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宮廷魔法使いリフィリーゼの大掃除〜馬車から捨てられた欠陥令嬢が、宮廷魔法使いの座についた理由。  作者: 碧井 汐桜香


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10.新たな依頼

「あの!」


 昼食を終え、早足で戻ろうとするリフィリーゼの後ろから、若い男の声がかかった。


「ん?」


 リフィリーゼが振り返ると、初めて声をかけてきた日のルミアのように緊張した面持ちの男性が一人立っていた。服装からして、門番か騎士か何かだろうか。


「過去見の鏡を直した、すごい魔法使いのリフィリーゼさんですよね?」


「すごい……まぁ、そうですが」


 いつの間にかすごい魔法使いになっている自分に驚きながら、頷くリフィリーゼに、男性が緊張した様子のまま言葉を続けた。


「お願いがありまして……」


 このパターン知っている。そう思ったリフィリーゼは、次回の面会の約束を取り付け、イーリアに同席を頼むのだった。








「で、この子に頼みたいことってなんだい? 宮廷魔法使いへの依頼は、本来王宮の審査を経て行われるものって知っているだろう?」


 リフィリーゼが注目を集めすぎて使い物にならなかった期間があったせいか、嫌悪感をあらわにしたイーリアの圧に圧倒されたように若い男が怯む。


「あ、あの……」


 一度俯き、決意を決めたように拳に力を込めた男が顔を上げて言った。


「優秀なリフィリーゼさんに、人探しをしてもらいたいんです。……三日前から帰らない婚約者のことが心配で……」


 男の言葉に、リフィリーゼは首を傾げて言った。


「……結婚が嫌で逃げたんじゃないんですか?」


 リフィリーゼの言葉に、お茶を飲んでいたイーリアが吹き出し、慌てたように付け加えた。


「リ、リフィリーゼ! すまないね。この子はちょっとこういうところがあるんだ」


 そして、男に言った。


「仮にも婚約者なら相手が行きそうな場所くらい見当がつくだろう? 実家やなんかには聞いたのかい?」


「はい……。実家にも戻っていなくて、でもいなくなってまだ三日だから、衛兵に相談してもあまり心配していなくて……」


「……そうかい。それは心配だ」


 イーリアと男のやりとりを聞いていたリフィリーゼは首を傾げた。


「人力での人探しなら、わたしよりも体力自慢なご友人とかに頼んだほうがいいんじゃないですか?」


「そうなんですが……実は、俺の曽々々祖父くらいに、魔法使いと知り合いの人がいて……。秘伝の人探しの魔法の魔法書があるんです。リフィリーゼさんなら、それを使って探すことができるんじゃないか、と」


 男の言葉に立ち上がったリフィリーゼが答えた。


「やります! その魔法、覚えてしまったらわたしが勝手に使ってもいいんですよね!?」


 リフィリーゼの言葉に、若干引いた様子の男が感謝を述べ、頭を抱えたイーリアがリフィリーゼを嗜めた。


「……リフィリーゼ。お前は何でも屋じゃないんだから……そんなほいほい引き受けるものじゃないよ」


「すみません。でも、これでお師匠様が見つかるかもしれませんよね!」


 目を輝かせるリフィリーゼから目を逸らしたイーリアが小さな声で言った。


「……人探しの魔法で見つかるような状態なら、あのワイナーが帰ってこないなんて考えられないけどねぇ」










「では、リフィリーゼさん。こちらが魔法書です!」


 翌日、魔法書を王宮に持ってきた男から、リフィリーゼは魔法書を受け取った。


「確かにお預かりしました。えーと……」


「すみません、名乗り忘れてました。俺は門番の騎士、ジョセフです」


「ジョセフさん。では、読んだらお返しします」


「はい。よろしくお願いします!」


 熱の入った声でそう言って、綺麗な礼をしたジョセフが戻り、魔法書を抱きしめたリフィリーゼが、早速、と言いながら魔術書を捲る。そのまま読みながら執務室へと向かうのだった。




「リフィリーゼ! あんた、魔術書なんて貴重なもの、勝手に預かってくるんじゃないよ!」


 執務室に入り、魔術書に目を落としたままやる気のない挨拶を見たリフィリーゼを見て、イーリアは目を剥いた。そして、その勢いのまま、リフィリーゼの席に飛び、リフィリーゼに雷を落とすのだった。


