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ダンジョンは危険がいっぱいだけど、全部スルーしていきます  作者: 里和ささみ


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戸川祥子の日常(4)

 部分竜化したバルトの竜爪はクロが目をキラキラさせて見ていた。憧れらしい。これって知能も上がってないか?パパはクロからの尊敬を一身に受けてご満悦。良かったね。

 その晩も領司館に泊まり、翌日。久しぶりにフェイちゃんのいる店に顔を出すことになったので、コノ市街へ行く。しかし、クロは店に入れない。では、誰がクロの面倒を見るのか。


「クロぉぉぉぉぉ!!!!!」


 未だ完成せぬ作業場。そのため離れで暮らしている佐山くんにクロを預けに来た。癒しが必要なメンタル状態らしい。奪い去るようにクロをわたしの腕から取り上げた。どうした。


「依頼が、依頼が多すぎて……クロ、僕はもう疲れたよ……。」


 そのネタ通用しないよ。ここは異世界だ。


「ユキヒト、あまり根をつめてはいけない。体を壊してしまうよ。」


「トゥンク!」


 だからソレは口に出して言うものではないっての。


「スケジュール管理はバッチリですとか前に言ってなかったっけ?」


「あー、急な仕事が入りまして。割がいいんで軽い気持ちで引き受けたんですよね。失敗したぁ!せめてあと三日、いや、二日は納期をもらうべきだった!」


 何だか大変そうだな。顧客情報は秘密なので何の仕事かは分からないけど。


「クロ、お前は俺の横で幸せそうに昼寝してくれてればいいんだ……!それを眺めながら頑張るから!」


「みゅ?」


 抱っこされたまま佐山くんの眼鏡をチョイチョイするクロの可愛さ、プライスレス。


「パパとママはデートだってさ。さ、行こうクロ。俺たちの愛の巣へ。」


 ダメだな、荒み切っている。クロに存分に癒されるといいよ。


 久しぶりの街歩き。最初二人で街に出たときはエスコートだったんだよな。アレは苦行だった。


「食事には早いが、何か見たいものは?」


「服でも見ようかなぁ。バルトは?」


「私のところへ商会の外商が来るからな。それで事足りてしまう。」


 そうだった。おセレブ様め。


「ショウコはそういう買い物の仕方に抵抗があるのか?」


「んー、前職が商会の販売員だからなぁ。どちらかというと商会側の視点というか。ま、でも、自分で見て物を選ぶのは好きかな。」


「そうだったな。ユキヒトは慣れた様子だったが、ショウコは以前あまり喜んでいるようには見えなかったから心配だった。」


「外商さんも大変だからね。かといって、身の丈に合わない買い物なのに、呼んだ以上は何も買わないのは気が引けるし。」


 今は冒険者としての年収がかなりいいので、たまにはそういう買い物をするのもいいんじゃないかと思っている。初めての納税を済ませたが、シディーゴ第一の現物支給分も取られたので貯蓄が結構目減りした。今後はもう少し考えてやりくりしていかないとな。クロという扶養家族も出来たことだし。


「指輪は……欲しい?」


「いらないかな。ダンジョンに邪魔だし。」


「そうか。」


「それよりさ!三月が誕生日だったの、知らなかったんだけど!」


 最悪なことに出張中にバルトの誕生日があった。聞かなかったわたしが完全に悪いのだが、もらいっぱなしは性に合わないので何かプレゼントしたい。


「欲しいものある?」


「ショウコとクロがいてくれれば充分だよ。」


 うれしいけども、そうではない。だけど、何でも手に入る人だから何をあげればいいのやら。ていうかさ。


「自分だってプレゼント、いらないんじゃん。」


「本当だ。まあ、二人がプレゼントみたいなものだから。」


「わたしだってそうだよ。来年からはお互いの誕生日は一緒に過ごそうね。」


 そう言ったらバルトは赤くなって「ああ」とだけ答えた。余計なことはするくせに初々しいな。佐山くんと乙女同盟でも組むといいよ。


「お待たせいたしました、次の方ぁ!ってショウコ。いらっしゃい。領司様も。」


「やっほ、フェイちゃん。久々?」


「出張行ってたんでしょ。お疲れさま。入って。二名様、五番卓ご案内しまーす!」


 いらっしゃいませぇ!と旦那さんとそのご両親が返す。相変わらず忙しそう。


「あ、そだ。これ、良かったら。」


 わたしはフェイちゃんへのプレゼントをマジックバッグから取り出した。酒の空き瓶で申し訳ないが空いてる瓶がコレしかなかったんだよ。突然思いついたから。日本酒の四合瓶を二本持ち歩くのはそこそこ重い。マジックバッグ様々である。


「なあに、これ。」


 口の横に手をやって内緒話のポーズを取って、指でくいくい顔を近付けるように指示するとフェイちゃんは耳を寄せて来た。


「エリクサーとネクターの原液。」


「ええ!?」


「大量にあるから受け取って。あ、フライミックス定食ライスで。バルトは?」


「からあげ定食ライスで。」


「あ、はい。ミックス一丁!カラ一丁!え、いいの?」


「いいの。大量にあるから。」


「なら、もらっておくわ。ありがとう。ショウコって変な人ね。」


 そう言ってフェイちゃんは給仕に戻って行った。


「変かな?」


「まあ、普通は人に無償であげようとはしないな。」


 そうか。ちょっとお裾分けのつもりだったんだけど。今後は気をつけよう。


 繁盛しているのでフェイちゃんとゆっくり話すことも出来ず、そのまま食事を終えて退散。街を歩けば相変わらず注目を浴びるが、不快ではあるが気にしないことにしている。と、露店の軒先に並んだ大衆紙が目に入った。


「あ。」


「どうした?」


「わたしたちのこと、雑誌に載ってる。」


「早いな。何処から漏れたんだ。」


 ウチのギルド内は多分ハンちゃん辺りだな。みんなが察したのもわたしがコノに戻って来たのにその日のうちに寮に戻らなかったから。


「もういいよ。悪いこと書かれてなきゃ。」


「そうか。そろそろクロとユキヒトに何か買ってから帰るか。」


「そだね。」


 そんな、至極平和な休日であった。

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