ドラゴンから衝撃の事実を告げられ驚きを隠せない。

なんと俺はドラゴン曰くテポス様そっくりらしい。まだ自分の顔を確認できていないがテポス様そっくりということは美形確定ではないか。いろいろ力をくれたらしいがこれはなかなかうれしい特典だ。


「貴様の首を手土産に神の領域へと挑んでやろう!」

粘りつくような不快感がより一層増した。

黒い瘴気を吸い込むと、ドラゴンは口から真っ黒な炎を吐き出してきた。


「わー!!ちょっとタンマタンマ!」

恐怖のあまり我ながら情けない悲鳴を上げて目を閉じてしまった。

このまま火あぶりで生涯を終えてしまうなんてあまりにも早すぎる。




なんてことを思っていたが一向に熱を感じない。

恐る恐る目を開けると目の前には依然として黒い炎が広がっていた。

しかし、その炎は見事に俺を避けて広がっている。


「我が炎を防ぐとは神の眷属は伊達ではないということか。ただの結界なら丸ごと燃やせるのだがな。」


どうやら俺は結界を張ったらしい。

神様がくれた力とやらは高い顔面偏差値だけではないようだ。


「どうだ!お前の攻撃なんて効かない!

だから神の領域に入ろうなんて馬鹿な真似はよすんだ!

俺あそこから来たけどあそこ結構つまんないぜ。

よくわからん綺麗なシャボン玉とうまいお茶しかないからな。

こっちで生きてた方が絶対楽しいって!」

「黙れ!神の領域に至るということは、この世界を超越するということなのだ!」

そう叫ぶとドラゴンは俺の目の前から一瞬にして消え後ろから強い衝撃が加わり前へ吹き飛んだ。



「うわ~超びっくりした。」

壁にめり込んだものの体は多少痛むくらいで済み砕けた岩をどかして立ち上がった。

察するにドラゴンは俺の背後に高速移動、いやおそらく瞬間移動して尻尾か何かでたたきつけてきたのだろう。

頭を強く打った衝撃でひらめきを得た。

テポス様の加護を得た俺は時を操れると言っていたが、あのドラゴンも時を止めれるらしい。そしてそのドラゴンが瞬間移動できるということは、俺も同じことができるということだ。


念じるんだ、空間収納から本を取り出したときの感覚を思い出す。


「ドラゴンの癖にせこい攻撃すんなって言ったろ!」

俺はドラゴンの頭上に瞬間移動して思い切りドラゴンの頭をぶん殴った。

大型トラックが猛スピードで正面衝突したかのような音が洞窟に響いた。



「俺って結構強いんだな」

頭が地面にめり込んだドラゴンを見てしみじみと思った。


そしていつの間にかあの粘りつくような不快感が消えている。


「なあ悪いこと言わないから諦めろって、絶対こっちの世界のほうが楽しいから」

ドラゴンは微動だにしない。


「え?嘘死んだ?」


あんなに意気揚々と暴れていたドラゴンはすでに虫の息だった。


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