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落ちる

読んでいただきありがとうございます。

神に愛されたクラフト隠遁生活


どこだここは・・・。


「あはは、自分がどうなっているか理解できてないって感じだね」

眼の前には容姿端麗な銀髪の少年(いや少女か?)と、モノクルを付けた知性を感じさせる青年が優雅なティーテーブルで茶を嗜みながらこちらを見ている。

俺は確か、確かそう、死んだはずだ。




特になりたい職業もなく何となく入った大学を卒業し、何となく入った会社で俺は経理の仕事をしていた。

たいした志も情熱もなくただ目の前の数字を処理する仕事をしていた。

ある日不自然な金の流れを発見した。

すぐに上司に報告して原因を探った。

その犯人が会社の専務だと気づいたときには、俺は横領の濡れ衣を着せられていた。


原因に気づいたのも上司に報告したのも俺だと弁解したが上司はそんな報告は聞いていないとしらを切り、その発見は上司がしたものとされていた。

社長と専務との話し合いの場を設けられ、横領した金、1億5000万円をすぐに返金すれば警察沙汰だけは避けてやると言われた。

社長が何かほかにも話していたが、ニヤついた専務の顔しか思い出せない。

これまで自分が築き上げてきた社会的地位を、権力者によって理不尽に奪われると自分では驚くほど怒りが湧いた。

自分では無気力に仕事をしていたと思っていたが取り上げられるとこれほどこみあげてくるものがあることに驚いた。

しかしこの振り上げた腕を収める方法もなくどうしようもない無力感に襲われた。


あぁそういえば、暇つぶしに買った立体パズル、まだ完成してないな。


そんなことを思いながら、電車が来る線路に飛び込んだ。






「そろそろ落ち着いてきた?」


いい香りのする茶を飲みながら少年は問いかける

「あ、あーえっと、初めまして、時越 界(ときごえ かい)です」

「ははは、初めまして、僕は時と空間を司る神、テポス。こっちの男は知識の神シェイティア」

色々な宗教の勧誘を受けてきたが、自らを神と自称する輩をみるのは初めてだ。

いや一回だけ見たことある気がする。


「そんなまがい物と一緒にしないでください」

モノクルを付けた男、シェイティアがまるで心を見透かしたように口を出してきたことに驚いた。


あれ?今声にだしてたっけ?


