17.後輩ができたリフィリーゼ
「ほら、挨拶しな」
イーリアに連れられやってきた新入職員は、リフィリーゼと同じくらいの年頃に見えた。そして、彼の髪は漆黒のように黒かった。
「……お師匠様を襲った奴と同じ漆黒の髪……」
リフィリーゼは正気を失った表情で新入職員を見つめる。名前が言われ、出身国が言われ、リフィリーゼにとってはそんなことなどどうでも良かった。ワイナーを捕らえているのはお前か、そう問いたい気持ちを慌てて隠す。何も知らないふりをして、タイミングを見計ろう。リフィリーゼはそんな考え事に夢中で、周囲の職員の様子など気にも留まらなかった。
「あいつ……あの髪色」
「だよな? まじかよ……」
「初めまして。リフィリーゼ先輩。イスランタです。よろしくお願いします」
漆黒の短髪を揺らしながら頭を下げた新入職員に、リフィリーゼは思わずその髪を睨みつけると、慌てて微笑みを浮かべてイスランタに挨拶を交わした。
「はじめまして。イスランタさん……? わたしはリフィリーゼです。あなたの仕事上の面倒を見ます。よろしくお願いします」
リフィリーゼが名前を疑問で返した時、イスランタは小さく舌打ちして、リフィリーゼを睨みつけながら反論した。
「イスランタ・ジョセフィーングだよ! ジョセフィーングまで名乗れば満足かよ。リフィリーゼ先輩」
突然の反抗に、動揺したリフィリーゼは慌てたようにイーリアを見た。自分も先ほどまでその髪を睨みつけていたとはいえ、初対面の相手に睨むつけられるのは心地が悪い。
「……イスランタ。先輩のいうことはきちんと聞くように。リフィリーゼ、頼むよ」
イスランタに忠告したイーリアが立ち去り、杓子定規にリフィリーゼは席やルールを一つ一つ説明していく。
平然としたように見えるリフィリーゼの態度に、イスランタは不思議そうに、居心地悪そうにしながら説明を受けた。
「ここまででわからないことはありますか?」
「……ありません」
イスランタが空中に杖で記してとっていたメモを、リフィリーゼも確認し、頷く。席に案内されたイスランタに、リフィリーゼが初任者用の課題を与える。
「これが初任者用の課題です。終わったら声をかけてください」
そう言ってリフィリーゼが自分の仕事に取り掛かる。すぐに、イスランタから遠慮がちに声が響いた。
「……おわりました」
時間を確認したリフィリーゼが驚き、中身を確認する。粗はあるがミスは一つもない。思わず、と言った様子でリフィリーゼがこぼす。
「……非常に優秀ですね」
自分がワイナーに魔法を初めて教えてもらった時のできなさ加減を思い出し、少し落ち込んだリフィリーゼは、なぜか頭の上の温もりが恋しくなった。正解した時に、ワイナーが雑にがしがしと撫でてくれる手の温もりが。リフィリーゼの表情を見ていたイスランタが、思わずリフィリーゼに声をかける。
「……大丈夫かよ。表情が暗いぞ、です」
言いにくそうに言ったイスランタに、リフィリーゼは慌てて笑みを浮かべてイスランタに答えた。
「自分のできなさ加減を思い出して悲しくなっていました。すみません。イスランタさんはとても優秀で安心しました。次の課題にいきましょう」
リフィリーゼの言葉に、イスランタが小さく呟く。
「……ジョセフィーングの者なら当然だろうよ」
イスランタの呟きなど聞こえずに次の課題を準備するリフィリーゼの様子に、イスランタは首を傾げた。
「……こいつ、俺が何者か知らねーのか? ふん、魔法使いや魔女にそんな奴いねーか」
「では、薬草園に案内します。薬草を育てるのは、新入職員の大事な仕事ですよ」
胸を張って案内しようと立ち上がるリフィリーゼの姿に、先輩職員たちの笑いを堪える声が響く。不思議そうにするイスランタとリフィリーゼが出ていったのを見て、一人が口を開いた。
「最初は薬草園の世話をし忘れたりしすぎたり忙しかったリフィリーゼが一丁前に先輩面してたな」
「笑いを堪えるのに必死だったぜ」
そんな先輩たちの頭をイーリアが魔法で飛ばしたペンでコツリコツリと叩き、慌てたように口を閉ざした先輩たちも仕事に戻るのだった。




