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真銀週間(3)

 フリーの冒険者とは。


 職業〝自称冒険者〟だ。


 故に、誰でも冒険者を名乗れる。


 何の話かといえば、バルトの話。


「ゼ、ゼーキン卿が潜られるので……?」


 冒険者ギルド本部にダンジョン入洞許可証をもらいに行ったら受付の職員にすごい怪訝な顔をされた。冒険者は年中無休。まあ、私みたいにカレンダーに沿って休む人も多いけどね。カレンダーに沿うどころじゃないな。ジュンさんの依頼を抜けば週に三回ダンジョンに潜るだけで生きていける。今年は初っ端からいいアイテムをゲットしてるのでかなり納税出来るのではないだろうか。借金ではないがかけてもらった分の税金は早く相殺したい。

 まさか異世界に来て高額納税者になるとはな。人生は分からないものだ。


「ああ。第一に、一泊で。」


 気軽に言ってるけどね。ハイクラスダンジョンだからね。ハイクラスでも上の上だから。あの後、シディーゴ第一もダンジョンの更新があったようだが、本部所属のSランクパーティが普通に踏破出来たという。

 しょっちゅう大幅更新があると面倒なのでボスは倒して来なかったらしい。最下層から出てくる危険性が少なく、アイテムや素材が良いものが手に入る状態を維持するのも冒険者ギルドの仕事だ。


 てなわけで、ポーション類を回収しに、わたしとクロ、バルトでダンジョンに潜ることにした。ポーションはあればあるだけいいものだ。一般販売出来るくらいにあれば、病気の予防にもなるし、医者いらずの治癒師いらず。医者といってもこの世界の医学は薬学に張り切ってるので、簡単な外科手術くらいしかしないらしい。故に、ポーションの備蓄の有無は重要。


 後ろで「また地獄が……」「そもそもマンドレークの下処理も終わってないのに……」と呟いている職員たちがいる。オーク布と金銀財宝でかなり儲けたからポーションはほとんど現物支給にする予定。容量無制限のマジックバッグを持参してるわたしとバルトなので、職員が戦々恐々とするのも無理はない。まあ、そこまで辿り着くとも限らないのだが。


 抜け道に抜け道を継いで中層階を経由して低層階を目指す。わたしのスキルが発動すると毎回悲しそうな顔をするのやめろ。やりづらい。レベル9の気配読めるようになっただろ。


「ショウコ、いる?」


「〝キャンセル〟いるよ〝オールスルー〟」


 何度目コレ。めんどい。


 明後日はカーテン氏のご自宅に伺い、クロの鑑定だ。その前に少しでもレベルを上げようとダンジョンにやって来た。何でだろう。クロはバルトといると自分でわたしのスキル効果を外せる。所有者の移行の問題なのだろうか。モンスターと対峙してキャンセルコールする前にバルトからも可視状態になった。謎である。

 だが、わたしのことは相変わらず見えないまま。クロからも見えないようだ。スキルのレベル上げなので戦闘を多く行わねばならない為、クロはずっと姿が見えてる状態でいるつもりらしい。そんな判断が出来るなんて賢い。さすがウチの子。


「ショウコ、いる?」


「〝キャンセル〟いるよそろそろウザい〝オールスルー〟」


「クロ。ママはパパの気持ちを分かってくれないね。」


「みう〜。」


 文句あんのか。クロも同調しないでくれ。わたしの味方がいない。


 途中、ワーグという大狼の群れと遭遇。ワーグの上位種がフェンリルらしい。間にいくつかいるけど。モフモフが血染めになっていく様は猟奇的だ。よだれダラダラ垂らしてるからあんまり可愛さは感じないけども。南無三。


 そろそろ野営の準備をするかという話になり、少し戻って安全地帯である宝箱のあった小部屋に移動。ワーグの屍の山も通り過ぎる。ワーグは余り綺麗な毛皮ではないので回収しなかった。血染めだしな。相変わらずスライムは何処から湧いてきたのか、屍肉を分解している。道にぎゅうぎゅうにスライムが湧いてるから通りにくいな。バルトとクロがだけど。わたしは間を突っ切って行く。オールスルーだし。日本にいた頃は動物の礫死体でうげえとなってこんなグロなんか絶対無理と思ってたが、強くなったもんだ。慣れってすごい。