「人間の心の声をきくなんて造作もないことさ」

「え?じゃあ本当に神様・・・ですか?」

「えっへん!神様じゃぞ、まあそんな地べたに座ってないでこっちきて茶でも飲みながら話を聞いてよ、お願いがあるんだ」


少年のように無邪気に笑う神は無邪気な笑顔を浮かべた。




「神様が飲むお茶ってどんなものかと思ったんですが、さすがにおいしいですね」

「神とお茶した時に最初にでる感想それなんだ」

「あなたなかなか肝が座っていますね」


やや渋みがあるものの独特の旨味があるお茶を飲んでいると落ち着いてきた。

あたりを見渡すと一面に草原が広がっており、空には宇宙を内包したシャボン玉のようなものがたくさん漂っている。

そしてこの2人の神、どちらも顔面偏差値が高すぎる。

テポスは中性的ないでたちをしており可愛く凛々しい容姿をしている。

銀色に輝く神と長くきらめくまつ毛がまばゆい限りだ。

一方シェイティアのほうは控えめに言ってもTHEイケメンといった感じである。

姿勢よく座り静かにお茶を飲む佇まいひとつでこいつは賢い者だと理解させるものがある。


神秘的な空間で彫刻のように美しい神を見ていると、自分が死んだのだとすとんと落ちるものがあった。


それにしても神様ってすごい美形だな。


「はは、そんなに褒められるとさすがに照れるね」

「恥ずかしいんで心読むのやめてくださいよ」

「これはやろうとしてやっているのではなくて勝手に聞こえてくるものなのです、慣れてください」


「それでお願いがあるってなんですか?」

「あーそうそう、そうだった、実は君をわざわざ別世界から連れてきたのは訳があるんだよ」


テポスは無邪気に笑いながら語った。

普段神としてこんなことをしてるんだよと言っていることが半分も理解できない高次元な話を長々と語った。

お茶を2杯ほどおかわりして、こんな難しいことをしている神様が人間風情にするお願いっていったい何なのだろうと思い話半分で聞いていると、ようやく本題にはいった。


「―それで、最近僕ら神様が普段住んでいる空間に干渉してこようとする生き物が下界にいるんだよね。

たまーにあるんだよね、生き物としてランクが上がって神の領域に近づいてくる奴。

そのまま神格化して神さまになっちゃうやつもいたけど、今回のは無理やり僕の空間に入ってこようとしているって感じで、神落としでもするんじゃないかって勢いなの。

別に入られても適当にあしらえるけどいやじゃん?そんやつがぼくんちに入ってくんの。

それを下界におりて止めてほしいんだ。」


黄金色のジャムがついたビスケットをかじりながらこの神様は人間に無理難題を押し付けてくる。

シンプルに無理では?と真っ先に思った。


「だいじょぶだいじょぶ、そこは僕らがいい感じに力をあげるから」

「え?これは私も彼に何か加護を与えないといけない感じですか?異世界からすくい上げるの初めてだからついててくれるだけでいいって言っていたじゃないですか」

「いいじゃーん、ここまできたらおまけで何か手伝ってよ」


どうやら神様2人で話がまとまっていなかったようだ。話まとめてから呼んでほしかったな。てか異世界からすくい上げるってなんだよ。


「ほら彼が追加説明を求めていますよ」


心読まれるのってちょっと嫌だったけど慣れると楽だな。


「横着しないで喋ってください」





「じゃあ君をすくい上げたってあたりをもう少し詳しく説明するね。

その迷惑な奴をなんとかしたいな~って思っていたらちょうど君を見つけてね

人間は死ぬと魂が世界から離れていって、そのまま消滅したり転生したりするんだ。

もともとそういう人が空間の穴からこっちの世界に落っこちちゃうことは稀にあるんだけど、

今回は時と空間を司る神であるこの僕が自ら手を加えてこっちに来てもらったんだ。

僕らがそういうことをするのは初めてだから失敗するのが怖くてシェイティアに手伝ってもらったってわけ」


「―――手を加えたということは、僕が死んだのはあなた達のせいってことですか」

あの理不尽な体験を思い出し思わず眉間に皺が寄った。


「それは僕らのせいじゃないよ!ただ欲深い人間の業が生んだ事実さ

僕らが手を加えたのは君が死んだ後の話だよ」


「そうですか・・・、失礼なことを言いました、すいません」


「残念だったね」









しんみりした雰囲気を茶で流し、話を再開した。


「話は分かりましたけど、これ僕じゃなくてよくないですか、神様がご自身で手を下した方が早いのでは・・・」


「そうなんだけどねー、僕らは基本的に下界に直接手を加えるのはルール違反なんだよね

天罰!っていっておしおきすることはできるんだけどできるのは世界が大きく荒れた時だけで、今回のはそれにあてはまらないんだよね」


神様にもめんどうなルールがあるんだなと思いながらクラッカーを食べる。


「そうだよね~、そこでルールの穴をつくために君を呼んだってわけ!

神様が下界の人にあれしろこれしろって声をかけるの、そうすれば僕らが直接手を出したわけじゃないからルール違反にはならない!

けど下界にいるとに加護を与えただけじゃ間に合いそうにないから話が分かりそうな人を直接連れてきて力を与えて直接ぶつけちゃおうってわけ

ぼくっててんさい!」


「嫌です」


「なんでっ!??」


大きく広がった草原に神様の声がこだました。







「なんで断るの?こんなに困ってるのに!」

「まあおかしな判断ではないですよ、今のところ彼にメリットがありませんもの」


シェイティアの言う通り、こちとら偉いやつに振り回されて死んでいるんだ。

いくら神様でも何でも言うことを聞くと思ったら大間違いだ。


「そそそそうだよね!えーとえーとじゃあ『時界神の使途』をつけてあげる!

