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可愛い子フェンリルには旅をさせよ

「クロ、うるさいのがいなくなってよかったわね。」


 ジュンさん酷い。


 クロは今ジュンさんの膝に乗って茹でたオーク肉を食べている。ダンジョンのモンスターを食べさせるとダンジョン内にいなくてもクロとシロは成長するということに気付き、最近は可食モンスターの肉を買ったり狩ったりしている。

 高位ランクの肉の方がいいんだけど、急に大きくなるのも寂しくて悲しいのでドラゴン肉はまだあげてない。


「ポーション、随分と大盤振る舞いしたわね。」


「シロに何かあったら困りますから。」


「まあ、今のうちに躾けておくのが肝要よ。」


 それはそうなんだけど。わたしの理想は颯爽としては凛々しく頼りになる相棒だ。駄犬ルートは排除したい。


「シロもかわいいけどね。昔のソヨウみたいで。」


「ソヨウさんですか?」


「あの無邪気なところも、自分の可愛さを理解してあざといところも、猪突猛進なところも、ソヨウみたいよ。」


「なのに何故あんな邪険に……?」


「最初はソヨウにもそうだったのよ。その上、悪戯好きで、飛んだ悪童だったわ。躾して、アタシには従順になったけど。」


 悪戯好きなのは聞いてたけど。ジュンさんが躾したのか。ジュンさんの躾など想像するのも怖い。


「ゼーキン家……竜人の末裔で初めて完全竜化出来る子孫だったからねぇ。ゼーキンのおじじ様もソヨウを目に入れても痛くないってくらい可愛がってたし。番以外には相貌を崩さないで有名なあの堅物無表情ジジイが。」


 悪口だった。バルトのご先祖様で先代ゼーキン家当主だよね。本物の竜人だ。


「だから初めて会った時は我儘で。どうしようもないクソガキだったのよ。だけど誰にでも分け隔てなく我儘だったからね。おねだりが上手いのよ。アタシはそこんとこ容赦ないからね。それで指導のお鉢が回って来たってワケよ。」


「マ総統はどうだったんですか?」


「あの二人は混ぜたら危険ってヤツね。でも、ヒューマンの社会で生きる強大な力を持つ者の心構えってモノはあの方から教わってたわね。」


 ヒューマンの社会で生きる強大な力を持つ者。バルトもそうだし、モンスターだけどクロとシロもそうだ。わたしには分からない世界だけど、二人も夏の旅行でマ総統から何か得るものがあるといい。


「ただいまー。いい匂い。」


「ただいまぁ!お腹空いたぁ!」


「メニちゃん、シーラちゃん、おかえり。」


「あ、ショウコ!ダンジョンでシロに会ったよ〜!」


「ホント?どうだった?」


「ジンさんに可愛がられてた!いや、アレは死んだな!心が!」


「心をポッキリ折ってくことで有名なジンさんだからね。シロ、シッポ巻いてたもんね。」


 本当に大丈夫なんだろうか。不安。


 そしてシロが帰って来る日になった。ジンさんとは支部で待ち合わせしている。


「でか!」


 シロ、シロがでっかくなってる。成長は一瞬でも見逃したくなかったのに。見た目は真っ白な……あれ何ていう犬種だっけ。そうだ、シベリアンハスキーとシェパードを足して割ったような姿。


「まだまだ幼体だよ。全然子ども。それでもかなり知能は上がったし、力も上がったと思うよ。私の推定だけど、熱操作レベルは20近く上がったんじゃないかな?」


 なんと。急成長である。


「熱操作の使い方自体は魔法が使える人に指導してもらった方がいい。出力は上がったけどコントロールを教えるのは私じゃなかなか難しいから。バルトは……使えないんだもんね。ジュンさんに頼んでみたら?」


「そうしてみます。ありがとうございました。」


「来週、一度一緒にダンジョンに潜ろうか。どんなことが出来るようになったか実際に見てもらった方がいいから。レポートはコレね。シロ。教えたこと、忘れないでね。」


 頭をクイと上げる。コマンドまで仕込んでくれたのか。わたしたちが教えても一度褒められるとそれしかしないというはしゃぎっぷりだったのに。

 それにわたしに飛びついてうれしょんしない。これは大きい。前回は庭だったから良かったけど、室内でされたらどうしようと頭を悩ませていたから。


「ポーションは余らなかったけどマンドレークの粉末は余ったんだ。このままもらっていいんだよね?」


 ポーション、余らなかったの……?