 安全地帯に戻り、野営の準備だ。バルトは天幕と、中に入れると天幕ギチギチの巨大ベッドを取り出した。寝袋じゃないのかよ。小部屋も天幕がギリギリ立てられたくらいなのに。何でドヤ顔してるの。ここで何する気だお前。住むのか。ダンジョンに住むつもりなのか。

 違うな。あの顔はやましいことを考えてる顔だ。何故かそういう時には真顔になる。澄ました顔してド変態だよ、この男。ダンジョンで何する気だよ。ヨックバール邸で部屋分けられたのがそんなに気に食わないのかよ。当たり前だぞ。嫁入り前に実家で同じ寝室とか気まずいんだよ。まだ婚約すらしてないんだから。そもそもあの屋敷に自室があんだから、大人しくそこで寝ろ。毎日わたしに充てがわれた客室で粘りやがって。これだから童貞拗らせた男は。そのまま妖精になるまで保存させとけば良かった。


 まあ、追い出してるけど。


「クロ、パパと寝てていいよ。ママ、ちょっとお散歩して来るね。〝オールスルー〟」


「何故だ!?」


 来た道を戻ってスライムの捕食……いや、消化?の光景を眺める。相変わらずふるふると震えながら仕事している。君たちはいつもお仕事頑張ってて偉いね。一心不乱にダンジョンのために生きる社畜のようなモンスターだね。そのふるふると揺れる姿、わたしは結構好きだよ。


 スライム、突いてみたいんだよな。倒したり、乗っかられたりしたことはあるけど。


「〝オールスルーレベル9〟」


 お、突つけた。膜は思ったより張りがない。グニョグニョしてる。張りがありそうに見えるのは中の消化液がパンパンに入ってるからだろうか。みんな、ワーグはおいしいかい。味は関係ないのかな。あー、気持ちいい。この子たち、わたしのことダンジョンの一部とでも思ってるのかな。全く敵意を感じないし、触っても無反応だ。ふるふると震えるだけ。

 うーん、ここまで無反応だといっそ揉みたい。チャレンジしてみよう。おお、ひんやりしてるのかと思えばほんのり温かい。気持ちいい。こういうストレス解消グッズあったな。わたしは瞼を下ろし、モミモミを堪能する。これはいいものだ。


 今日のワーグは中位ランクモンスターで大きな群れだったからクロは結構手間取っていた。最終的にバルトが竜爪で一掃してた……ってなんか駄洒落みたいだな。クロは悔しそうだった。その気持ちが大事だぞ。次はもっとたくさん狩れるといいね。

 図鑑にはワーグではなくフェンリルだとそれはそれは美しい白のモフモフで、毛皮は世の女性の憧れだって書いてあったな。高そう。てか、何故そんな情報を図鑑に書くのだ。冒険者のためか。図鑑というか素材のカタログだもんな。買取価格まで記載されてるし。

 フェンリルかぁ。そういうファンタジーな漫画も読んだことあるけど、大きな犬に包まれて眠るのは少し憧れる。あれだよね?けものの姫の育ての親も似たようなものだよね?跨って疾走出来たら気持ちいいしカッコイイと思う。

 でも、出来れば子犬の頃から飼って躾けたい。それでクロと兄弟みたいに育ってくれたらいいのに。黒いモフモフと白いモフモフがあの丘でじゃれあって遊んでいたらさぞや可愛いことだろう。一頻り遊んだ後はわたしに二匹が駆け寄って来て、撫でて撫でてとグリグリ頭を擦り付けて……


「アンッ!」


 アン?


 目を閉じて妄想しながらスライムを揉み込んでたはずなのに、指先の感触はいつの間にか少し硬めのふさふさの毛皮をグリグリしているような感覚に変わっていた。白いモフモフの小さなわんこがきちんとお座りしていた。


 またやっちまった。

(モンスターの屍骸+スライム)×スキル発動中の祥子の妄想÷ダンジョン=新しいモンスター


という方程式。スライムに埋もれてはいけません。

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