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宮廷魔法使いリフィリーゼの大掃除〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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6.魔術具の改修④

 ルミアの案内で、エストランケ家の玄関扉が開かれた。歴史ある家の大きな扉に様々な装飾が施されていて、リフィリーゼは思わず扉にさえ見惚れてしまった。重厚な扉の奥の玄関ホールには、真っ赤な絨毯が敷かれていて、目の前には木製の磨く上げられた大きな螺旋階段が鎮座していた。歴史ある建物だが、清掃は綺麗にされているようで、空気は綺麗だ。扉の両サイドに頭を下げた使用人がいて、ルミアの家族はいない。


「念の為、家族には、人見知りする友人と伝えてあります。リフィリーゼさんは魔法使いなので、皆が納得して各居室に引きこもっています。リフィリーゼさんが人が多い環境を好むかわからなかったので」


 この国での魔法使い観はいったいどうなっているのだろうとリフィリーゼは首を傾げながら、自分の魔法使いの知り合いを思い浮かべた。お師匠様はそこまで他人と関わることが好きではなかったが、他の魔法使いは、自分の面倒をあれこれと見てくれる印象で、人嫌いをする印象は全くない。


「……ありがとうございます」


 一応リフィリーゼはお礼を述べ、階段を上がるルミアの跡をついていく。階段の手すりに彫刻された美しい神々や自然の描写にうっとりとしながら、リフィリーゼはルミアに問いかけた。


「魔術具置き場のような場所があるのですか?」


「魔術具置き場は別にありますが、過去見の鏡はずっと同じ部屋に置いてあります」


 そう言って、ルミアが開けた扉の部屋は、厚いカーテンが閉じられ、暗く埃っぽい部屋だった。


 リフィリーゼがルミアに続いて部屋に入ったところで、カーテンが引かれ、部屋は明るくなった。思わず目の前を手で遮るリフィリーゼに、続いて窓を開けたルミアが謝罪する。


「暗くて、埃っぽくてすみません。この部屋には貴重な過去見の鏡があるので、使用人が立ち入れないのです」


 カーテンが開いて、広大な庭を見下ろせるようになったその部屋の窓の近くに置かれた過去見の鏡は、光を受けて鈍く光っていた。


「これが……過去見の鏡……。触っても?」


「もちろんです。魔術具の一般的な直し方だと、液体に魔術具を浸す方法らしいんですけど、魔術具師たちの魔力が足りないのか、大きさに合うほどの材料を集められないのか、直らないんですよね……」


 ルミアのそんな言葉に耳を落としながら、リフィリーゼは割れたところを触る。魔力の歪み、それを感じたリフィリーゼは、魔力を少しそこに流した。魔力は一瞬で霧散し、消えた。ルミアが“魔力の相性”と言っていた理由がリフィリーゼにも少しわかった気がした。注意深く、魔力を過去見の鏡に合わせていかないといけない。リフィリーゼの苦手な細かい作業だ。


「治療液の材料は、あるんですか?」


 魔術具の本来の治し方は、大きな鍋に魔術具の材料とされる植物や鉱石を入れ、煮る。その治療液に、壊れた魔術具を浸すのだ。


「えぇ。準備してありますし、鍋も借りてきてあります。以前、魔術具の修理士に依頼した時のものを保存していただけですが……」


 リフィリーゼが材料を手に取り、確認する。乾燥した魔草はカラカラになっているが、リフィリーゼも同様のものを持ってきている。そして、他の材料は問題がないようだった。


「一度、作ってみようと思います」


 リフィリーゼはそう言って、魔女服が汚れないようにエプロンを取り出した。


 今回は、過去見の鏡に合わせた魔力を、丁寧に抽出して鍋に注ぎ込まなければならない。かなり集中力のいる作業が求められる。


 リフィリーゼは必死に魔力を過去見の鏡に合わせた。素材が少しずつ解け、治療液に変わっていく。


「できました……!」


 リフィリーゼが治療液を確認すると、治療液は想定した通りに出来上がっていた。


「……さすがリフィリーゼさん! 鏡を鍋に入れられないと思いますので、特別に使用人を呼びますね」


 ルミアの言葉にリフィリーゼは止めた。


「待ってください。浮遊魔法を使って、わたしが入れてみます」


 リフィリーゼはそう言って、鏡を宙に浮かせた。ルミアが驚いたように息を呑んだのが、リフィリーゼの耳にも聞こえた。


「……これが、魔法使いの力、」


 驚いたルミアに、リフィリーゼはそおっと鍋の中に鏡を鎮めていく。


「光ってる!?」


 過去見の鏡は、鍋に入るにつれてひび割れたところが光っていった。直った、とルミアとリフィリーゼが歓喜に包まれた瞬間、光は消え、鏡は鍋から弾き飛ばされるように飛び出た。


「うわぁ!?」


 ルミアの叫び声を聞きながら、リフィリーゼは鏡を制御するために魔力を込める。そして、元あった場所になんとか戻した。


「失敗……ですね。申し訳ございません。ルミアさん」


 項垂れたリフィリーゼにルミアが肩を優しく叩いて励ました。



「仕方ありません! 一度休憩しましょう! お腹が減っていませんか? 我がエストランケ家のビーフシチューは絶品と評判なのですよ?」



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