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ソフィア視点→ウィリアム視点
「ソフィア……。ずっと話したいことがあったのだけれど……聞いてくれる?」
「もちろんよ、エマ」
わたしたちはランチボックスを用意してもらい、王妃殿下の庭園にある、薔薇の彫刻が施された可愛らしい白いガーデンテーブルセットに座り昼食を摂っていた。
吹き抜ける春の暖かい風が優しく頬を撫で、とても心地良い。
昼食を終えたところで、エマが意を決したように話し出した。
きっとレオナルド様とのことね。わたしは姿勢を正してエマに顔を向けた。
「あの……あのね。わたし、ずっとお慕いしている方がいて……」
普段は冷静な彼女が、真っ赤な顔をして震えている。わたしは笑顔で続きを促した。
「……その方には結婚を約束していた女性がいたのだけれど、いろいろあって別れたの。でも彼がその女性と仲睦まじかったことは有名だから、彼はその女性への想いを断ち切ることはできないんだと思っていたの……。それでもわたしは彼が好きで、二番目でも良いからってずっと想いを告げていたの。ずっと……。そうしたら彼が『待たせて悪かった。愛してる』って言ってくれて……」
わたしはアンナとレイラが話していたことを思い出した。彼がエマに想いを告げた場面を、彼女たちは偶然聞いてしまったのだ。
エマはいつからレオナルド様を想っていたのだろう。わたしたちの婚約が解消される前から……? どちらにしろ、エマはずっと苦しかったはずだ。
「ソフィア、ごめんなさい。ソフィアの状況をわかっているのに、わたしだけ幸せになるなんて……。でも……本当にごめんなさい。わたし彼と幸せになってもいい?」
大切な親友の幸せな報告。わたしは声が震えないように意識する。
「もちろんよ。謝ることなんて何もないわ」
——前に進むって決めたじゃない。もうわたしには彼の幸せを祈ることしかできないのだから。
「おめでとう。あなたたちが幸せなら、わたしもとてもうれしいわ」
***
「ウエロスニア王国の歌劇団ですか?」
わたしはカップにお茶を注ぎながら王妃殿下に尋ねた。
「ええ。各国を回って公演しているのだけれど、ちょうど今、我が国にヘンリー王太子がいらっしゃっているから拝謁したいんですって」
木々が新緑に包まれ、花々が美しく咲き誇る王妃殿下の庭園。日差しが暖かい今日は、王妃殿下は王子殿下と庭園でのお茶会を楽しまれている。
「今回のお話は騎士と王女の恋愛物だそうよ。見せ場は騎士と追手の戦闘シーンなんですって」
王妃殿下は優雅にカップを傾けながら、そう説明してくれた。
「そのために謁見を兼ねた劇の短縮版を訓練場で披露することが決まったのですね」
エマが納得したように頷きながら言った。
近ごろ人々の間では、ウエロスニア王国の歌劇団が大きな注目を集めている。騎士と王女の恋愛劇は、どこの国でも人気の演目だ。
「やっぱりソフィアも騎士が好きなの?」
王子殿下が上目遣いで問いかけてくる。その仕草があまりにも可愛らしくて、思わず胸がきゅっとなる。
我が国の王子であるエドワード殿下は、わずか十歳にして聡明であり、学問だけでなく体術においても師たちから高く評価される、将来有望な王子である。
普段は落ち着いていて大人びて見えるのだけれど、王妃殿下の前では幼い子供が甘えるような仕草を見せて、とても可愛い。
「そうですね。日々鍛錬に励んでいらっしゃる騎士様は素敵だと思います」
わたしがそう答えると、エドワード殿下は顔を赤らめながら、恥ずかしそうに言った。
「僕は王子だから騎士にはなれないけど、騎士よりも強くなるよ! そうしたらソフィア、僕のお嫁さんになってくれる?」
「まぁ、エドワード殿下。ふふ。わたくしを妻に迎えてくださるのですか?」
「待ってて。僕、負けないから!!」
エドワード殿下がニコッと笑ってそう言うと、王妃殿下は「血って恐ろしいわ……」とつぶやいた。
本当だ。王妃殿下やレオナルド様と同じ金髪に青紫の瞳、そして従兄弟ということもあって、エドワード殿下の笑顔は幼い頃のレオナルド様にそっくりだ。
「エド、算術の時間だったわね? 戻りましょうか」
「はい。母上」
王妃殿下と王子殿下のお茶会は終了となり、わたしたちは茶器を片付け始めた。
「あ! エマ先輩、それはわたしが持ちますね」
「転んだりしたら大変ですからね! わたしたちが運びます!」
「え? ありがとう……?」
エマの妊娠は既に広く知れ渡っていた。レオナルド様は生まれてくる我が子を心待ちにしているらしく、彼が市井で子供用品を買い求める姿が頻繁に目撃されている。そのため、この一件は瞬く間に多くの者の知るところとなった。
しかし、皆、発表があるまでは静観しようと、さりげなく気を配っているのだ。
***
ウィリアム視点
「何なのアレ?」
「例の侍女ちゃんに会えないみたい」
「恋する乙女かっ!!」
「落ち込んじゃってー」
俺はヘンリーの部屋のソファーに座り、頭を抱えていた。
あれからソフィア嬢に会っていない。と言うか会えない……。
以前彼女に会った庭園へ行けば会えるかもしれないと思い向かってみたが、あの庭園は王妃殿下の専用庭園で、許可のない者は立ち入りを禁じられていた。
知らぬこととはいえ立ち入ってしまった事実に対し、俺はヘンリーを通じて謝罪の場を設けてもらい、国王陛下と王妃殿下にお詫び申し上げた。
国王陛下と王妃殿下は実に寛容な方で「知らなかったのだから謝ることなんてないのよ」と、まるでこちらが謝罪を受けているかのように仰っていただいた。
もしかしたらその場に王妃殿下の侍女である彼女がいるかもしれないと淡い期待を抱いたが、そこに彼女の姿は無かった。
俺は時間を見つけては騎士団訓練場を借り、イローリス王国の騎士たちに混ざって鍛錬している。
そこで彼女によく似た銀髪と紫の瞳を持つ騎士に驚き、思わず尋ねてみたのだが、彼女は王妃殿下の侍女とはいえ王妃の間専属の侍女であり、王宮内で会うことは稀だということだった。
彼女に会うためにはどうしたらよいものか……。
はっ! また俺は何を考えているのだ……!!
今は余計なことを考えている場合ではない。数日後には、我が国の歌劇団が訪問する予定だ。だが、それが第二王子派の罠であることは疑いようもない。おそらく劇団員に扮した刺客を紛れ込ませ、ヘンリーの暗殺を狙っているのだろう。
歌劇団の訪問が第二王子派の罠である可能性が高いことはイローリス国王に報告し対策を講じているが、下手をすればイローリス王国との戦争に発展しかねないというのに、なんとも理解に苦しむ策だ。
イローリス王国相手では我が国に勝ち目はない。国力も軍事力も違いすぎるのだ。この国は強い……!!
俺は先日、この国の第一騎士団副団長である男と手合わせしたのだが、情けないことに全く歯が立たなかった。
彼は膝をついてしまった俺に対しても隠すことなく殺気を向けていた。騎士団長の制止がなければ殺されていたかもしれないと思うほどだ。
それに、男の俺でも一瞬見惚れるほどの美しい顔立ちだった。まさに天が二物を与えたと言うほかない。
俺もウエロスニア王国王太子の近衛騎士だ。負けたままではいられない。
俺は立ち上がり拳を握った。
「訓練場に行ってくる」
「「「「…………」」」」




