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誤字報告ありがとうございました。
暗殺未遂事件当日の夜
目を開けると見知らぬ天井が見えた。ここは……? わたしは身体を起こして辺りを見渡した。
「フィー、気がついたか?」
え!? レオナルド様!? わたしはベッドで眠っていたようで、レオナルド様はその横の椅子に腰掛けていた。
「あ、あの、ウィームズ副団長様? わたくしはどう「フィー」
「ウィームズ副だ「フィー」
ええと……。
「ウィー「フィー」
これは……。
「…………レオナルド様」
「フィー」
「…………………レオ様」
「ん」
もうレオナルド様をレオ様と呼ぶことはないと思っていたのに……。彼をそう呼んだ途端に涙が溢れた。
レオ様はわたしの涙を優しく拭いながら話し始めた。
「ここはフレイザー子爵邸。俺たちの家だ。そしてこの部屋は妻であるお前の部屋だ」
フレイザー子爵? 聞いたことのない家名だけれど……。俺たちの家? 妻であるお前? どういうこと……?
「俺はフレイザー子爵になるんだ。フィー、わかるか? “子爵”だ」
その言葉に、わたしは目を見開いた。
まさかそんな……。けれど、子爵位なら平民との婚姻が許される……。
「ウィームズ侯爵家はどうするのですか……?」
「近いうちに弟か妹が生まれる。侯爵家はその子が継ぐ」
生まれる……? グレイスおば様がご出産!?
「フィー、何の問題もないんだよ」
「レオ様……」
どうしよう。涙が止まらない……。レオナルド様もおじ様もおば様も、わたしのために……。
「フィー、笑って」
レオ様は、優しい声でそう言って、そっとわたしを抱きしめた。
もう、想うことさえ許されないと自分に言い聞かせていたけれど、彼への想いが溢れ出てしまう。
「レオ様……愛しています。ずっと、今までもこれからも、ずっと愛しています」
「知ってる。俺はそれ以上にフィーを愛しているよ」
レオ様の唇がわたしの唇に優しく触れた。
「フィー、身体は大丈夫か? おかしなところはないか?」
「はい。なんともありません」
「そうか。なら良かった。俺はもう限界だ」
え……? そう言ったレオ様に、わたしは再びベッドに倒されてしまったのである。
何か大切なことを忘れてしまっているような……。
***
暗殺未遂事件から数日が経ち、今わたしはレオ様とともに王宮の大広間にいる。
「良かったわ。ソフィアが監禁されていなくて」
「私がそんな真似をするはずないでしょう?」
レオ様が監禁だなんて。ふふ。王妃殿下は冗談をおっしゃって場を和ませてくれた。
「長らく休んでしまって申し訳ありませんでした」
「いいのよ。レオが無理をさせたのでしょう?」
王妃殿下はどこまでご存知なのかしら……。わたしは熱くなった顔を伏せることしかできなかった。
「叔母上、私たちは新婚なのですよ?」
「まだでしょう!!」
わたしたちはお父様とお母様の帰国を待って、結婚届を国王陛下に提出する。結婚式は一年後に挙げる予定だ。
「ウエロスニア王国王太子殿下と側近の皆様は昨日ご帰国なされたのですね。最後にロードン様へご挨拶できれば良かったのですが……」
「彼は帰国して結婚(相手探しを)するそうだ」
「まぁ、そうなのですね!」
「「「「「「………………」」」」」」
ハンカチのお礼にお祝いの贈り物を差し上げたかったわ。
「そうそうルーカス? ソフィアが家を出たら寂しくなるわね? もういいのではないかしら?」
王妃殿下がそうおっしゃると、ルーカスはかぁっと顔を赤くした。わたしは王妃殿下の言葉の意味がわからず首を傾げた。
ルーカスは意を決した顔をしてわたしに告げた。
「姉上。実は私も結婚を考えています」
「「「「えっ!?」」」」
「アンナ、再勝負よ!!」
「望むところよ、レイラ!!」
聞いたことはなかったけれど、お付き合いしている女性がいるのかしら。
わたしがそう考えていると、ルーカスは歩き出し、王妃殿下のもう一人の侍女であるジェシカの前で止まった。
「ジェシカ、待たせてごめん」
そう言ってルーカスはその場に跪いた。
「ジェシカ・ミラー男爵令嬢。貴女を愛しています。私と結婚していただけますか?」
「はいっ!! もちろんですわ、ルーカス様。わたくしも貴方を愛しています!!」
ジェシカは平民の男性とお付き合いをしていると聞いていたけれど、まさかお相手がルーカスだったなんて!! 驚いたけれど、とてもうれしい。ルーカスとジェシカ、幸せそうな二人をみんなが祝福している。
「「……ジェシカセンパイオメデトウゴザイマス……」」
「一件どころか数件落着だな。良い良い」
国王陛下のその言葉で大広間には笑い声が響いた。
お父様、お母様。 わたしはとても幸せです。
——おわり——
後日談
国王陛下「レオナルド。東の国から取り寄せたという豆についてなのだが……」
レオナルド「すぐにご用意しましょう」
国王陛下「うむ……、頼んだぞ……」