真銀週間(5)
「シロ、今日はパパと寝てね。」
「クゥーンキュゥーン!」
くっ!殺す気か!そのきゅるるんとしたおめめで上目遣いとか!シロの攻撃力、強すぎる!
「カーッ!カッ!カッ!」
だがクロの様子が尋常ではない。ママを取られたと怒っている。なので、やはり今夜はクロを優先したい。
「四人で一緒に……ではいけないのか?」
「うーん、それじゃクロが納得しないと思うんだよね。」
「シャーッ!!」
「キャウン!」
大人が待ったをかけて事なきを得たが、クロはまだイカ耳になって怒っている。シロはクロにもかまってほしい様子でいるのがまだ救いだが、今の状態が続いて二人の関係が拗れてしまうのは困る。
「シロ。お家に帰ればママとも一緒に寝られるからね。今日はパパと寝ような。」
バルトもさすがにこれは無理だと判断し、自室へクロを連れて行った。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
すごい音。クロ、わたしを独り占め出来てご満悦。わたしが子犬を望んだばっかりに、クロを不安にさせてしまった。ごめんよ、クロ。クロのことも大好きだからね。
その夜はたくさんクロを撫でていたらわたしも自然と眠りについた。
「父上。ゼーキン邸の敷地に新しい家を建てようと思います。」
「そうか。あの屋敷は壊すのか?」
「いえ、あそこはあのままで。」
閣下は一瞬動きを止めて、「そうか」と呟いて紅茶を口にした。今日はコノに戻る日だ。バルトに思い入れはなくとも、他の人にはそうではない。あの屋敷はあのままでいる方がいい。そう思えた。
「何時にコートたちは来るんだ?」
「十時には来る予定です。」
「オーショ、子どもたちの相手頼んだぞ。」
「お任せください、父上。」
そうしてやって来たコートさん一家。午前中は遊んで、昼食を共にし、午後出発。コノに着くのは夜になるが、観光しつつ、途中で夕方辺りに温泉街で休憩して温泉に入り、夕飯を食べてからまた運転。眠くならないといいけど。一応、眠気覚ましのポーション買って鞄に入れてある。
「ごきげんよう、オーショック様。」
「ご機嫌よう、デッタ嬢。大きくなったな。もう立派な淑女だね。」
す、すごい。あのデッタちゃんが淑女然としている。いやデッタちゃんはいい子なんだけど、普段の様子と全く違う、上流階級の子らしい仕草と落ち着きっぷりを発揮していて、もうおばちゃんびっくり。
「こんにちは!」
「ラーメ嬢も、ご機嫌よう。」
「なあ!外で遊ぼうぜ!クロ!シロ!行くぞ!」
「わたくしは結構ですわ。」
「そう?じゃあ、行こうか、みんな。」
「え!?オ、オーショック様がいらっしゃるなら共に参りますわ!」
すげえ。完全に恋する女の子になっている。コートさんは下唇を噛んで何か言いたげにしているがキィさんに太ももをつねられていた。
「ムーケイ家と縁を繋ぐには障害が多いな。」
「ウチの娘はお嫁にやりません!ずっと私と一緒に暮らすんです!」
「あ、な、た?」
また始まった。コートさん、ゴズさんの息子のウシーくんにもこんな感じだ。ゴズさんのことは尊敬してるけど、それはそれ、これはこれ、ということだった。キィさんは呆れ果てて、もうコートさんのことは放置することにしたらしい。
「コートは派閥とかに興味ないけどな。」
「私がそう思ってても周りはここぞとばかりに利用しようとするからねぇ。だ、か、ら!デッタはオーショくんのお嫁さんにはならないよ!」
「分かった分かった。そもそも歳が離れてる。オーショもそんな風に見てないさ。」
「ウチの娘に魅力がないとでも!?」
「お前は結局どっちなんだ!?」
全くだ。
デッタちゃんはいつもの毒舌ぶりは形を潜め、オーショックくんの横で寄り添ってウフフオホホと笑っている。
すごい。
デッタちゃん、尊敬する。
「はあ。」
「デッタちゃん、お疲れ。」
「オーショック様に心を向けてもらうためには必要なことだもん。」
「だが、無理をして自分を取り繕わねばならぬような相手と人生を共に出来るか?」
バルト、それ、子どもに言ったらダメだよ。まだ恋に恋するお年頃なんだから。ちょっと早い気もするけど。バックミラーに映るデッタちゃんは不貞腐れている。あ、もしかして泣きそう?キィさんは苦笑しながらミラー越しに首を横に振った。コートさんは全力でバルトの意見に乗っかってる。
バルトもわたしも、お互いに取り繕ってはないな。うん。ない。雅樹には……取り繕い方がよろしくなかったな。うん。これは反省材料にしよう。
自分の気持ちに余裕が出来たんだろうか。雅樹のことは腹は立つけど、佐山くんが調べたニュースはやっぱり気になる。いつか佐山くんが帰る時に、手紙でも渡そうか。だけど、手紙じゃ社会的信用は取り戻せない。結果としてこれで良かったと思ってるけど、わたしは別にこっちに来たくて来たわけじゃない。それを考えると、浮気の報復として社会的制裁はやっぱり行き過ぎてると思う。冷静に考えれば、佐山くんの言う通りだ。雅樹に殺されたわけじゃないんだし。浮気はされたけど。
「ふ、う、う、うぇ〜〜ん!!」
コートさんがしつこくてとうとうデッタちゃんは泣き出した。何故かラーメちゃんも釣られて泣き出す。クロシロコンビは必死に二人を慰めようとしている。
「デッタ、泣くな。兄はオーショにもそろそろ歳の近い令嬢と婚約をと考えている。デッタは歳が離れているから選ばれないだろう。今は辛いだろうが、きっと君にもいい人が見つかる。大丈夫だ。」
慰めになってない。苦手分野なんだから、大人しく黙ってればいいのに。
「バルトおじさんのバカぁぁぁぁ!!!」
ほらみろ、余計泣いちゃったじゃん。何でお前が泣かれて傷付いたみたいな顔してんだよ。コートさんもキィさんにシメられてる。
上流階級って、デリカシーなくてもいいのかな。びっくりだわ。




