9.宮廷魔法使いの友情
泣き喚き疲れたリフィリーゼは、悲しそうな顔をしたエストランケ家の面々に送られ、寮に戻った。そして、いつも通りの日常に戻り、リフィリーゼは決意した。師匠ライマーの安否を知る。無事なら、助け出す。……そして、殺されていたら、相手を殺す。リフィリーゼのそんな思いとは裏腹に、エストランケ家の過去見の鏡を直した魔法使いがいる。とても優秀だと王宮内で話題になった。リフィリーゼが歩けば噂され、見知らぬ人からも声をかけられる。元々人が苦手で注目されることにトラウマのあるリフィリーゼは、日に日にやつれていった。
「リフィリーゼ。薬草園の面倒は代わりにあたしが見るから、あんたは部屋で先輩たちを手伝っていておくれ!」
「でも……新人の仕事じゃ……」
「リフィリーゼ。あんたは時の人だ。噂が消えるまでどうせすぐだよ。でも、あんた目的に薬草園の周りを彷徨く奴らには迷惑しているんだ。あたしがガツンと言ってやらないと聞かないからねぇ」
伊達に筆頭宮廷魔法使いを長いことやってるんじゃないよと言って、イーリアは出ていった。困った様子のリフィリーゼに先輩魔法使いたちから次々と声がかかる。
「リフィリーゼ! イーリア様がいないうちにこっちを手伝ってくれ!」
「ずるい! こっちが先だよ!」
わぁわぁと騒ぎながら、リフィリーゼを呼ぶその声に、リフィリーゼの顔には思わず笑みが浮かぶのだった。
イーリアが何かしたのか、単に人々がリフィリーゼの噂に飽きたのだろうか。リフィリーゼが食堂でお手製のサンドウィッチを齧っていても、指さされることがなくなった。
「あ……」
リフィリーゼがサンドウィッチを齧ろうと口を大きく開くと、ちょうど手に昼食をもって席を探すルミアが現れた。
「あ、あの、リフィリーゼさん! いろいろとごめんなさい!」
思いっきり頭を下げたルミアの手には綺麗に昼食が乗ったままであることを不思議に思いながら、リフィリーゼがルミアに声をかけた。
「席……探しているんでしたら、ご一緒にいかがですか?」
リフィリーゼの言葉に笑顔を浮かべたルミアが、いそいそとリフィリーゼの前の席に着いた。そして、リフィリーゼが咀嚼するのを待って、再度頭を下げた。
「あ、あの。せっかく過去見の鏡を直してもらったのに、リフィリーゼさんの願いをきちんと叶えることもできず、むしろ騒動にしてご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした!」
ルミアの言葉にリフィリーゼは首を傾げた。過去見の鏡の件は残念だったが、あれは魔女の契約のせいだ。むしろ、いい歳をして泣き叫んだことが恥ずかしいから忘れて欲しい。騒動はルミアには関係ないのでは。それを思ったまま口にしたリフィリーゼに、ルミアは一瞬ぽかんとした後、慌てたように手を振った。
「違うんです。我が家が過去見の鏡の修復の報告をしたせいで、リフィリーゼさんに変に注目が集まってしまって……」
「え、でも、過去見の鏡って王家の許可がないとエストランケ家の人間しか使えないものですよね? 王家への報告って必須なんじゃ……」
「それはそうなのですが、そのことが原因でリフィリーゼさんにはかなりご迷惑をおかけしたと伺っておりまして」
ルミアの説明にいまいち納得のいかないリフィリーゼは首を傾げる。
「別にルミアさんのせいじゃないですよ?」
「それは……」
「せっかくだから、食べちゃいましょう。わたしとしては、いつも一人で食べているので、一緒に食べる人がいるのは少し嬉しいです」
リフィリーゼの言葉に、ルミアの顔が輝いた。
「じゃ、じゃあ、私たち仲直りってことでいいですか?」
「はい。ふふ、まるで友達みたいですね」
笑って言ったリフィリーゼの言葉に、ルミアが首を傾げる。
「私たち、友達じゃないんですか?」
「え?」
驚くリフィリーゼにルミアが慌てたように付け加えた。
「あ、私が勝手に友達って思っているだけで、迷惑だったら言ってくださいね?」
「迷惑なんてそんな……」
リフィリーゼは胸が暖かくなる気持ちを感じて、続けた。
「嬉しいです。友達という友達、いないので。弟子仲間くらい?」
リフィリーゼの回答に、ルミアが笑った。
「じゃあ、リフィリーゼさんの初めての友達ってことですか? 嬉しいです」
にこにこと笑うルミアに釣られて、リフィリーゼからも笑顔が溢れた。お手製のサンドウィッチと食堂のランチという違うものを食べながら、二人は友達となったのだった。