「……」


「まったく。聞いてない。なら」


 そう言って、イーリアは魔法を展開する。


「“取り上げろ”」


 イーリアの言葉に反応して、リフィリーゼの手から魔術書が浮いた。


「あ……」


 魔術書を目で追ったまま立ち上がったリフィリーゼが、そのままイーリアと目が合い、ひぃっと叫び声を上げた。


 宙に浮いたまま、髪をゆらゆらと逆立たせ、杖を構えて本を浮かせるイーリア。目が合ったリフィリーゼはここが執務室だということにやっと気がつき、イーリアに雷を落とされる覚悟を決めた。



「魔術書がいったい一冊いくらの価値があるかわかっているのかい!? あんたもだけど、あの男もあの男だよ!」


 イーリアの言葉に、リフィリーゼは首を傾げる。魔術書はワイナーの小屋には壁一面にあった。好きなものを好きな時に読んで良かったし、むしろ、素人のリフィリーゼが寝物語として好き勝手読んでいいもので、枕のように扱うことすらあったのだ。


「魔術書一冊でパン一個くらいですか?」


 むしろふかふかのパンの方が貴重だった。リフィリーゼがワイナーの小屋に連れてこられた初日は、カチカチのビスケットのような非常食しかなく、水に浸しながら苦労して食べた。その後、ワイナーがリフィリーゼのためにパンを購入するようになったが、リフィリーゼの中ではパンは貴重なものな印象だ。実家でも、リフィリーゼがなにか失敗をするたびに抜かれるのはいつもパンだった。この国では、王宮魔法使いのリフィリーゼの給料で手軽に購入できる価格だが。


「あんたって子は……何を言っているんだい! パンなんてどこの国でもそんな高いものじゃないよ! 魔術書一冊はパン百個だって足りないよ。まったく……あのワイナーのことだから、貴重な魔術書が大量にある環境だったんだろうが。ともかく! きちんと貸借の契約書を作りな! 話はそれからだ!」


 そう言って、イーリアが手を後ろに伸ばすと、イーリアの引き出しが開き、引き出しの中の書類がパラパラと捲られる。その中の一枚がふわりと引き出され、こちらに飛んでくる。


「ほら。王宮で使われている正式な書類だ。ここにあんたの名前を、ここに人探しの魔術書、こっちが相手の名前だ。ここはあの男に書かせな。そしたら、あたしのところに持っておいで。処理しといてあげるから」


「ありがとうございます」


 リフィリーゼがお礼を言って、指示されるまま書類を埋める。しかし、心はまだ魔術書にあるのか、そちらの方をチラチラと見ながら気にしている。


「……まったく。あの男は仕事前の余計なタイミングでこの子に魔術書を渡したねぇ。じゃあ、リフィリーゼ。急いでこの書類にサインをもらっておいで。そうしたら、特別に魔術書を読む時間を与えてやろう。そんな様子じゃ今日は仕事に手がつかないし、あんたのことだ。その魔術書を読むにも、そんな時間がかからないだろうよ」


「ありがとうございます!」


 イーリアの言葉にお礼を言ったリフィリーゼは立ち上がり、執務室を飛び出して行った。イーリアの言葉にギョッとした顔をしていた周囲の先輩職員たちが、リフィリーゼが出て行ったのを見て、イーリアに聞いた。


「イーリア様。……魔術書なんてどんな簡単なものでも読むのに最低一日はかかりますよね……?」


 先輩職員の言葉に鼻で笑ったイーリアが返答した。


「あたしだって最低でも半日はかかるよ。でも、あの子なら昼前には読み終わっているだろうねぇ」


 イーリアの言葉にざわつく職員たちに、パンパンと手を叩いたイーリアが言った。


「さ、仕事仕事。勤務時間に別のことをしているんだ。……今ならあの子に多少の仕事を押し付けたってバチはあたらないよ」


 イーリアの言葉に、先輩職員たちが、慌てて仕事を確認する。魔力量が必要なもの、手順の面倒なもの。そんなものを自分の仕事の中から引き出した先輩職員たちが、リフィリーゼの机の上に山を作った。


「……目の前にワイナーの手がかりに繋がるかもしれないものがあるんだ。あの子はきっと恐ろしい速さで仕事を終わらせるよ」


 そう言ったイーリアの元に戻ってきたリフィリーゼは書類を手渡し、即座に魔術書を開きながら椅子に座るのだった。





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