 理由を直接聞くのが怖い。帰ってレポートをじっくり読もう。とっとと退散したい。思わず早口になる。


「どうぞどうぞそちらはお持ちください。あ、これ、お礼のお菓子とポーションです。良かったら受け取ってください。ダンジョンに潜るのは来週の月曜日でいいですか?」


「いいよ。朝八時の便で第一に行こう。」


「分かりました、よろしくお願いします。では、ジンさんもお疲れでしょうから週末はゆっくりお過ごしください。わたしたちはこれで失礼します。」


「警戒してる?」


「何の……警戒ですか?」


「こっちが聞きたいな。前から思ってたけど、ショウコ、私には余所余所しいよね、ずっと。」


 バレていた。バルトがジンさんの名前を出すと不安がるし面倒臭いからあんまり関わらないようにして来ただけなんだが。あと苦手だし。若者の怖がりようを見てわたしの勘は間違っていなかった。悪い人ではないんだけど。


「ま、バルトには嫌われてるから仕方ないかな。最近更に冷たいしね。」


「すみません……。」


「いいよ、番のいる種族は独占欲が強くて嫉妬深いだろう?祖父もそうだからね。祖母を溺愛してる。」


「あ、バルトは今佐山くんのスキルで本能を封印してるんです。」


 信じられないとでも言わんばかりにジンさんは眉根を寄せた。


「アレで?」


「アレで。」


「バルトにも躾をした方がいいんじゃない?」


 は?別に困ってませんけど?いや、困るときもあるけどわたしとバルトの関係は概ね良好である。少なくともジンさんには迷惑をかけてないのでこんなこと言われる筋はない。塩対応は昔からだとコートさんは言っているし、あの態度以外にはバルトは何もしてない。


 何なのこの人。失礼過ぎじゃない?


「わたしは今のバルトでいいです。結婚したら本能の封印も解いてもらう予定ですから。それでは、また月曜日に。シロ!行くよ!」


 寮に戻ると一気に巨大化したシロにみんな驚き、わたしが怒り心頭なことにも驚いていた。


「失礼だと思わない!?」


「いや、ジンさんっぽいよ。」


「いいな!ショウコ、ジンさんに心配されて!」


 は?心配?あれが?


「ジンはおばあちゃん子だからね。身近で見て番の大変さをよく知ってるから。」


「マ家の内孫だからね、ジンさん。単純に、ゼーキン卿の本能でショウコが困ってると思って言っただけだと思うよ。」


 キョウちゃんまでジンさんの味方だった。


「シロ、待て。伏せ。……よし。無駄吠えもなくなったし、精神的に落ち着いたわね。これなら寮に置いといてもいいわよ。」


「シロいいなぁ!ジンさんと二人でダンジョン!うらやましいぞフェンリルのくせに!!」


 いやそれはフェンリルだからだよ。


「にゃん。」


「ばふ。」


「お、クロとシロが和解した〜。」


 クロは大きくなったシロにもビビったりせずによく頑張ったと言うかのように頭をグルーミングしている。


「良かったね、シロ。ありがとね、クロ。」


 そうだった。わたしは二人の母。


 まずはちゃんと、シロを褒めてやらないとな。


「シロ、頑張ったね。大きくなってびっくりしたけど成長してくれてうれしいよ。今日は三人で一緒に寝ようね。」


「ばうん!」


 まだ若干納得がいかないが、今夜はモフモフに癒されよう。明日は領司館に行くし。バルトに愚痴聞いてもらおう。

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