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私のシンゾウ  作者: 駄犬
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同窓会

「はぁ」


 これで何度目の嘆息だろうか。口を開いた数だけ湿りを吐き出す私の身持ちは、傍目に見れば厄介な人間としか映らず、慰めや同情の言葉を送る殊勝な他人など、恐らく今生に於いて現れないだろう。過去に友人と呼んでも齟齬がない人物はいたものの、社会に漕ぎ出した直後から、親しさを持って付き合うような人間関係の構築に縁遠くなった。年越しに際して始まる始める除夜の鐘を聞きながら、晩婚化が進む国民の一人として、マンションの一室でしずしずと頭を白く染めていく姿を想像する。


「どうするか……」


 この独り言は、悲劇的な人生の末路をどのように回避するかについて思案したものではない。同窓会に顔を出した際に起こり得る、あらゆる状況を頭の中で繰り返し思い描き、悔恨となって私を苦しめるかどうかの精査を行っている最中の相槌であった。陰鬱な学生生活を送ってきた人間ならではの悩みに違いなく、こんこんと思い詰める私はまさに、名前を与えられていない端役そのものであった。「うん、うん」と喘ぎ声を発しているうちに、全身に血が巡り始め、著しく鈍化していた頭が前傾姿勢となると、能動性を帯び出した。それは、結論をなるべく先送りしようと考えていた同窓会の出席と向き合う為の活力を生み、あれほど忌々しく思っていた“同窓会”の文字をそぞろに炯々たる眼差しで眺めていた。


「……」


 返答は至極簡単である。それでも、遅々として文章作成に指が動かない。今し方の威勢は湯冷めしたかのように剥落し、指の動作に不備が生まれていた。私は半ば無理矢理にスマートフォンの画面上で指を動かす。


「スケジュールを確認したのですが、予定が空いていたので、出席できます」


 業務連絡になぞらえた無機質な文章を、一時間もの時間を使って拵えた。労働を終えた直後の疲労感が額を拭わせる。そうすれば、拳をハンカチ代わりにした右手は脂汗で濡れて、テラテラと部屋の照明を照り返す。人生の岐路となる再会を果たすかもしれない。そんな楽観的な考えも少なからずあった。だがそんな矢先に、件のニュースがテレビの画面を占領した。


「閑静な住宅街に現れた凶刃」


 誰もが目を疑い、本当に刺殺を図った犯人であるかの確認に走ったはずだ。“彼女”が世間を賑わす事件のニュースの首謀者として、メディアの寵愛を受けるなど誰が想像しただろうか。


 同窓会という名の郷愁に酔いたいだけの束の間の時間は、彼女が一体どういう人間であったかの確認作業に充てられる。私はそう思い、少しだけ上向いていた気持ちが、下降気味になりつつあった。何故なら、起きた事件に対する見解を投げ合う内に、次に犯人としてメディアを騒がせるのは誰かという、きわめて性格の悪い話題に飛び火し、素性が曖昧な私に目配せを送る様が目に浮かぶからだ。肩身の狭い思いをするのは既定路線となり、ひいては彼女と友人関係にあったとなれば、なおさら憂き目に遭うことは明白だ。同窓会は再び、私にとって厄介な行事となった。

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