14.小屋の中へ
「あんたは初めてだから、突入時の説明から始めるよ」
イーリアは魔力を使った念話でリフィリーゼに話しかける。受け取ったリフィリーゼが驚いた顔をしてイーリアを見て、すぐに仕組みを把握したようにイーリアに返答する。
「……お願いします」
リフィリーゼからの返答が来たことに目が溢れんばかりに見開いたイーリアが、軽く頭を振って続きを話す。
「……さすがだね。ひとまず、この念話はあたしの固有の技術だ。外部への流出は許さないよ?」
イーリアの言葉に、リフィリーゼは小さく頷いた。
「まずは騎士が中を確認する。しかし、攻撃されると困るから魔法使いが結界を貼るよ。……だからこそ敵はまず、扉が開いた瞬間、魔法使いへ攻撃をしてくる。結界の中に入れたらいいが、騎士から離れると命取りだ。気をつけな」
そう言ってリフィリーゼのことをチラリと見たイーリアが、ため息を落とすように言った。
「ま、あんたには心配もいらないだろうけど。それだけの防御の魔術具もついているし、あんた自身の魔法の展開も強力だ。向こうの攻撃なんかよりも早いだろうよ」
リフィリーゼは、イーリアの言葉に首を傾げながら、ワイナーから与えられた魔術具のついた腕を、服越しに見る。
「じゃあ、騎士たちを見てご覧。ほら、合図がくるよ。扉が開く!」
イーリアの展開した結界から顔を出さないように気をつけていると、扉の中から突然魔術具が投げ込まれた。結界を解除する魔術具。リフィリーゼが理解する前に、イーリアが新たな結界の準備をする。その隙をついて、イーリアとリフィリーゼに向かって攻撃が飛ぶ。……遅い。そう思ったリフィリーゼが顔の横に飛んできた矢を、首を傾げて避ける。その瞬間、イヤリング型の魔術具に掠り、防御の結界が展開された。そして、攻撃を加えてきた相手に矢が戻っていく。……それと同時に、ワイナーから与えられた魔術具の一つが展開することに気がついた。リフィリーゼが違和感を覚えた瞬間には、イーリアが叫んでいた。
「全員、“伏せろ”」
リフィリーゼ以外の者が這いつくばるように地面に倒れた。そして、リフィリーゼから攻撃が戻っていく。今までこちらに向かって飛んできた矢や魔術具。結界を解除する魔術具。一度使い切りのはずのそれも。相手の投げた結界を解除する魔術具も時を戻すように直り、小屋の中へと戻っていく。リフィリーゼが驚いていると、横で口をぽかんと開けたイーリアが続けた。
「……結界も戻されている。あたしが展開したものよりも頑丈だ。さすがワイナーとしか言えない代物だねぇ」
イーリアの言葉に、リフィリーゼも遅れて気がついた。この魔法のような技術は、ワイナーのものだ。ワイナーの与えてくれた魔術具が、リフィリーゼを守ろうと動いたのだ。
「……こんな代物、維持するだけで阿呆みたいに魔力を使うだろうよ。全く……何をやっているんだろうねぇ。この子のお師匠は」
独りごつイーリアの声など、リフィリーゼには届いていなかった。ワイナーの魔力を感じて、共に過ごした日々を思い返していた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「リフィリーゼ。これが攻撃の魔法だ。私の攻撃を真似してみろ」
そう言ったワイナーが魔獣に向かって軽く魔力を放つ。キラキラと輝くその魔法に魅了され、その輝き同様に目を輝かせていたリフィリーゼは意気揚々と杖を構える。
「“雷撃魔法”」
リフィリーゼの魔法はうまく発動せず、ただ音を立てただけだった。その音に反応した魔獣たちが、リフィリーゼの姿を目視し、ジリジリと狙うように近寄ってくる。
「え!? わ、わたくし、きちんと練習通りに魔力も込めたのに!?」
リフィリーゼが狼狽えながら、腰が抜けたように尻餅をついた。そして、また杖に魔力を込める。
「ら、“雷撃魔法”、“雷撃魔法”、“雷撃魔法!”」
何度も魔力を込めるが、杖からは音が鳴るだけで霧散する。攻撃が来ないとわかった魔獣がリフィリーゼに向かって飛び掛かる。
「お、お師匠様!」
リフィリーゼがワイナーを呼ぶか呼ばないかのタイミングでリフィリーゼの前に飛び出したワイナーは、魔獣との間の空間に魔法を打ち込んだ。ワイナーの魔法に怯んだ様子の魔獣に、再度魔法を打ち込み、魔獣たちは「キャン」という叫び声をあげて逃げていった。
「……リフィリーゼ。実践と練習は違うことがわかったか? ただ、自分の実力を過信せず、助けを求められたことは正解だ。君は筋がいい」
ワイナーの言葉に、安心したように頷くリフィリーゼに、ワイナーが最初に倒した魔獣を指差し、リフィリーゼに言った。
「魔獣といえども、貴重な命だ。命に感謝して今夜の食事はこれにする。リフィリーゼ。獣の捌き方を教える。ついてこい」
⭐︎⭐︎⭐︎
敵が倒れている中、リフィリーゼの視界の端に、逃げようと動く人影が見えた。
「“雷撃魔法”」
威力を弱めた魔法を使って、リフィリーゼは魔力を放つ。的中した相手は倒れ、それに気がついた騎士たちが拘束をする。生存者は尋問しなければならない。証拠は必要だ。リフィリーゼはただ、無駄に命を奪うことを厭んで相手を殺さなかっただけだが、尋問のために生かしたと思ったイーリアがリフィリーゼを褒める。
「よくやったね。リフィリーゼ。ワイナーの魔法で壊滅状態だったが、生きた証拠を捕らえたよ。あんたのおかげさ」
褒められたリフィリーゼは、再度杖に魔力を込めて光らせる。“人探しの魔法”が指す方向に、そちらを指差すと小さな声で言った。
「攫われた人々はあちらの部屋だと思います」
リフィリーゼの声に、騎士の一部が救出に向かった。ジョセフが婚約者と抱き合い、無事の再会を果たしているのを横目に見ながら、リフィリーゼはイーリアに問うた。
「イーリア様。人探しも終え、イーリア様も隣にいらっしゃいます。お師匠様を探してもいいでしょうか?」
「……まぁ、城で魔法をぶっ放すより、辺境の方がちょうどいいか。リフィリーゼ。許可しよう。ただし、見つかるとは限らない、あたしはそう思うが、あんたに覚悟はあるかい?」
イーリアの言葉に一度俯いて、リフィリーゼは自分の手と杖を見つめた。次に顔を上げた瞬間には、小さく頷いて前を向いていた。