『時界神の加護』よりも珍しくて多分今生きている人だと持っている人がいない特別な加護だよ!」


二度と飲めないであろうおいしいお茶を心に刻むためティーカップを傾ける。


「ほら、もっとわかりやすく説明してメリットを与えないと駄目ですよ、彼もう舌鼓を打つことに集中しちゃってまいす」

「『時界神の使途』を持っているとね!時間に干渉できちゃうんだ!ただの加護だと空間転移しかできないけど時間を止めたり巻き戻したり進めたりできるの!

乱用されると困るからめったに与えない特別な加護なんだ!

それだけで十分強いんだけど、それだけじゃなくて今回相手してもらうやつって人間からすると結構強くて、それを楽々制することができるようにめちゃ強くしてあげる!」


「時を止めるって超能力とか魔法みたいに?」


「そう!まさに魔法だよ!君が行く世界は君の世界でいう剣と魔法のファンタジーそのものさ!」


そう聞くと少し心が揺らいだ、心の天秤がYESに傾き始める。

けどお願いを達成した後はどうする?またたいした志ものなく適当に生きるだけじゃないか?

前世のさみしい生涯を振り返るとそんな不安に駆られた。

そんな時ふと作りかけの立体パズルを思い出した。


「ん?立体パズル?なにそれ」

テポスの手元には唯一の心残りだった作りかけの立体パズルが現れた。


「君の机の上にあったから持ってきたけどこれのこと?」

「ふむ、なるほどこのかけらを組み合わせて一つの像が組みあがるわけですね、なかなか面白いものを作りますね」


今まで半身引いて話を聞いていたシェイティアがここ一番の興味を示した。

興味、興味か、そうだ俺は確かにこいつをくみ上げている時は結構楽しかった。

思えば俺は子供のころから何かを作っている時はそれに夢中になれていた。

爪楊枝で城を作っていたのはいい思い出だ。

大人になるにつれ余計な悩みが増えそんなことをする時間も情熱もそがれていった。


「やりたいことを見つけたようだね」


「テポス様私は子供のころモノを作るのが好きでした

このパズルも見た時にあの頃が懐かしくなって思わず買ったものです

そういや暇なときにクラフト系の動画ばっかみてたな・・・」


「やり直しておいで、人生を」










「シェイティアはさ、あれあげなよあの便利な本」

「叡智の書のことですか?あれはそうほいほい配れるものではないのですが・・・」


テポス様がなにやらすごい本をくれるように交渉してくれている。がんばれテポス様!


そんな中、渋るシェイティアが組みあがった立体パズル(俺が話している最中シェイティアが勝手に組み上げた)を眺めていたのを見逃さなかった。


「シェイティア様、立体パズルに興味がおありであれば、テポス様の頼みの後に似たような立体パズルをさし上げることをお約束します」

「ほう」

「え!何それずるい!僕も欲しい!」

「いいですよ」


シェイティアが何か考え事をしながら立体パズルをバラしてもう一度するするとくみ上げる


「そうですね、確かに異世界から来た人間が、下界で生きていくには知識が必要でしょう。

一重に困った友人を助けるため、一重にその友人の使いが生きていくために必要な知識を与えるため

知識の神であるこのシェイティア、汝を助けるためにこの書を授けましょう」


「今日一喋ってるね」

「よっぽどこのパズルが気に入ったんですね」

多分聞こえているがテポス様とこそこそ話す。


「ゴッホン、あなたに授けるこの叡智の書というものは下界のあらゆる知識が書かれています

国々の歴史から道端に生えている雑草の詳細までありとあらゆる全ての知識がです

これがあればあなたのクラフト生活で不自由することもないでしょう

先ほども申した通り、この書はほいほい配るものではありませんありがたく頂戴なさい」


シェイティアから10cmほどの厚さがある綺麗に装丁された本を渡された。


全ての知識が書いてある本、どれだけ分厚いのかと思ったけど、結構薄いな、これが神クオリティ







「よし!じゃあ話はまとまったね!時越 界、君にはこれから下界におりて迷惑な隣人をとっちめてもらう

そのあとの人生は好きに生きるがいい、困ったときは助けてあげよう」


まばゆほどの笑顔を全身に受けながら俺は突如浮遊感に襲われた。


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