16.ワイナーとの関係
「リフィリーゼ! 急だが、あんたに後輩ができることになった」
イーリアに呼ばれたリフィリーゼは、突然そんなことを言われることとなった。
「新入職員ですか?」
首を傾げるリフィリーゼに、イーリアが指示を出した。
「あんたも入ってまもないが、新入職員の面倒を見てやってほしいと思っているよ」
イーリアの言葉にリフィリーゼが焦ったように手を振る。
「む、無理です。わたし、まだ自分の仕事がやっとできるようになってきたところですよ?」
リフィリーゼの言葉に、イーリアが頭を掻きながら答えた。
「あんた、先輩たちの仕事もかなりこなしているだろう? それで自分の仕事がやっとできるようになったところだって? 気の迷いかい?」
イーリアの言葉にウッとリフィリーゼが詰まっているうちに、リフィリーゼが後輩の面倒を見ることは決定したようで、書類をあれこれと差し出される。
「男だから寮の関係は別の者に振ってあるよ。あんたは仕事だけ面倒を見てやってくれ」
ため息をついたリフィリーゼに、イーリアが手でしっしと追い出すようなそぶりを見せた。
「ほれ、仕事に戻りな。……リフィリーゼの後輩があの子とは、何の因果かねぇ」
イーリアがぼそりと最後に呟いた言葉はリフィリーゼに届かぬまま。
「後輩指導なんて無理だよぉ」
すっかり友人となったリフィリーゼとルミアは、食堂で定期的に食事を共にしている。今日は、リフィリーゼに後輩ができることの報告とその相談会が行われている。
「リフィリーゼさんなら大丈夫ですよ。イーリア様が大丈夫とご判断なさったんですから、それだけ期待されているということです!」
ルミアの言葉にうだうだと文句を垂れるリフィリーゼは穀物を煮込んだスープを掬って一口齧る。
「あ、そういえば、門番のジョセフの婚約者さんの働いているパン屋さんが、わたしの一番好きなパンだったの!」
リフィリーゼの言葉に、ルミアが驚いたように小さく飛んで答えた。
「え、リフィリーゼさんってこの国に来たことがあったんですか?」
ルミアの言葉にリフィリーゼが小さく首を振る。
「……ううん。お師匠様が買ってきてくれていたパンがそのお店のものだったの」
リフィリーゼの言葉に、ルミアは首を傾げる。
「もしかして、世界一美味しいと言われるあのお店でしょうか? ……リフィリーゼさんのご出身の国からこの国までかなり距離がありますが……」
ルミアの疑問に、リフィリーゼは胸を張って答えた。
「お師匠様はすごい人だからね。移動も早いし、物を保管する魔術具も持っているから、焼きたてのパンがいつでもでてきたよ」
リフィリーゼの答えに、ルミアが羨ましそうに口を尖らせた。
「えぇ!? すごい人じゃないですか! 羨ましいです! そんな人が一家に一人いたら便利ですよね……」
ルミアの答えにリフィリーゼが「お師匠様はあげない」と言っているところに、通りかかったイーリアがリフィリーゼの隣に座りながらため息を落として言った。
「あんたたちはあのワイナーを便利道具扱いしてるのかい? 言っとくが、あの魔術具の消費魔力はかなりのものだし、王宮でも手が出ない代物だよ。なにがともあれ、ワイナーほどの魔法使いはそんな気軽に現れる存在じゃないからね?」
釘を刺された二人が素直に「はぁい」と返答を返したところでルミアが目を輝かせてリフィリーゼに言った。
「ということは、リフィリーゼさんはとても大切にされていたんですね! もしかしてお二人は恋人関係とか、もうすでにパートナーとか!?」
ワクワクした様子のルミアにリフィリーゼは首を振って答えた。
「ないない。お師匠様からみてわたしなんて、弟子兼子供に見られていると思うもん」
リフィリーゼの答えに、ルミアが「ということは、リフィリーゼさんは素敵と思っておいでと言うことですか」と独りごつ横で、イーリアがため息を落とした。
「リフィリーゼ。あんたは自分が結婚できる可能性はほとんどないと思いな。性格はどうであれ、あのワイナーの美しい見た目と魔法使いとしての才能を超える男はこの世界に存在しないからね。あんたは育ての親みたいなものであるワイナー以上の男を無意識に探すだろうから、そんなものは存在しないと言っておくよ」
イーリアの言葉にルミアの声が華やいだ。
「リフィリーゼさんのお師匠様はそんなにもお美しい方なのですか?」
「美しいってもんじゃないよ。本当に人間かと疑うレベルさ。オーロラのような瞳に、瞳と似た色味のかかった白い長い美しい髪。それだけでも美しいのに、それ合わせて作られたかのようなひどく整った顔立ちは、神の祝福そのものさ。あれで魔法が使えなかったら、各国の王族がワイナーを求めて戦争を起こしかねないと思ったよ。あいつは自分を守る力を持っているから、そんなことが起こらなかったことだけが救いさ」
イーリアの言葉に、目をキラキラとさせて顔の前に手を組んだルミアがリフィリーゼに問う。
「リフィリーゼさん! お姿がわかるもの、なにかないんですか!?」
再現魔法、と言いかかったリフィリーゼはなぜか少し胸の辺りがざわつくのを感じて首を振った。
「残念ながら、お師匠様の姿がわかる物は全て置いてきてしまってるから」
リフィリーゼの言葉に残念がるルミアの様子に微笑みながら、イーリアは意味深な表情でリフィリーゼのことを見つめるのだった。




