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宮廷魔法使いリフィリーゼの大掃除〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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2.宮廷魔法使いリフィリーゼ

「お師匠様……お茶が入りましたよ?」


「……置いておけ」


「全くもう。水分を摂らないと、いつか倒れちゃいますよ?」





 あの日、貴族令嬢リフィリーゼは死んで、魔法使いの見習いになった。深い森の奥にある、小さな小屋でリフィリーゼは、師匠ワイナーと暮らすことになった。ワイナーは適当で、乱暴だったが、厳しく丁寧にリフィリーゼに魔法の基礎を授けてくれた、とリフィリーゼは思う。ワイナーが見抜いた通りに、リフィリーゼには魔法の才があった。

 魔法使いのルールは貴族社会と違って状況に応じて変わることがなく、単純明快で、リフィリーゼにとってはわかりやすかった。それに、リフィリーゼが思ったことを口にしても、どの魔法使いも「あんたは面白いね」と受け入れてくれた。

 リフィリーゼがワイナーの弟子になって三年。リフィリーゼは十七歳になった時、ワイナーは突然帰ってこなくなった。いつもと同じように「夕方くらいまでには戻る」と言って出ていったワイナー。夕日が地に沈み、夜が更けても、空が明るくなっても戻ってこず、リフィリーゼは思い当たるところを探して回ったが、師の姿はみつけることができなかった。





「お師匠様……なんで帰ってきてくれないの?」





 それから一年。リフィリーゼはいつ師が帰ってきてもいいように、師の家を整えて待っていた。

 間違えて二人分の料理を作り、同じメニューばかりになったり、一人で魔術の練習をして失敗し、家を燃やしそうになりながら。


 ワイナーが戻ってこなくなって、リフィリーゼは成人しても魔女になれない可能性が出てきた。魔女は師匠の推薦を得て、修行ができないと一人前と認められないのだ。しかし、ワイナーの魔法使い仲間の魔女が代わりに推薦してくれて、リフィリーゼは一人前の魔女となった。無事に魔女になれたものの、魔女となった最初の三年はどこか大きな組織に所属して学ばなければならない。


「リフィリーゼ、あんたが師を探すっていうなら、悪いことは言わない。最初の修行先は、西にあるメルリア王国にしておきな」


 リフィリーゼが理由をどれだけ聞いても、その魔女はそれ以外は一切語らず、メルリア王国の宮廷魔法使いへの推薦状を一通渡すと帰っていってしまった。見習いに毛が生えた程度のリフィリーゼには熟練のその魔女を追うこともできず、メルリア王国への旅立ちの準備をしたのだった。


「……いってきます」


 今日で十八歳の魔女となったリフィリーゼはそう言って、魔法使いの家に「いつかお師匠様が帰ってきますように」という願掛けも込めて目眩しの魔法をかけた。ワイナーに拾われた最初の年の誕生日に、初めて人に祝ってもらったリフィリーゼは、今はもう誕生日を祝うことはない。あの日、初めて食べた師匠特製の不格好なケーキの味は、リフィリーゼにとって決して忘れられない思い出の味だ。

 無唱魔法を使って長い杖を取り出し、転移の魔法陣を起動した。


「……西の、メルリア王国へ」


 そう呟いたリフィリーゼの姿は、もうそこにはなく、ただ吹き渡る風と深い深い森だけが残されていた。










⭐︎⭐︎⭐︎

「リフィリーゼ! この魔法の依頼は済んだ!?」


 大きな王宮の一角。書類やら薬が乱雑に置かれた部屋。それが、リフィリーゼの勤める宮廷魔法使いの執務室だ。埃っぽいし、床にゴミは落ちている。それだけならまだしも、薬草やら薬やらの混じった匂いも漂っている。


「はい! それは先ほど終わらせてあります」


「なら、終わったら、処理済みに入れるって、何度言わせたら気が済むんだ!?」


「ごめんなさい!」


 謝罪したリフィリーゼは慌てて書類の束を受け取って、処理済みのカゴに入れ直した。そして、走って席に戻る。床から埃が舞って、何人かが咳き込んだ。


「リフィリーゼったら、魔法の才能は素晴らしいのに、日常業務が壊滅的だからねぇ」


 上司となった筆頭宮廷魔法使いがそう呟いて、ハーブの香るお茶を一口飲んだ。ふわりと香ってきたハーブの香りに心落ち着いたリフィリーゼは、気を取り直して次の依頼に手を伸ばしたのだった。




 宮廷魔法使いの仕事は、依頼された魔法の実行とその選別だ。

 雨を降らしてほしいという願いから、暗殺を阻止してほしいという願いまで叶える。幸いにも宮廷魔法使いに正式に依頼を通すためには多くの人の目を通すため、暗殺依頼や毒薬の処方のようなものは届かない。



「リフィリーゼ。その仕事が終わったら、薬草園を見てきてくれないかい?」


 筆頭宮廷魔法使いにそう言われたリフィリーゼは声にならない悲鳴を上げた。薬草園の面倒は、新人魔法使いの業務の一つだ。しかし、事務処理は壊滅的でも魔法能力の高いリフィリーゼは先輩たちの仕事の手伝いが多く、ここ数日、薬草園の存在を忘れていたのだった。


「い、今すぐにいってきます」


「あ、こら、リフィリーゼ。この仕事が終わってから……。仕方のない子だねぇ。この仕事は私がやっておくから、皆もリフィリーゼに頼りすぎてはいけないよ?」


「はーい」


 薬草園の面倒を見ているうちに、あれもこれもと薬草たちの生活環境を整え始めたリフィリーゼは、お昼休み終了の鐘が鳴っても戻ってこず、責任者会議を終えた筆頭宮廷魔法使いが迎えにくるまで薬草園を整えていたのだった。






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